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人類史上初の世界共通目標「パリ協定」が本日発効へ

安藤光展サステナビリティ・コンサルタント
トヨタ環境目標もパリ協定も「ゼロ」がポイント

■世界初の共通目標

2020年以降の温暖化対策の国際的な枠組み「パリ協定」が本日4日に発行されました。200近くの国・地域が参加し、脱炭素社会の実現に向けた世界初の枠組みが始まります。歴史上初の全世界共通の目標ってすごいですね。

で、パリ協定とは、産業革命前からの世界の平均気温上昇を「2度未満」に抑え、平均気温上昇「1.5度未満」を目指す枠組みです。他の主な内容は「各国で削減目標を決める」などで、途上国も先進国も関係なく世界全体で取り組みを行います。

自民、民進両党は11日1日、パリ協定を本日4日午後の衆院本会議で採決することで合意しました。今ごろちょうど手続きをしているところでしょうか。

日本は批准手続きが遅れており、はっきりいって最悪なスタートとなっています。いろいろあるとは思いますが、全世界で合意された取り組みに“遅刻”したということは、様々な話し合いに参加できない、ということでもあります。なんとか巻き返していただきたいですが、どうなのでしょうか。ルール決めの大事な時に日本が発言できない、なんてことは絶対さけたいところです。

パリ協定は、政府や環境系NGOにはすでに有名な枠組みなのですが、本記事では、企業がどのように対応すべきかまとめます。

■環境問題の重大さ

環境問題への対応はそれこそ何十年も議論され日本企業も対応をしてきていますが、未だに解決できていない社会問題の一つです。一応、世界中で対応が進んでいるのに何十年たっても解決しない、もしくは悪化しているとなると、現在の延長線上に、もはや環境問題が解決する道筋は存在しないことがご理解いただけると思います。大きく何かを変えないと何も変わらないのです。

パリ協定はいわゆる環境活動への取り組みをまとめた世界的な枠組みなのですが、実際には各国間で経済的な利害が発生することとなり、不利なルールが採用されてしまうと、日本は圧倒的な劣勢からスタートとなってしまいます。批准が遅れた日本は11月7~18日にモロッコで批准国が開く「第1回締約国会議」で発言権・議決権はないとされてるので、会議では削減目標の条件や目標未達の際の対処策などが議論になるのに日本は異議を表明できないということです。えらいこっちゃ。今後の報道に注目しましょう。

ちなみに環境だけではなく、社会課題全般に対しての世界的枠組み「SDGs(持続可能な開発目標)」という国連の枠組みもあり、こちらも昨年、安倍総理が日本も深く関わると宣言し、今年5月には首相官邸に「SDGs推進本部」を立ち上げたくらい力を入れています。

「環境問題は政治問題」なんて冗談を言われることがありますが、そういう側面も実際にあるので政府関係者の方々には、日本の経済的な損失が大きくなる前に、世界の枠組みを逆に利用してやるくらいの意気込みで対応いただきたいものです。

■企業と環境活動の関係性

企業はどのように対応すべきなのか。それにはまず日本の環境活動の現状を知る必要があります。

例えば環境省「地球温暖化対策」のコンテンツはよくまとまっており、わかりやすいと思います。企業動向としては環境省「環境にやさしい企業行動調査」も参考になります。

以下に2つほど設問を紹介しますが、企業の多くにとっては、環境活動は事業における重要戦略というより、コンプライアンス(法令順守)や社会的責任(CSR)の一部として、受動的に取組んでいるのが現状のようです。環境対応は間違いなく数百社のトップ企業とそれ以外に二極化しているみたいです。

「環境にやさしい企業行動調査結果」(平成28年)より
「環境にやさしい企業行動調査結果」(平成28年)より
「環境にやさしい企業行動調査結果」(平成28年)より
「環境にやさしい企業行動調査結果」(平成28年)より

あとはこちらも環境省の資料ですが「平成28年版環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書」も良い資料です。こちらはものすごい情報量なので、目次を見て優先順位を決めて閲覧することをおすすめします。

では企業の環境への事例はどうか。CSR界隈で有名な取り組みは、トヨタ「トヨタ環境チャレンジ2050」です。成し遂げるべき6つのチャレンジとして、「新車CO2 ゼロチャレンジ」や「ライフサイクルCO2 ゼロチャレンジ」などを発表・コミットメントしています。

車メーカーの他にも建設業界、電機業界など大きなモノ・大量のモノを作る超大手企業は2030〜2050年に環境目標を置いて活動をしています。「環境 2030」もしくは「環境 2050」というワードで検索してもえば、他にもたくさんの企業の例がでてくるので気になる方はチェックしてみてください。

■個人よりも企業

国際的な枠組みですので、一般ビジネスパーソンでも「知らなかった」ではすまされません。リスクマネジメントの観点からも必ずチェックしておきましょう。

もちろん一般ビジネスパーソンでも、自宅等で「省エネルギー」や「一般廃棄物削減(捨てるゴミを減らす)」を進めることで環境活動はできます。しかし企業の事業活動以上に社会的なインパクトはないので、世界単位でみれば企業への監視が当然強くなるでしょう。パリ協定や日本政府が企業にどれだけプレッシャーをかけくるか注目が集まります。

企業の環境活動の詳細については『環境省「環境にやさしい企業行動調査2016」』や『トヨタ、スタバ、アップルも--社会的責任の資金調達手法「グリーンボンド」』という記事にもまとめていますので参考までに。

サステナビリティ・コンサルタント

サステナビリティ経営の専門家。一般社団法人サステナビリティコミュニケーション協会・代表理事。著書は『未来ビジネス図解 SX&SDGs』(エムディエヌ)、『創発型責任経営』(日本経済新聞出版)ほか多数。「日本のサステナビリティをアップデートする」をミッションとし、上場企業を中心にサステナビリティ経営支援を行う。2009年よりブログ『サステナビリティのその先へ』運営。1981年長野県中野市生まれ。

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