100年後の未来に読むことができる本。ノルウェー「未来の図書館」計画が始動!
100年前の過去から、100冊の本をプレゼントされたら、どうする?
「100年後に、全ては忘れ去られているだろう」。これは北欧ノルウェーで、今でも頻繁に引用されている、小説家クヌート・ハムスンが残した有名な一言だ。しかし、100年後の2114年に、人類が忘れてはいないであろうことがひとつある。「未来の図書館」(Future Library)だ。
100年後の未来の世代への素敵なプレゼント。それは100年という月日の中で、100人の人間が残した100の文章だ。ひとつだけ確かなことは、今この記事を読んでいる私たちは、この100作品を読むことはできないということだ(長寿の薬が開発されていない限りは)。
北欧発祥のパブリックアート計画
これは、スコットランド出身のデザイナー、ケイティー・パターソン氏を中心人物とした、自然・芸術・文学を融合させた大規模なパブリックアート計画だ。2014年から毎年、パターソン氏たちに選出された1人の人物が、翌年に1つの文字作品を、ノルウェーに寄贈する。しかし、誰もその作品を読むことができない、2114年までは。
100作品は、2018年にオスロフィヨルド沿いに建設予定のダイクマン国立図書館(写真冒頭)の「静寂の部屋」に並べられる。それまでは、一般の訪問者はタイトルを知ることはできるが、中身を読むことはできない。「何が書かれているんだろう?」と想像力を膨らませるのみだ。
1人目はマーガレット・アトウッド氏
記念すべき1人目の著者は、カナダ出身の作家マーガレット・アトウッド氏だ。5月26日、書き終えた作品を、大事そうに両手で抱えて、アトウッド氏はオスロにやってきた。
「未来の図書館」の森を散歩
オスロの素晴らしさは、首都でありながら、簡単に森の中に移動できることだ。中心地から地下鉄で20分ほど離れたフログネルセーテレン地区にある森に、私たちはたどり着いた。各国の報道陣、ファンや地元民が集まり、森の中へのちょっと長い「散歩」が始まった。
向かった先は「未来の図書館」と書かれた標識が立つ森の奥。ここには、小さな苗木が1000本植えられている。この1000本は、2114年に100作品が印刷される3000冊の本となる予定だ。
未来の森に立ち、アトウッド氏は嬉しそうに笑顔を浮かべた。ノルウェーでは定番のコーヒーとチョコレートを味わいながら、参加者は地面に座り、アトウッド氏の言葉に耳を傾けた。
ここで強調しておきたいことが、ここまでの森の散歩の「儀式」は、今後の99人の著者にも共通しておこなわれる予定だということだ。考えてみてほしい、日本出身の人物が100人に含まれる可能性は非常に高い。もしかしたら、村上春樹氏が、この森を数年後に歩いているかもしれない(パターソン氏は、親日家で、村上春樹氏の大ファンである)。
自身の過去の作品の一部を朗読した後(ファンにとっては贅沢すぎるサービス!)、アトウッド氏は「未来の図書館」計画について語り始めた。
文字を提供する1人目になってほしいという依頼書が届いた時は、「奇妙だ」と思ったという。家族にやってみるべきか相談したところ、すぐさま「イエス」と即答されたので決意した。
「木の下に本を埋めるの?」
「この本について語ってほしいと、よく尋ねられますが、本の内容は100年後まで秘密という約束があるのです。これは未来への素晴らしいプレゼント。まだ、この計画をよく知らない人もいるので、“木の下に本を埋めるの?”と聞かれることもありますよ」
「執筆中に大変だったことといえば、100年後の読者の立場が想像できないということです。私たちが使う単語や表現は、未来では忘れ去られた言葉になっているかもしれません。通常は、執筆中にそのことを心配する必要はありませんからね」
「未来で100冊の本が読まれるとき、私はもうこの世にはいないので、世間の反応は気にしていません。それよりも、90人目以降の人たちは緊張するでしょうね。10年後に自分の本が読まれて、注目されることが分かっており、読者の反応を目の当たりにするのですから」。
アトウッド氏が両手で大事そうに抱えていた、本が入った箱は、パターソン氏の手に引き継がれた。タイトルは『Scribbler Moon』。月と関係があるストーリーのようだ。
2人目の著者は、デイヴィッド・ミッチェル氏
5月27日、2人目の2015年の著者が発表された。イギリス出身の文学者、デイヴィッド・ミッチェル氏だ。同氏は2016年にオスロを訪れ、アトウッド氏と同じように、森を歩き、未来の本となる1000本の小さな木に囲まれて、完成した作品を寄贈する。今後の98人に、日本出身の著者が含まれる可能性は非常に高い。誰になるか、楽しみだ。
ハフィントンポスト「村上春樹氏にオファーの可能性!? 100年後のノルウェー未来の図書館」
Photo&Text: Asaki Abumi