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ブラック企業を超える、「リッチ・ブラック企業」の作られ方

安藤光展サステナビリティ・コンサルタント

リッチ・ブラック企業とは?

先日、はたらくことについて考えさせられるインタビュー、糸井重里「楽しいからこそ、仕事はできる」糸井重里「ブラック企業が生まれる理由」で本質的なブラック企業論があったので、僕なりにまとめてみます。

ちなみに「リッチ・ブラック」とは、印刷系、デザイン系の方はご存知だと思いますが、印刷した時に“より黒く見える、黒色”のことです。まさにブラック企業を超えたブラック企業を表現するのにピッタリなワードです。リッチなのは間違いないですが、お金を持っているブラック企業のことではありませんのであしからず。

みんな「楽しくないから、おカネがもらえるんだ」って催眠術にかかってる気がするんです。「苦しい分だけ、ギャランティーされる」と思い込んでいませんか?

出典:糸井重里「楽しいからこそ、仕事はできる」

ブラック企業という仕組みの極論は、まさにコレなのかもしれません。

社会人ならみなさんわかると思います。お金を稼ぐって大変なことだって。でも、大変でお金をもらわなければ絶対にしたくない仕事って、楽しくはないですよね。しかし、それを本来企業倫理を含む、コンプライアンスとしていいのでしょうか?コンプライアンスは、法令を守るだけではなく、「法令違反を引き起こす恐れのある行動に対して厳正な態度を取る」ことも含まれるはずなのです。ウェブサイトに「コンプライアンスなんとか」を書いているのに、そんな考え方ではねぇ、って思っちゃいます。

企業倫理(ビジネス・エシックス)を大きく内包する概念は、ビジネス・パーソン個人の行動にも適用されます。外面の体裁を整えるだけがCSR(企業の社会的責任)なのでしょうか。経営者だったら、従業員に過大な負荷をかけてそれを良しとする人も多いでしょう。

最小のリソースで最大の利益を上げるのが企業ですから、考え方は間違ってないのですがそれが正解だとは僕には思えません。「苦しい分だけ、ギャランティーされる」はリッチ・ブラックのテンプレートでしょうね。

ブラックを超える(笑)

デザイン事務所は全部ブラック企業ですよ。ブラックを超えているんじゃないかなあ(笑)。ある程度、徒弟的な会社って、みんなそうですよね。でも、ぼくは会社を始めるときに、それをやりたくなかったから、そうじゃないようにしたんです。たぶんなんですけど、ブラックになるのは、やっぱり稼ぎ方がまだ見えてないからですね。デザイン事務所がちゃんとどうやって稼ぐかをわかって、仕事の配分を上手にしていけば、あんなにブラックにする必要はないのかもしれない。ブラック企業って、実際になかを見てみないとわからないですけど、大変だろうなあって思いますね。社長もそこで働く人も、両方が気の毒。

出典:糸井重里「ブラック企業が生まれる理由」

僕もこれは感じていますし、実際そうですよね。会社を立ち上げてわかりましたが、スタートアップ企業のリッチ・ブラックな状況でも、僕の場合は「自分たち数人でなんとかするんだ!」ってモチベーションだけで続けていた気がします。そうやって、正義感の強い真面目な従業員は“辞めたいけど辞めたくない”みたいに変な感じになっていくんでしょうね。そうして、ブラックはリッチ・ブラックとして進化し存続していくという…ね。

僕はかつて、ブラックで有名な営業会社の系列にいました。リッチ・ブラック企業そのものでした。僕は約2年で退職しましたが、ポジティブに考えれば営業の精神論をこれでもかと学んだ気がします。「土日は会社に来るな!でも数字は絶対達成しろ!休んでる場合じゃないだろ!」ですから(笑)。

結果を出せと言われ、土日の閑散とした事務所(100名くらいのフロア)で僕を含めて数人が仕事をしていました。とても宗教的で従業員は疲弊してましたね。それにしても、あそこは業務の割に給与安かった…。1回、営業レコード(過去最高成績)作りましたけど、インセンティブ0円でした…。リッチブラック万歳です…。

ぼくらはつくっている人に、「もっといっぱい注文するから、安くしろ」みたいなことをあんまり言わないんです。だから、たくさん売れたら、工場の人も儲かります。本当はそういうビジネスをどんな企業もやりたかったはずなんですよ。でも、ちょっと油断すると、「もっとまけろ」みたいなやり方に走りますよね。そうなると、たとえば下請けをしている人たちを仲間だと思えなくなっちゃうんです。だんだん敵に見えてくる。ものを買う人が、「もっと安ければ買うのに」っていうときって、たとえ安くても買わないですよ。それは自分のことを考えてみれば、よくわかるけれども。

出典:糸井重里「ブラック企業が生まれる理由」

ブラック企業にとって、従業員って敵なんでしょうね。管理すべき下請けなんでしょうね。少なくとも仲間やパートナーという意識はないでしょう。ブラック企業は、表向きは、従業員の成長のためとか言ってますけど、それって“搾取”ですから。ルーティン・ワークが中心のサービス業は特に。長時間労働がなんか当たり前になっていますよね。そうやって、ブラック企業は更なる進化をとげ、リッチブラック企業になっていく、と。

僕は顧客満足度が高ければ、ブラック企業でもいいと思っている派です。特に20・30代の従業員の仕事に求めることって、「スキル獲得、高給与」の2つだけでしょう。例え、労働時間が週80時間(労働基準の2倍、週6日勤務の13.5時間労働)であったとしても、スキルや給与が得られるならやりたがる人も多いと思いますよ。「やりがい」があるからその企業に勤めている、という人もいるとは思いますが、スキルも得られず、給与も10年で何パーセント上がるの?という状況の中でどれだけ心と体がもつのか、ということも往々にしてあるでしょう。

リッチ・ブラックにも例外があるのか?

外からブラック企業と呼ばれているからって、中の人(従業員)がブラックと思っていないことも多い気がします。「オレがいないとまわらないから」、上場会社という大手の安心感、愚痴りあう仲間たちとの友情などなど、得られないものや、達成感がないわけではありません。すべてにおいて負であるともいいきれない部分もあるのです。また、上場企業で2ちゃんなどで「リッチブラック認定」されている上場企業のW社とかU社とかはCSR先進企業としても有名です。CSRは本来、従業員を含む社会からの要請に応えることなのですが…。難しい話です。

人権CSRの論争?むしろ企業はブラックでもいいのかもという件」の記事の中でも書いたのですが、ブラック企業論は様々な側面があり、ブラック度には“グラデーション”があるのも確かです。企業体単位ではなく、部署や役職ごとにもその濃淡もあると思うし。営業部はブラックだけど、総務は超絶ホワイト、とか。

政府がブラック企業の公表をしたら色々と変わるかもしれませんね。もし、政府の認定を受けられれば、名実ともに「リッチブラック企業」の仲間入りです。「私だけのリッチブラック企業の作り方」のレシピをご存知の方がいらっしゃいましたら、コメント欄でご教授いただけると幸いです。

サステナビリティ・コンサルタント

サステナビリティ経営の専門家。一般社団法人サステナビリティコミュニケーション協会・代表理事。著書は『未来ビジネス図解 SX&SDGs』(エムディエヌ)、『創発型責任経営』(日本経済新聞出版)ほか多数。「日本のサステナビリティをアップデートする」をミッションとし、上場企業を中心にサステナビリティ経営支援を行う。2009年よりブログ『サステナビリティのその先へ』運営。1981年長野県中野市生まれ。

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