Yahoo!ニュース

苦手な大会は思い出の地? 錦織圭が危なげなく3回戦へ:BNPパリバ・オープン(インディアンウェルズ)

内田暁フリーランスライター

○錦織圭 63 63 M・ククシュキン

過去の戦績は4勝7敗。最高成績は、昨年残した4回戦――。

改めて言うまでもなく、これらの数字は、錦織がこの大会を他のどこより苦手としていることを明瞭に示しています。本戦で初勝利を手にしたのも、3年前。それまでは4年連続で初戦負けを喫していました。

砂漠の真ん中に広がるリゾート地・インディアンウェルズで開催されるこの大会で、錦織が「どうもしっくりこない」と感じる理由は、ボールとサーフェス、そしてこの土地特有の気候……それら複数の要素の配合にこそあります。

第1の要素は、ボール。大会公式球のPenn社製ボールを、錦織は「他社(自身の契約社のウィルソン以外)なので言えますが」と前置きしたうえで「好きじゃないですね。すごく重く感じます」と告白します。

第2の要素は、多くの選手が「ひっかかる」と言うサーフェス。

そして第3の要素が、砂漠特有の乾燥した空気。さらには、黄色い砂を巻き込み吹き抜ける、インディアンウェルズ名物とも言える強風です。

それらが融合した結果、「ちょっと当てるだけで飛ぶので、コントロールしにくい」うえに、「バウンドするとボールが止まるようになり、高く跳ねる」という、困難極まりないコートが生まれるというわけです。

しかしそのような状況を苦手とするのは、パワーよりもタイミングを重視し、フラット系のショットを得意とするククシュキンも同じだったかもしれません。この試合最初のポイントを相手のダブルフォールトで手にした錦織は、バックの打ち合いでラリーを支配し早々にブレーク。続くゲームでは、バックがネットに掛かる場面が続きデュースにもつれますが、「ならば」とばかりに、今度はスピンを効かせたフォアの強打で抜け出します。

この立ち上がりで主導権を手にした錦織は、強風の中、多少サービスに苦しみ1つのブレークを許すも、3ゲームをブレークし第1セットを奪取。第2セットでは、スピンを掛けて相手コート深くにボールを返し、時にじっくり打ち合いながらチャンスをうかがいます。その機が訪れたのが、3-2からの第6ゲーム。まずは自ら攻めてリードを奪うと、ブレークポイントでは我慢のラリー。その鉄壁の守備に焦れたように、最後は相手のフォアがラインを大きく割ります。その瞬間、錦織は勝利を確信したかのように「ヤッ!」と気合いの叫びをあげました。終わってみれば第2セットは、相手に一度もブレークポイントを与えぬ盤石の展開。試合が進むほどに難しい環境への適応力を発揮した錦織が、「100点満点とはいかないけれど、試合内容はすごく良かった」と自らに及第点を与える快勝を手にしました。

4年連続初戦敗退の後は、これで4年連続の初戦突破。まだ多少のやり難さをにじませるも、「ここ数年に比べると、苦手意識はだいぶ減っている。しっかり我慢しながら自分のテニスを心がければ、だんだん良くなっていくと思います」と、上位進出に自信をのぞかせました。

ちなみに、きっと本人は覚えていないし恐らく意外にも感じるでしょうが、錦織が初めて予選を突破し自力で本選の切符を手にしたマスターズ大会が、このインディアンウェルズ。そのゲンの良さが、そろそろ発揮されるころかもしれません。

※テニス専門誌『スマッシュ』のfacebookより転載。連日テニスの最新情報をお伝えしています

フリーランスライター

編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーランスのライターに。ロサンゼルス在住時代に、テニスや総合格闘技、アメリカンフットボール等の取材を開始。2008年に帰国後はテニスを中心に取材し、テニス専門誌『スマッシュ』や、『スポーツナビ』『スポルティーバ』等のネット媒体に寄稿。その他、科学情報の取材/執筆も行う。近著に、錦織圭の幼少期から2015年全米OPまでの足跡をつづった『錦織圭 リターンゲーム:世界に挑む9387日の軌跡』(学研プラス)や、アスリートのパフォーマンスを神経科学(脳科学)の見地から分析する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。

内田暁の最近の記事