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穂積絵莉/加藤未唯組、僅差で全豪OP決勝は逃すも、見事に果たしたもう一つの「目標」

内田暁フリーランスライター
試合後、第2シードと健闘を称えあう加藤(中央)と穂積(右)

穂積絵莉/加藤未唯 2-6, 6-4, 4-6 マテックサンズ/サファロワ

バックのボレーを相手コートに叩き込むと、穂積はクルリと振り返り、「カモン!」の叫びと共にガッツポーズを振り上げます。その視線の先に居るのは、後衛で19本のラリーを耐え凌いでみせたパートナー。相手がベースラインに下がり2対1の打ち合いになる中、加藤は一打ごとに球種を変え、ボールを散らして巧みにゲームをつくります。その加藤を信頼し、前衛で焦らず、確実に決められる時が満ちるのを息をひそめて待ち……ついに訪れたその機を逃さず、飛び付きポイントをもぎ取る穂積。

第1セットを失った後の、第2セット第8ゲーム――。ブレークした直後に迎えたサービスゲームで、二人は「弱点」であるはずの“前衛・穂積、後衛・加藤”の陣形で、次々にポイントを重ね大会第2シードに牙をむきます。穂積がポーチを決めるたび、あるいは加藤がストロークでウイナーを奪い「ヤッ!」と短く叫ぶたび、客席からも同じ熱量の歓声が沸き起こる。ひた向きな姿と、短期間での目に見える急成長が、見る人々の心を動かしていました。

「絶対に気持ちで引かず、勝ちを取りにいく」と決意し向かった全豪OP準決勝の舞台で、穂積と加藤は自らの言葉通り、第2シードの強敵に一歩も引くことなく渡りあいます。第1セットは経験で勝る相手に奪われるも、1ポイントごとに話し合い、様々なフォーメーションを試み、打開策を模索しながら奪い返した第2セット。その勢いのままに第3セットでも最初のゲームをブレークし、日本ペアが流れを引き寄せたかに思われました。

しかしここで若い二人の前に、世界1位のマテックサンズが立ちはだかります。縦横無尽にコートを駆け、2つのブレーク奪取の原動力となる経験豊富なダブルスの名手。

それでも立ち向かう姿勢を崩さぬ二人は、2-4の窮地から追いついてみせます。

そしてゲームカウント4-4で迎えた、サファロワのサービスゲーム。

30-40のブレークポイントで、穂積は「私的には、今日イチバン」と自画自賛の強烈なリターンを、フォアで深く打ち返します。その球威と深さに射し込まれ、力なく浮くサファロワのフォアの返球――。

その弱々しい打球はしかし、ネットの上に落ちるように白帯をかすめると……ポトリと日本ペアのコートに落ちる。

一瞬の静止状態の後、二人は揃ってボールを追い、シューズを削るように滑りながら必死にラケットを伸ばすも、半歩及ばず……。

「あのゲームを取れていれば、結果も変わっていたのかも……」

後に振り返るこのゲームを奪いきれなかったことが、最終的に勝敗を分けました。

試合直後、ベンチに沈むように座り込んだ二人は、「終わったね」「負けちゃったね」と言葉をこぼすだけで、しばらく放心状態で動けなかったと言います。

「すごく悔しくて。本当に勝ちたかったので」

いつもは浮遊感漂う言動で周囲を和ませる加藤が、「悔しい……しか言えない」と、苦笑いと共に吐き出しました。

そして、そこまでの悔しさを覚える程に勝利を欲した二人の、走って飛んで、滑って、時に転んだ懸命のプレーに、「元気をもらった」「感動した」という声を会場でも耳にしました。

穂積は常々、「テニスで人の心を動かす」ことを、一つの目標にしていると言います。

「次は絶対に決勝の舞台に立って、優勝めざしたい」(穂積)、「いつか優勝したい」(加藤)と声を揃える二人にとって、今回のベスト4は夢半ば。それでも、彼女たちが掲げるもう一つの目標は、今大会で間違いなく成し遂げられました。

※テニス専門誌『スマッシュ』のfacebookより転載。連日テニスの最新情報を掲載しています。

フリーランスライター

編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーランスのライターに。ロサンゼルス在住時代に、テニスや総合格闘技、アメリカンフットボール等の取材を開始。2008年に帰国後はテニスを中心に取材し、テニス専門誌『スマッシュ』や、『スポーツナビ』『スポルティーバ』等のネット媒体に寄稿。その他、科学情報の取材/執筆も行う。近著に、錦織圭の幼少期から2015年全米OPまでの足跡をつづった『錦織圭 リターンゲーム:世界に挑む9387日の軌跡』(学研プラス)や、アスリートのパフォーマンスを神経科学(脳科学)の見地から分析する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。

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