Yahoo!ニュース

ディズニーのチケット値上げは既定路線?--ファンこそ読むべきビジネスレポートとは

安藤光展サステナビリティ・コンサルタント
「値上げ」されても満足度が上がるなら許せる!?(写真:アフロ)

■ディズニーランドのチケット値上げ

東京ディズニーリゾートを運営するオリエンタルランドは2月8日、東京ディズニーランド・東京ディズニーシーのチケット価格改定を発表しました。内容は3年連続となる値上げとなっています。

「東京ディズニーランド」「東京ディズニーシー」価格改定について(PDF)

一般ユーザーの中でも大変話題となったようで、Yahoo!ニュースでも様々なビジネス・経済系各誌やブロガー/ライターの方々がオリエンタルランドのビジネスや歴史について論じてました。というわけで、私もその流れにのって「企業価値向上と社会的責任」という視点で、チケット値上げと労働慣行をテーマに運営会社のオリエンタルランドさんについてまとめます。

で、結論からいうと、去年8月に発行された財務情報や経営戦略に関する年次報告書「アニュアルレポート」に、“チケット代値上げ”の示唆することが書いてあるんですよね。ですので驚くことでもないのかなと。(僕は資料を見直して驚きましたが!)

ちなみに、そのアニュアルレポートで、私が専門のCSR(企業の社会的責任)では、「企業価値向上」という“魔法の言葉”があるのですが、オリエンタルランドでも報告書で「テーマパーク価値向上」という“魔法の言葉”を使っていました。さすが夢と魔法の国です。ちなみに、なぜ魔法の言葉かというと、その抽象性から、この単語を使うと何となくポジティブなニュアンスにすべてが変わってしまうということがあるからです。

企業サイドとしては、大変使い勝手が良いフレーズですが、そのために誤解を生むこともあったりなかったり。というわけで、オリエンタルランドの開示情報から、色々な戦略について見てみましょう。

■オリエンタルランドの情報開示

アニュアルレポート|オリエンタルランド

「アニュアルレポート」は2015年8月に発行されており、おそらく2016年も同じ月に最新版が発行されると思われます。

アニュアルレポートでは、「2016中期経営計画」という項目で“体験価値に応じた価格戦略”(新たな価値創造や戦略的価格設定による単価の向上)というビジョンも開示されていますし、普通に考えればチケット価格を下げることはありえないし、チケット以外でもレストランや物販の値上げも示唆していると見るほうが自然でしょう。もしかしたら来年もチケット価格の値上げもあるかもね。

また「社長インタビュー」でも、チケット価格見直しについてふれており、来年以降のチケット値上げを示唆しています。もちろん、ゲストの体験価値向上が前提です。多くのファンの方は、「CSRレポート」や「アニュアルレポート」なんて見ないのでしょうけど、この程度の公開情報でもチェックしてれば十分予想できたことですし、一喜一憂する必要はありません。投資家でなくても、年に何回もディズニーランドに行くような熱狂的ファンの方は、アニュアルレポートは読み物として面白いと思います。

ちなみに、オリエンタルランドのCSR評価についてですが、例えば「CSR企業ランキング」(東洋経済新報社)では、2015年:290位、2016年:253位となっており、総合得点を見ても日本企業で結構がんばっている方の企業、という評価です。

さて、そのゲストの体験価値向上を目指すオリエンタルランドさんですが、定期的に自社の労働問題に関してウワサがでることでも有名です。詳しくまとめます。

■非正規雇用の労働課題

ディズニー値上げ・満足度低下の裏にバイト時給の低迷

上記の記事では、従業員満足度が低下している、という指摘がされています。私も以前に勤めていた経験者にヒアリングしたところ、やはり同様の部分を指摘していたので、本当の話なのかもしれませんね。

東京ディズニーリゾート キャスティングセンター」というウェブコンテンツで、時給から業務内容が書いてありますが、軒並み時給1,000円ですね。専門的なスキル・ノウハウが必要な職種(例えばナース、ソムリエ)も基本時給は1,000円です。マジかよ。ソムリエ資格保有者は日本に数万人しかいません。労働人口的には希少種です。それでも実績や夢のためにディズニーで働きたい、というのであればそれはそれでいいとは思いますが、実家暮らしなどの生活のランニングコストの安い人でないと、さすがに無理っぽいですが…どうなのでしょうか。ただ、よくあるのですが「仕事はお金ではなく“やりがいがあるかどうか”だ」みたいな話もあるので、この価格設定の価値判断はここでは論じません。

いわゆるサービス業店舗(アパレル、飲食店)などは特に非正規雇用の割合が多くなりがちです。非正規雇用が自体が悪い仕組みとは思いませんが、オリエンタルランドの労働問題はよくウワサになるので、少子化を含めた非正規(アルバイト)人材の雇用難から色々と課題が出ているのかもしれません。元従業員の方などの話もヒアリングしている所ですので、このあたりは、また別のタイミングで詳細をまとめたいと思います。

さて、では実際、オリエンタルランドの非正規雇用者はどれくらいいるのかというと、「最新!これが「非正社員の多い」トップ500社 1位イオンは24万人超、日本郵政が2位に」によれば、オリエンタルランドは約2万人の非正規雇用者を抱え、従業全体の比率として82%となっています。本社などのスタッフは間違いなく正社員だと思いますので、テーマパーク内の現場での正社員の割合は1割以下程度になるのかもしれません。

CSRレポートでは、2016年4月より新しい職種を作るなど、労働環境の改善などには取り組んでいるようです。ただし、国際的な企業の社会的責任ガイドラインなどで求められている情報開示がほとんどされておらず、実際に、人権・労働慣行の領域でインパクトや課題があるのか開示書類からはほとんどわかりません。このあたりの情報開示を積極的に行なえば情報の透明性が高まり直接的な批判も減ると思います。

このあたりの開示姿勢はもったいないと思います。せめて最低ラインの情報開示を行なうことで、よりESG/SRI投資(社会的責任を考慮する投資方法)マネーも引っ張れると思うんですけどねぇ。

CSR情報|オリエンタルランド

実際の現場はどうなのよ、という所ですが、私は、直近で去年12月にディズニーシー、先週末にディズニーランドに遊びにいったという“にわか”です。ディズニーランドもしくは関連施設のレストランやホテルの方は、みんなテキパキとお仕事していた印象です。パッと見、スタッフのモチベーション低下というのはなさそうでした。しかし、一部の方をのぞき30代に見えるような人も、時給1,000円で働いていると思うと……。

客目線では、やはり顧客増加による混雑は嬉しいものではありません。正直、いくつかのアトラクションには結構並びました。値上げによって混雑が緩和されるなら…なんてことも思ったり思わなかったり。

とにかく、これらの非財務情報と呼ばれる「人材活用・環境・社会性」みたいな領域の情報は企業の様々な側面を知る重要なものである、ということがご理解いただけるかと思います。

■CSRレポートの意義と意味

というわけで、一般の方はほとんど知らないけど、上場会社や大手企業が発行している「アニュアルレポート」や「CSRレポート」を読むことで、その企業の経営戦略がわかったりするんですよ、という話でした。

CSR関連情報を読んでいると、色々とディズニーランドの今後の動向も予想できたりして楽しいと思います。日本にいる数百万人のディズニーフリークの方には、読み物としても面白いと思いので、レポートが発表されたらぜひ、「IR資料室|オリエンタルランド」から、アニュアルレポート(2016年8月発行予定)とCSRレポート(2016年9月発行予定)を読んでみてください。

今回はオリエンタルランドを例として紹介しましたが、あなたがファンとなっているブランドや企業がありましたら、ぜひ、これらの資料を見てみてください。もしかしたら、あっと驚く情報開示がされているかもしれませんよ?(されてない可能性のほうが大きいけど…)

サステナビリティ・コンサルタント

サステナビリティ経営の専門家。一般社団法人サステナビリティコミュニケーション協会・代表理事。著書は『未来ビジネス図解 SX&SDGs』(エムディエヌ)、『創発型責任経営』(日本経済新聞出版)ほか多数。「日本のサステナビリティをアップデートする」をミッションとし、上場企業を中心にサステナビリティ経営支援を行う。2009年よりブログ『サステナビリティのその先へ』運営。1981年長野県中野市生まれ。

安藤光展の最近の記事