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可愛すぎるノルウェーのパスポートは警察の予算削減のために実現!? 舞台裏が明らかに

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員
ノルウェーの新パスポートデザインが生まれたオフィス Photo: neue.no
お洒落!ノルウェー新パスポートPhoto: Neue Design Studio
お洒落!ノルウェー新パスポートPhoto: Neue Design Studio

北欧ノルウェーの2つの公共デザインが昨年10月に世界中で大きな注目を集めました。それはパスポートと紙幣の新しいデザイン。斬新で芸術的な新紙幣に引き続き、まるで可愛い手帖のような3色の新しいパスポートデザインが発表された時は、北欧各国、日本や欧米のメディアが「すごい!」と速報しました。

3月13日、首都オスロにあるアストルップ・ファーンリー現代美術館にて、プロジェクトに携わったノルウェー警察やデザイン事務所などが集まり、ノルウェーデザイン&建築センターDogA主催のトークショーがおこなわれました。会場に押し寄せたデザイン学校の学生や業界関係者は、パスポートが発表されるまでの舞台裏と、現在の進行状況の報告に興味深そうに耳をかたむけていました。

パスポートをデザインしたのは小さな事務所

デザイン事務所の担当者ダールストロムさん Photo:Asaki Abumi
デザイン事務所の担当者ダールストロムさん Photo:Asaki Abumi

母国のパスポートをデザインするというのはデザイナーにとっては夢のような仕事。32の応募者から勝ち抜いたのは、5つのデザイン事務所。どこも個性的なデザイン案を提出し、そのレベルの高い競争でトップに輝いたのは、ノイエ・デザイン・スタジオでした。

「ノルウェーらしさで溢れたパスポートにしたかった」と語るのは同事務所でクリエイティブ・リーダーとして働くラーシュ・ホーヴァル・ダールストルムさん。警察はセキュリティ面を最も気にしていた一方、デザイナー集団はパスポートの持ち主や検査官たちが、ノルウェーを冒険しているかのような「体験」面を感じ取れるかを最も重要視していたと、その過程を振り返ります。

ノルウェーのアイデンティティが現れた、絶景の岩場トロールの舌、オーロラ、フィヨルド、雪山、おとぎ話に出てくる有名な「ソリア・モリア城」の絵など、「これぞノルウェー!」という写真を、インターネットで画像検索しながらインスピレーションを集めたそうです。

グーグル画像検索もパスポート案に貢献 Photo:Asaki Abumi
グーグル画像検索もパスポート案に貢献 Photo:Asaki Abumi

「パスポートの新デザインが公式発表された瞬間は、なにも騒ぎにはなっていなかったんだ。誰かがツイートしたのをきっかけに、一気にドカン!」

「国内外のメディアがトップニュースで報道して、ネットでも話題が一気に拡散された。日本の朝番組でも紹介してもらったよ。僕達は普段は事務所でずっと仕事しているような人間の集まりだから、急に全員で電話に出てメディア対応しなければいけなくなって、あわてふためいたさ。今でもまだメディアから連絡がくるね」とダールストルムさんは語ります。

警察がデザイン公募をしたのは、実は予算節約のため!

警察機関も当時の様子を振り返る Photo:Asaki Abumi
警察機関も当時の様子を振り返る Photo:Asaki Abumi

ノルウェー犯罪調査機関Kriposでパスポートのデザイン担当であり、デザイン選考の審査員でもあったモニカ・トゥーヴさんは、「当初はパスポート製作の専門機関に依頼するという選択肢もありましたが、あまりにもコストと時間がかかりすぎると感じました。そこで、デザイン公募という、もうひとつの解決策にあえて挑戦してみることにしました。業界関係者やメディアを巻き込んで、イノーベションを起こしてみることに魅力を感じたのです」とデザイン公募に至った理由を打ち明けました。

「完璧なデザインを期待していたのではなく、将来のパスポートとしてポテンシャルがあるものを私達は探していたのです。それが、ノイエ・デザイン・スタジオでした。インターネットで話題が爆発的に広まった時は、おもしろかったですね」と笑いながら当時を振り返ります。

他のデザイン案も全て画期的。オスロで展示中 Photo:Asaki Abumi
他のデザイン案も全て画期的。オスロで展示中 Photo:Asaki Abumi

ノルウェーの最北端から最南端まで、「旅する」デザイン

世界中で拡散されているデザインの写真は完成版ではなく、現在デザイン事務所と警察が協力体制で、さらに改善したデザイン案を進めています。ノルウェーの最北端にあるノールカップから、最南端のリンデスネスという地点まで、国内を横断できるデザインにする予定だそうです。ノルウェーの何箇所の地域がデザインの舞台となるかはまだ未定。計画が順調に進めば、2017年からノルウェー人は新しいパスポートを手にすることができるそうです。

みんなとは違うことをする勇気が大事

最後に、デザイン事務所のダールストロムさんは、画期的なデザインの成功の秘訣と、若手のデザイナーに向けて、「ほかとは違うことをする勇気が最も大切」と語りました。

Text:Asaki Abumi

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信15年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。ノルウェー国際報道協会 理事会役員。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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