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オスロでX Games開催が、ドーピング検査を拒否!フェアプレー精神に反するとノルウェーで批判

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員
会場準備が着々と進んでいる開催前日だが… Photo:Asaki Abumi

日本からも出場者、刺激たっぷりの冬の祭典

世界最高峰のウィンタースポーツの祭典ともいわれる、エックスゲームズが24~28日にオスロで開催される。スケートボードやスノーボードなど、複数のエクストリームスポーツを集めたスポーツ競技大会で、ノルウェーで開催されるのは初めて。冬のスポーツを得意とする雪国ノルウェーではオスロ市がスポンサーとなり、大歓迎されているイベントだ。日本からは平野歩夢、平岡卓、角野友基、小野塚彩那が招待リストに並んでいる。

開催直前に残念なニュース

ノルウェー国民も楽しみにしているイベントだが、開催直前で残念なニュースが国内を騒がせている。今回はオスロ市からの約5億円以上の投資により実現したもので、大手テレビ局TV2などが企画進行にあたっている。昨年4月に当時の市議会で提案、10月に可決され、契約書が交わされた。しかし、大事なパートナーであるノルウェースキー連盟が契約破棄を数日前に公式に発表し、裏事情が明るみに出た。

「その方法でドーピング検査、したくない」

主催者でアメリカのケーブルテレビネットワークESPN(ウォルト・ディズニー・カンパニー傘下)が、国際基準でのドーピング検査の一部である「競技会(In-Competition)検査」を拒否しているのだ。アンチ・ドーピング・ノルウェーと世界アンチ・ドーピング機関WADAはこれを激しく批判し、WADAの事務局長ホウマン氏は「クリーンなスポーツ界に誤ったメッセージを送っている」とプレスリリースを22日に流した。

ノルウェースキー連盟は、今回の騒動でノルウェー選手の出場参加に影響はないとしているが、国際基準のドーピング検査がおこなわれないことを強く批判。同時にこのような残念な結果になったことをプレスリリースで謝罪している。

ディズニー傘下のESPNは22日にドーピング検査のルールに従うことを拒否する最終通告をしてきました。検査は、スポーツ界における隠ぺい行為や不正行為を防ぐためのものです。それだけ、そう、たったそれだけのことで、我々は契約を解除することを決めたのです。

スキー大国として知られているノルウェーが、国際的なドーピング検査を無視するような競技に協力することはできません。

出典:ノルウェースキー連盟会長エーリック・ルステ

説得を続けてきたが、理解をえられず

同会長は、関わった政治家や関係者は以前から問題を把握していたと強調。スキー連盟やTV2はこれまでドーピング検査において説得を重ねてきたが、ESPN側に理解してもらうことはできなかったとしている。

ウィンタースポーツに愛着が深いノルウェー国民にとって、国際的な大会でドーピング検査がおこなわれない競技は異常であり、同時に、楽しみにしていた大会が、国が誇るスキー連盟に支持されていないことは衝撃的なニュースだ。

オスロ市が、巨額の資金で、ドーピング検査をしない競技大会を応援?

税金でなる約5億円以上の投資は、スキー連盟との契約が必須条件でもあったため、現在の政治家たちからは、資金の返却や今後のエックスゲームズの大会は支援しないことを求める声も挙がっている。

現在の市議会と同意体制を結ぶ赤党の代表は、「そもそも、ノルウェーのTV2もディズニーも裕福な企業なのに、なぜ経済状態に余裕のないオスロ市が巨額の資金で支援し、彼らは自分たちで負担しないのか?」と、当時の市議会を含めて批判。

政治家たちと関連企業が、メディアを通して責任のなすりつけ合いをしている状態だ。誰もが楽しみにしていた大会だったために、国民のショックは大きい。一連の騒ぎを「恥だ」とする内容で報道するメディアも目立つ。

なぜ、ESPNがここまで頑固に国際基準でドーピング検査を拒否するかは、気になるところである。詳しく検査されると、困ることがあるのだろうか。アフテンポステン紙は、ESPNが拒否したがっている検査対象は大麻やコカインだとしている。

Text: Asaki Abumi

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信15年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。ノルウェー国際報道協会 理事会役員。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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