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あなたの会社の“メンタル”は大丈夫ですか?

安藤光展サステナビリティ・コンサルタント
(写真:アフロ)

■「メンタルヘルス」で企業価値向上へ

突然ですが、あなたの会社の「ストレスチェック制度」はどうなっていますか?

「ストレスチェック制度」とは、労働者に対して行う心理的な負担の程度を把握するための検査や、検査結果に基づく医師による面接指導の実施などを事業者に義務付ける制度(従業員数50人未満の事業場は制度の施行後、当分の間努力義務)のことです。

厚生労働省では、今年12月1日の「ストレスチェック制度」施行のためにPR等していますが、あと1ヶ月半しかないし、従業員数が50人以上の企業が対象ということで相当数の企業があてはまる中、モヤモヤ・イライラしている企業担当者も実際多いかと思います。年末に向けて色々やらなければいけないことがあるシーズンでの施行は、かなりハードボイルドですよね…。

何はともあれ、労働安全衛生法に真っ向から対立する“ブラック企業”状態ですらなかなか改善できない企業もある中で、比較的(?)実効性のある労働者保護施策が、どこまで経営効果を見せるか注目されています。

メンタルヘルス対策(心の健康確保対策)に関する施策の概要|厚生労働省

そんなこんなで従業員を取りまく労働環境に注目が集まるわけですが、その中でも今注目されているのが「健康経営」です。

経産省によれば、「健康経営」とは従業員等の健康管理を経営的な視点で考え戦略的に実践すること、と定義されています。企業理念に基づき、従業員への健康投資を行うことは、従業員の活力向上や生産性の向上等の組織の活性化をもたらし、結果的に業績向上や株価向上につながると期待されてます。(「健康経営」は、特定非営利活動法人・健康経営研究会の登録商標)

ざっくりいえば、経営者が従業員とコミュニケーションを密に図り、従業員の健康に配慮した企業を戦略的に創造することによって、組織の健康と健全な経営を維持していくこと、です。不健康な従業員より、健康的な従業員のほうが、業務パフォーマンスが高く業績貢献度が高いことに、反論がある人はいないでしょう。というわけで、最新の動向と事例をまとめます。

ちなみに、経済産業省と東京証券取引所が進める投資インデックス「健康経営銘柄」については、『社員が健康だと、企業も健康になれるのか!? 経産省・東証「健康経営銘柄」』にまとめているので参考まで。

■ストレスチェックの運用方法

結果は、組織の特徴として、性別、部門、職種、役職、勤務形態から比較できるようにしておけば結果を効果的に活用することができます。組織には特有の組織風土というものが存在しますが、ストレスチェックのデータを活用することで、実態に即した組織の傾向やパターンを明らかにすることができます。

出典:厚労省が定めたストレスチェックとは一体なんなのか

今回の労働安全衛生法改正により義務化された「ストレスチェック制度」。ただ義務化されたからイヤイヤ対応するのではなく、せっかくなら経営効果のある取組みにしたもの。人事戦略におけるKPI設定がポイントなのかもしれません。

■健康管理アドバイザー制度

政府は来年度、経営的視点から従業員の健康管理を実践する「健康経営」を中小企業に普及させるため、「健康管理アドバイザー制度」を創設する。このほど経済産業省や厚生労働省、東京商工会議所などによる協議会を設置し、制度内容の検討を開始した。東商において、講座を修了した社会保険労務士などを同アドバイザーの有資格者として認証する方向だ。

出典:健康経営推進にアドバイザー制創設へ―経産省などが協議会

資格制はメリットもデメリットもあると思いますが、まずは政府が本気で動き始めたよアピールにはいいのかもしれません。ただ、認定アドバイザーがどこまで企業に影響を与えるか未知数すぎるので、あたたかく見守っていきましょう。

■KENKO企業会

テルモやNTTドコモなどの企業14社が6月22日に、「KENKO企業会」を設立したことを発表した。同会は、社員だけでなく、その家族も含めた約30万人の健康増進を目指すヴァーチャル健康コミュニティだとしている。同会は、会員各企業がボランティアベースで集い、それぞれの健康管理プログラムやノウハウの共有を行ったり、新しいアイディアを出し合うなど、相互のベンチマーキングを通じてレベルアップを図ることを目的としている。

出典:テルモなど14社が、社員と家族の健康増進を目指す「KENKO企業会」設立

KENKO企業会 設立趣意書」によれば、設立メンバー企業は、ABC Cooking Studio、NTTドコモ、オムロンヘルスケア、協和発酵キリン株式会社、グリーンハウス、第一生命保険、大日本印刷、タニタ、帝人、テルモ、ニトリホールディングス、三越伊勢丹ホールディングス、LIXILグループ、ルネサンス、の14社。

参加企業が増えていけばそれなりのインパクトを、ビジネス・セクターに出せていけそうですね。

■健康の定量的評価

企業の方々と健康経営について議論をする機会も増えているが、その中でたびたび話題に出るのが、施策の成果が具体的に数字で明らかにできないと経営戦略として取り組みづらい、という定量的評価の問題である。

分析結果から言えることは、社員のメンタルヘルス不調の顕在化も、働き方改善施策の成果も、いずれも単年度での影響というより、2年以上のラグを持って業績や生産性に影響が表れており、企業は中長期的なスタンスで取り組んでいくことが重要である。

出典:「健康経営」は企業価値向上に繋がるのか?

大和総研のレポートです。たしかに、単年ですべての影響は計測しにくいですね。特に従業員の“メンタル”部分は、なかなか数値管理が難しそうです。女性活躍推進のプランニングみたいに、ある程度長期的な戦略がどうやら必要になるのでしょう。まだ始まったばかりで、初年度の情報開示は難しいですね…。

■健康が企業に与える影響

世界的にも注目度が高まっている健康経営の導入効果。こうした動きをいち早くとらえ、日本でもユニークな制度が続々と誕生し、運用されている。一例をあげると、2012年に日本政策投資銀行がスタートした「DBJ健康経営(ヘルスマネジメント)格付」。これは、「従業員の健康配慮への取り組みに優れた企業を評価・選定し、その評価に応じて融資条件を設定する」もので、健康経営格付の専門手法を導入した融資メニューとしては、世界で初めての試みである。

出典:健やかに働ける企業が長期的に安定した業績を維持できる理由

CSRでも従業員(女性活用含む)への企業姿勢で、評価される部分もあるので別に不思議な事例はありません。従業員のパフォーマンス・アップも成果ですが、わかりやすい所でいえば、こういうIR的な視点も社内浸透させるポイントかもしれません。

■「健康宣言」に見る企業の健康戦略

社員一人ひとりの健康の維持・増進に取り組む際、どのような姿を目指し、何を重視して取り組むか、といった経営方針を示すことは、取り組みの効率化につながるだけでなく、成果を検証する上でも不可欠といえる。担当者の目はつい個別の施策内容やリソース探しに向いてしまいがちだが、まず優先したいのは、健康増進の戦略的位置づけであり、経営トップのコミットメントであると考える。

大和総研が2014年に実施した「健康経営度調査」において、健康増進に対して経営側の意識が高い企業では、社員の健康増進への意識も高く、また健康関連情報を共有して生産性向上に役立てている割合が高い傾向がみられた。

出典:「健康経営」における経営者のコミットメントの重要性 「健康宣言」に見る企業の健康戦略

他には『取り組みのPDCAを後押しするには、「健康宣言」等による明文化にとどまらず、継続的な経営トップからの働きかけも望まれる。』ともされており、CSRと同じく、トップがどこまでコミットメントするかで大きく潮流が変わりますよ、と。

経営全般にも大きな影響が出ると思われるガイドラインやルール(法律含む)が、続々と登場しているここ数年。

今回ご紹介した「メンタルヘルス」や「健康経営」まわりの話も最低限理解し、自社のCSR活動や人事戦略をブラッシュアップしていきましょう。

といいますか、そもそも従業員への配慮が足りない企業は「ブラック企業」のラベリングをすぐされるので、まず出来る所からでいいので動き出さないと、あとで痛い目を見ることになりますよ!

サステナビリティ・コンサルタント

サステナビリティ経営の専門家。一般社団法人サステナビリティコミュニケーション協会・代表理事。著書は『未来ビジネス図解 SX&SDGs』(エムディエヌ)、『創発型責任経営』(日本経済新聞出版)ほか多数。「日本のサステナビリティをアップデートする」をミッションとし、上場企業を中心にサステナビリティ経営支援を行う。2009年よりブログ『サステナビリティのその先へ』運営。1981年長野県中野市生まれ。

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