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カネボウ美白化粧品問題から学ぶ、クライシスマネジメントとCSR

安藤光展サステナビリティ・コンサルタント

コンプライアンス経営の本質とCSR

今回は、今話題沸騰中の「カネボウ美白化粧品問題」をテストケースとして、コンプライアンス経営の本質とCSRコミュニケーションについて考えてみます。

“ロドデノール”は、様々な安全性試験を実施して厚生労働省より薬事法に基づく承認を得た、医薬部外品有効成分です。しかしながら、“ロドデノール”と上記症状との関連性が懸念されるため、自主回収が適切であると判断をいたしました。

出典:お詫びと自主回収についてのお知らせ

カネボウは上記のリリース発表後、商品の自主回収を始めています。

「薬事法に基づく承認を得た」商品に因果関係が認められたら、今度は、薬事法ってなんだったんだろうって問題にも波及しそう。ともあれ、この時点で監督省庁からの要請ではなく“自主回収”なのです。つまり、企業の対応として法律違反があったわけではないのです。ただ、何でもそうだと思いますが、「入念なチェックしたから100%安全・安心」なものなどありません。

二次不祥事とCSR

もし、最初に被害症例が報告されていた2011年ころから真摯に対応され、「被害のおそれがある」という段階で自主回収に出ていれば、多大な回収費用を必要とすることにはなりますが、一番大切なブランドイメージの毀損は防ぐことができたのではないでしょうか。

出典:他人事ではないカネボウ化粧品の自主回収事件-二次不祥事のおそろしさ

これは、CSRコミュニケーションだけの問題ではないですが、自社商品に欠陥が見つかった(詳細はわからないが因果関係が想定された)場合どう対処すべきなのか。コンプライアンスとは、法令を守る事もそうですが、「法やソフトローを犯すおそれがある」ことを未然に防ぐ企業活動でもあります。社会からの要請に応えるとも言いますね。

絶対すべきことは、事実が確認されたら即回収ですよね、普通。問題があるものを売り続けるって、どれだけ消費者をバカにしてるのかって話ですよ。回収を行わないと何が起きるか。二次不祥事が起きます。「なぜ、問題があることを黙っていたのか?」という問題です。

CSR活動だなんだで作ってきた、コンプライアンスも、即終了。何年もかかって築き上げた信頼がほんの一瞬で消滅します。監視の効かない、ガバナンスというパラドクス。

今回の事例でいえば、まだ詳細はわかっていないにしろ、「あれ? なんかウチの商品って問題あるっぽくない?」と気付いた時点で何からのコミュニケーションがあるべきだったのかもしれません。ブランドを守るには何か特別なことをするというより、毎日の企業活動が重要なんですよね。

カネボウは23日、美白成分の副作用で重い被害を訴えた顧客が2250人になったと発表したが、症状を訴えているのは他にも約4500人おり、被害が拡大するのは確実だ。19日時点で家庭にあると推定される対象商品約45万個の8割を回収したが、販売先はアジア10カ国・地域にも広がり、当初50億円を想定した回収費用が膨らむのは確実だ。それ以上に痛手なのが、ブランドイメージに致命的な打撃を受けたことだ。カネボウの福田浩三マーケティング担当役員も「買い控えを想定せざるを得ない」と現状分析した。

出典:カネボウ:美白化粧品問題 カネボウ離れ深刻 百貨店売り上げ大幅減 親会社・花王株は続落

“ブランド”が壊れる瞬間って、二次不祥事の時が顕著ですよね。

だから車メーカーなんかは、すごく重要な経営局面でリコールしますよね。多大な損失がでますが、不具合を黙っていて、問題の車で事故が多発したら、それこそ、死者が多数でます。そんな二次不祥事を起こしてしまったら、信頼どころではありません。不買運動で済めばいいけど、それじゃ終わらないでしょうね。

僕の個人ブログで以前書いた記事「企業不祥事におけるCSRコミュニケーションの境界線はどこにあるのか」や、「先に謝る、というCSRコミュニケーションは可能か?」でも言ってますが、企業不祥事が発生した場合に、その不祥事から更なる消費者被害、取引先損害が発生する可能性がある場合には、これは公表(当局への報告を含む)しなければならないことは明らかです。

これは経営者の法的責任(善管注意義務違反)につながるところです。当該不祥事発生が消費者を含むステークホルダーの関心事であることは確かです。ここが結構判断がむずかしいところではないでしょうか。

どんな企業でも不祥事は起こすわけでして、私たち消費者の関心は、不祥事が起きた時に消費者の事を“本当に”最優先に考えた対応をしているかどうかがコミュニケーションにおいて重要なのですよね。ちなみに、CSRの国際規格ISO26000では、説明責任の章でこうあります。

自らの決定及び活動が、社会・環境及び経済に及ぼした影響、特にそれらがもたらした重大なマイナスの結果に対して、説明責任を負うべきである。説明責任には、不正行為の責任をとること、また適切な処置をとり、繰り返さないよう予防するための行動をとることも含まれる

CSR報告書では、ISO26000に準拠した企業活動をしていますって言っていたとしても、これが現実の企業経営です。クライシスマネジメントのセオリーは「正論」なのですが、実際行動に移す時には相当の覚悟が必要なのは間違いありません。

ハインリッヒの法則

しかし、難しい。数百万個の化粧品のうち、たった39事例の症例があっただけで、数十億かけて回収はできないでしょう。現実的に。でも2011年に“ヒヤリハット”で事前に、問題の重要性を認識していれば…という思いはあります。よくよく調べてみたら、数千人が重い被害を訴えているそうじゃないですか。まさに「ハインリッヒの法則」発動の瞬間です。数十件の軽度の事故(今回は化粧品使用における症状)があったということは、重大な事故数件が放置されている可能性が大きいのです。

商品回収はしないにしろ、2011年の被害が報告されていた時点で、リサーチくらいはすべきだったでしょうね。詳細情報は今後出てくると思うので、僕も色々勉強させてもらいます。現時点で詳細の情報がないので、何が根本的な問題なのかまではわかりません。

すでに株価急落、買い控えが起きており(そもそも商品の販売がされてない?)、クライシスマネジメントの対応の遅さが露呈していまいました。社長が会見で「対応が遅かった」と言っても、もう遅いです。もし、重度の症状が出ているとされる数千人の治療ができなかったとしたら……?

しかしながら、教訓が多い事例です。決して、他人事と思わないほうが良いでしょう。詳細がどうなるにせよ、企業の消費者対応に関わるコンプライアンス(クライシスマネジメント)の問題として、めっちゃ判断が難しい事例であることは間違いなく、近々における貴重なケースであることは間違いありません。

御社の主力商品・サービスは、本当に、安心・安全なものですか?本当に他人事で終わらせないで下さい。信頼は失くしたら、取り戻す事は、基本できませんから。

サステナビリティ・コンサルタント

サステナビリティ経営の専門家。一般社団法人サステナビリティコミュニケーション協会・代表理事。著書は『未来ビジネス図解 SX&SDGs』(エムディエヌ)、『創発型責任経営』(日本経済新聞出版)ほか多数。「日本のサステナビリティをアップデートする」をミッションとし、上場企業を中心にサステナビリティ経営支援を行う。2009年よりブログ『サステナビリティのその先へ』運営。1981年長野県中野市生まれ。

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