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東日本大震災と人権【連載2】「震災問題に関する国際人権セミナー」から考える

明智カイト『NPO法人 市民アドボカシー連盟』代表理事
東日本大震災の祈り

「東日本大震災と人権【連載1】」では震災時における人権保障について触れました。では、次に「震災問題に関する国際人権セミナー」で報告のあった避難所生活全般について検証してみたいと思います。

避難所生活全般

「東京都やいわき市等の避難所で、人権侵害にあたる対応がなされてきた例」

東京都やいわき市等の避難所で、人権侵害にあたる対応がなされてきた例について東京災害支援ネット(TOSS-NET)の森川清氏より報告がありました。東京災害支援ネット(TOSS-NET)は東日本大震災・福島原発事故の被災者を支援する法律家らの専門家と市民による支援組織です。

(1)東京都やいわき市等の避難所で、人権侵害にあたる対応がなされてきた例

・食事の提供の欠如

・保健衛生面での問題点

・女性、子ども、高齢者への配慮の不足

・プライバシーの無い生活

・支援物資の供給をめぐる問題点(受入れ、配布)

・民間団体/ボランティアグループの立ち入り制限(⇒救援/支援活動の遅れ)

(2)赤坂プリンスホテルでの避難者が余儀なくされている状況

・避難者に対する一方的なルールの押し付け(別紙参照)

・被災者に対する管理の強化(常時名札の着用などのルールの押し付け)

・外部の人との面会の制限

・避難者の自主的な活動の制限

・避難者が希望する外部支援者の活動の制限

(3)避難者向け住宅(応急仮設住宅、公営住宅等)の問題点

・入居時における生活必需品の欠如

・食事の提供の欠如

(4)原発30キロ圏外からの避難者に対する支援の不足

・「自主避難者」と言われる

・避難者に対する住宅の提供が受けられにくい(避難所生活の長期化)

・各種支援の対象外(東電の仮払補償金、義援金、医療費免除、失業給付の特例)

赤坂プリンスホテルで避難者に配布された紙
赤坂プリンスホテルで避難者に配布された紙

「被災者の置かれている深刻な実態と改善の課題」

大震災と原発事故から100日ほど経過したときの被災者、被災地の置かれた状況について全国労働組合総連合(全労連)の井上久氏より報告がありました。被災者、被災地の置かれた実態は深刻であり、人権の観点からも、その克服は緊急の課題でした。

(1)不自由な避難生活

被災者が学校の体育館や公民館などの避難所で集団生活を送り、食事はパンや弁当、入浴や洗濯の機会も不十分、暑さ対策の冷房未設置など、劣悪な環境に置かれていました。避難所生活に耐えられず、電気やガスの止まった被災家屋の2階に戻る家庭もあとを絶ちませんでした。応急仮設住宅の設置促進など、住まいの緊急確保とともに、避難所の環境改善が緊急課題でした。

(2)長引く生活不安

津波被害や原発事故避難などで住まいや仕事、生活基盤の全てを喪失したという被害の甚大さにくわえ、避難の長期化が経済的な不安を広げていました。失業・失職時の生活保障(所得保障)が整備されていないことが問題であり、生活費の不安から抽選で当たった仮設住宅への入居を躊躇する事例も報告されています。最後のセーフティーネットであるはずの生活保障制度も、資産要件等の厳しさから活用は容易ではなく、少なくない自治体で人々の善意の義援金を収入認定し、保護を停止するという事態が起きています。

(3)賃金水準の低い被災地の雇用

被災地では、津波被害や原発事故のため、大量の失業・失職がうまれました、震災復興の公共事業がはじまっても、重層下請け構造のもとで、働く者の手取りは5~6千円という低水準が当たり前でした。自治体の震災臨時雇用も、従来の制度を使ったため、規模が小さいだけではなく、短期の低賃金雇用が一般的です、そのため、これでは生活できないという声が多く出され、住み慣れた地を離れる人々が増えました。生活のために苦渋の選択が強いられている状況でした。

(4)原発事故と広域避難が事態を複雑にした

福島第一原発事故の被害は深刻であり、政府の指示によって避難を強いられた人だけではなく、周辺地域の関連被害も含めて甚大な影響を与えていました。収束の目途もたたないなか、復旧・復興を描き切れない状況でした。原発事故避難にくわえ、津波等による甚大な被害は、かつてない規模の広域避難をうみだしました。個々バラバラの無計画的な遠方への避難で地域のコミュニティも壊され、広域避難者への支援にも様々な困難、複雑さ、格差が生じました。

東日本大震災後の教訓と今後の課題

・被災者の生活再建こそ復興、地域再生の土台である

・復旧・復興を進めるにあたって社会保障の拡充など、今後の社会システムの充実

・再生可能エネルギーへの本格的な転換、省エネ社会の実現、人間復興を大きく位置づけていく

目指すべき人権擁護活動とは?

それではこれら東日本大震災後の教訓と今後の課題を受けて、私たちが目指すべき人権擁護活動はどうすれば良いのでしょうか。「自然災害発生時の被災者保護に関する運用ガイドライン」をもとに検証してみたいと思います。

・自然災害により生じた差し迫った危険にさらされている人々の命、身体的完全性、及び健康は特定のニーズを有する人々を含み、これらの人が居る場所がどこであろうと最大限、保護されるべきです。

・任意であれ、強制的であれ、避難は被災者の命、尊厳、自由及び安全を十分に尊重する方法で行われるべきで、誰に対しても差別的な方法を用いてはいけません。

・避難している人々、または避難させられた人々は、警備/安全の状況が許す限り、被災者自身の居住地の近くにとどまることができるよう支援するべきです。

・被災者が収容され、または受け入れられた一時的避難所、一時的な避難区域に指定された場所は、安全かつ被災者がさらなるリスクにさらされることのない場所であるべきです。避難者の尊厳に配慮した生活環境を提供するべきです。

・食糧を手に入れる権利は尊重され保護されるべきです。

・水と公衆衛生を手に入れる権利は尊重され保護されるべきです。

・避難所に入る権利は尊重され保護されるべきです。

・健康に対する権利は尊重され保護されるべきです。

・緊急避難所から一時的避難所または恒久的住居への素早い移転を可能にする適切な方策を、いかなる差別もなく、できるだけ速やかに講じるべきです。

・生計手段および雇用機会へのアクセスは、経済活動、自然災害により破壊された雇用機会および生計を回復させるプロジェクトと同様に、差別されることなく、速やかかつ包括的に進めるべきです。緊急事態対応の段階において、可能な限り最大限の対策が行われるべきです。

・生計手段および雇用の機会を得られた被災者は、不公正、不健康かつ危険な労働条件から守られるべきです。

(つづく)

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参考文献

関係機関常任委員会「自然災害発生時の被災者保護に関する運用ガイドライン」

発行者:「国内避難に関するブルッキングス・ベルン・プロジェクト」2011年1月

仮訳 責任編集:特定非営利活動法人ヒューマンライツ・ナウ

翻訳協力:ホワイト&ケース法律事務所

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東京災害支援ネット(TOSS-NET)

東日本大震災・福島原発事故の被災者を支援する法律家らの専門家と市民による支援組織です。他団体とも協力しながら、避難所(東京都・福島県いわき市)における相談活動、被災者向けニュースレター・ブログなどによる最新情報の提供、食糧・支援物質の提供などの生活支援活動などを行っています。

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全国労働組合総連合(全労連)

日本の労働組合の全国中央組織(ナショナルセンター)です。

『NPO法人 市民アドボカシー連盟』代表理事

定期的な勉強会の開催などを通して市民セクターのロビイングへの参加促進、ロビイストの認知拡大と地位向上、アドボカシーの体系化を目指して活動している。「いのち リスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン」を立ち上げて、「いじめ対策」「自殺対策」などのロビー活動を行ってきた。著書に『誰でもできるロビイング入門 社会を変える技術』(光文社新書)。日本政策学校の講師、NPO法人「ストップいじめ!ナビ」メンバー、などを務めている。

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