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シリアのアサド大統領はパルミラ(タドムル)でのダーイシュ掃討戦の「勝者」として何を語ったか?

青山弘之東京外国語大学 教授
(提供:SANA/ロイター/アフロ)

シリア軍は3月27日、約3週間にわたるダーイシュ(イスラーム国)との戦闘の末、ヒムス県中部のタドムル市全域を奪還した。ロシア軍の航空支援を受けて達成されたこの「勝利」は、同市がUNESCO世界文化遺産のパルミラ遺跡を擁することから、日本や欧米諸国でも広く報じられ、米国、フランスの政府もその「解放」に(渋々とはあったが)歓迎の意を示した。

2015年5月から約10ケ月にわたってダーイシュの支配下に置かれたパルミラ遺跡では、ベル神殿、バール・シャミーン神殿、凱旋門、塔墓が破壊されたほかにも、多くの遺構が被害を受けているとされ、その保全や修復への関心がにわかに高まりを見せている。

シリア政府は、こうした機運を捉え、パルミラ解放を前面に打ち出すことで、「アラブの春」波及以降の「負のイメージ」を払拭し、「テロとの戦い」の貢献者としての存在感を示そうとしている。そして、その一環として、バッシャール・アサド大統領は、ロシアのリア・ノーヴォスチとスプートニク・ニュースの独占インタビューに応じ、パルミラ奪還戦の「勝者」として、紛争解決に向けた自らのヴィジョンを具体的に語った。

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欧米諸国、サウジアラビア、トルコといった国々が「未来のシリアにおいてアサドの役割はない」との喧伝を続けるなか、国内で勢力を回復しつつあるアサド大統領はどのような発言を行ったのか。

以下では、備忘のため、このインタビューにおけるアサド大統領の主な発言内容を紹介する。

なおインタビューは、大統領府が3月30日にYoutube(https://youtu.be/W9rdcMA1-sw)を通じて配信、またインタビュー全文(アラビア語)もSANAが3月30、31日(http://www.sana.sy/?p=361365http://www.sana.sy/?p=361978)が配信した。

難民問題はシリア国外だけの問題ではない…問題の根本はテロだ

「シリア国外に避難した人、そして国内で避難している正確な数字は分からない…。彼らのほとんどはテロリストがいる地域から、安全を求めて国家が支配する地域にやって来る。しかし、問題は数字ではない。問題は、今もなお世界の多くの国が彼らをめぐる問題に対して真摯に取り組んでいないことだ。これらの国は、難民問題がシリア国外だけの問題であるかのように対処している…。それでは問題は解決しない。問題の根本はテロだ。つまり、国際社会レベルでテロと戦わねばならない。なぜなら、テロはシリアだけに関わる問題ではないからだ」。

「我々は危機が終わる前に復興プロセスを開始した。それは、シリア国民が被っている経済的損害やインフラの損害を軽減するためだ…。復興プロセスはこの危機に際してシリアに寄り添ってくれた三つの主要な国に頼っている。ロシア、中国、そしてイランだ。しかし、シリアに敵対してきた国、すなわち欧米諸国は、自国の企業を手先として送り込こもうとすると思う」。

政治移行とはジュネーブ・プロセスにおいて樹立がめざされている「移行期統治機関」ではなく、現行憲法のもとでの「挙国一致内閣」を通じて行われる

「我々は「政治移行」という概念の定義が、ある憲法から別の憲法に移行することを意味すると考えている。なぜなら、憲法は、今後求められることになる政治体制のかたちを表現するからだ。つまり、移行期とは現行憲法のもとで継続されるべきもので、シリア国民の投票を経て、次の憲法に移行すべきだ。そしてそのときまで、我々が行い得ることは、我々の考えでは、政府、すなわち移行期の構造ないしは形態を持つことだ。それはシリアのさまざまな政治勢力、反体制派、無所属、現政府などから構成される政府であり、この政府の主要な目的は、憲法を執行するために活動し、シリア人が投票できるようにし、そのうえで次の憲法に移行することだ。シリア憲法、そして世界のどの国の憲法にも「移行期統治機関」は規定されていない。この言葉は非論理的で、違憲だ…。今日、シリアには人民議会、そして政府と国家を司る憲法がある。だから、解決策は新憲法を準備するための挙国一致政府でなければならない」。

ジュネーブ3会議でのシリア人どうしの対話は「挙国一致内閣」樹立の仕組みを確定することが目的で、4月に改選される人民議会はこのプロセスには関与しない

「(挙国一致政府樹立の仕組みを定めることが)ジュネーブでのシリア人どうしの対話の目的であり、我々はこうした政府のかたちについて合意しようとしている…」。

「(4月13日の投票で改編される)人民議会はこのプロセスにおいて何の役割も果たさない。それは我々と在外の反体制派の間で行われるプロセスだからだ。人民議会は(挙国一致)政府を監視するが、(挙国一致)政府を任命することはない」。

サウジアラビア、トルコ、フランス、英国は、シリア軍の勝利を口実に政治的交渉に条件を課そうとしている

「我々とロシアがそうしようとしている(シリア軍の勝利によってジュネーブ3会議そのものを脅かそうとしている)と疑う者がいる…。しかし、我々は危機解決のためのいかなる機会も逃さないことを目標にしている。それゆえ、この点に関して次のように答えたい。ロシア軍の支援、シリアの友人らの支援、シリア軍の軍事的成果のすべては、政治的解決を加速させるのであって、その逆ではない、と。我々の姿勢は、ロシアによる支援前も後も変わることはない。我々はジュネーブに行っても依然として柔軟だ。しかし同時に、この勝利は、危機解決を妨害する勢力や国に影響を及ぼすだろう。なぜなら、これらの国、とりわけサウジアラビア、トルコ、フランス、英国は現地での(自らの)失敗を口実に政治的交渉に条件を課そうとするからだ」。

「現段階について話すのなら…、もちろん外国軍の駐留は必要だ。なぜなら「テロとの戦い」において有効だからだ…。私はロシアのことを言っているのであって、それ以外の国のことを言っているのではない…。ロシア軍の基地がシリアにやって来ても、それは占領ではない。逆に、友好そして関係の強化、安定と治安の強化になる」。

「ロジャヴァ・北シリア民主連邦」樹立宣言は国民の同意は得られない

「地理的な面に着目すると、シリアは連邦制をとるにはあまりに小さい…。連邦制とは共存できない社会集団がいる場合に必要になる。しかしそのようなことはシリアの歴史においてはなかった。つまり、シリアに連邦制がふさわしいとは思っていない。連邦制を導入するのにふさわしい要素がない…。連邦制をめぐる問題は憲法に関わる問題でもある。憲法は国民の合意が必要だ。しかし、クルド人による連邦制というものに関して、修正されてしかるべき点がある。それは、ほとんどのクルド人が一つのシリアのもと、すなわち連邦制ではなく、政治的な意味での中央集権体制のもとで暮らしたいと考えているということだ。連邦制を望む一部のクルド人とクルド人全体を混同してはならない…。連邦制が国民投票にかけられても、シリア国民の同意は得られないだろう」。

反体制派が誰なのか米国も知らない

「憲法の起草は数週間で準備できる…。時間がかかるのはその審議だ…。我々は国家として現在、憲法を起草し、国民に提示できる。しかし、我々が政治勢力と協議するという場合、この政治勢力とはいったい誰なのか? 我々はそれが誰かも知らない。(スタファン・)デミストゥラ氏(シリア問題担当国連特別代表)にもこのことを質問した。しかし彼も知らないという。米国も知らないという…。サウジアラビアなどの一部の国は、交渉におけるもう一方の当事者をリヤドの反体制派に限定しようとしているが、そのなかにはテロリストがいる。反体制派を一つのイメージとして示さねばならないのなら、つまりそのようなものは存在しないということになる。にもかかわらず、我々は彼らと憲法について交渉するのだ」。

任期終了前の大統領選挙は現下の政治プロセスにおいては提示されていない。選挙には国内外のシリア人が広く参加すべき

「任期終了前の大統領選挙はもちろん、現下の政治プロセスの一部としては提示されていない。提示されているのは(新)憲法施行後に議会選挙があるということだ…。一方、大統領選挙はこれとはまったく異なった問題だ。それはシリア国民がどのような状況にあるかに関わっている。任期終了前の大統領選挙を国民が願望しているかどうかに関わっている。そのような願望があれば、私には何の問題もない。一部の反体制派ではなく、国民の願望に応えるのは当然だ…。大統領は国民の支持なくしては執務を行えない…。原則として、私には何の問題もないが、そうした措置を行うには、政府の意見でも、大統領の意見でもなく、世論が必要となる」。

「大統領が国会ではなく国民によって直接選ばれることが、我々にとって最善だと思う。それによって、大統領がさまざまな政治勢力の影響からより自由になれ、国民全般とだけ関係を築けるからだ。ただし、これは私の個人的な見解だ…。シリア人が選挙に参加する場合、シリアの旅券を持ち、シリア国籍を有するすべてのシリア人が広く参加すればするほど、国家、大統領、そして選挙プロセスを監督する役割を持つ憲法の正統性は高まり、この選挙はより確固たるものになる。選挙はシリア国内にいようと、国外にいようと、すべてのシリア人を対象とするものとなる。しかし、もちろんシリア国外での選挙には実施上の問題がある…。しかし、この問題は、任期終了前の大統領選挙がそもそも提起されていないので、議論されてはいない」。

武器を棄て、国家とともにテロと戦う意思のある武装集団との和解を加速させることが、テロ組織の指定以上に重要

「停戦は比較的うまくいっている…。しかし、我々とロシアにとって、テロ組織に関する評価は変わっていない…。停戦を受け入れ、対話を行おうとするすべての組織、グループを…我々はテロ活動から政治活動に移行した組織だとみなすだろう…。それゆえ、現在、テロ組織を指定することよりも重要なのは、武器を棄てること、ないしはシリア国家やそれを支援する友人らとともにテロと戦う意思のある武装集団との和解プロセスやコミュニケーションを加速させることだと考えている」。

ロシア軍の介入によりテロ組織は後退した

「ロシア軍の介入以前、テロはシリアとイラクで拡大していた。ロシア軍が介入して6ヶ月が経ち、現状はどのようになったか? テロ組織、とりわけダーイシュ(イスラーム国)は後退した。この現状こそ、ロシアが大きな成功を収めたことを示していると言えるのだ」。

「我々はまだ戦いのただ中にある…。テロは依然として強力だ。我々はもちろん、ロシア軍とともにテロの支配地域を縮小させることに成功した。しかし…、依然として外国から多くの戦闘員がやって来ており、トルコ、そしてサウジアラビアなどの国はテロを支援し続けている。つまり、シリア国内に駐留する(ロシア)軍は「テロとの戦い」に必要な部隊より小規模であってはならない」。

西側諸国は、ロシアがシリアに駐留しているのではなく、ロシアがテロと戦い、国際社会において存在感を誇示していることを不快に感じている

「ロシア軍の駐留を不快に感じている当事者は、ロシア軍がテロと戦っているために不快なのだと思う。(ヴラジミール・)プーチン大統領がテロリストを支援するために舞台を派遣すると決心していたら、彼らはプーチン大統領に喝采を浴びせていたろう。西側諸国にとっての問題とはこういうものだ。彼らにとってロシア軍の基地があることが現時点において問題なのではない…。ロシアが政治、軍事、経済などの分野で国際社会において存在感を誇示することを望んでいないのだ…。だから彼らは不快に感じているのだ」。

「(4月13日が投票日の第2期)人民議会選挙は、テロが依然として続いているなかで、国家の存在、国の存在をより確かなものとする」。

テロリストを打倒すれば、トルコのエルドーアン大統領を打ち負かすことができる

「何よりもまずトルコ、そしてまたサウジアラビアは、シリアに対して戦争を仕掛けてきた当初から、すべてのレッドラインを踏み越えていた。彼らが行ってきたことは、当初からすべてが政治面でも軍事面でも敵対行為だった。彼らはテロリストを支援し、彼らに武器を供与するといった方法のほかにも、迫撃砲を撃ち込み、時には直接軍事的に進攻するなどして、直接的な敵対行為に訴えてきた」。

「彼(トルコのエジェプ・タイイプ・エルドーアン大統領)はテロリストを直接支援している。テロリストがトルコ領を通過し、また領内で軍事訓練を行うことを許してきた…。サウジアラビアやカタールからの資金も…もちろんトルコ経由でテロリストに提供されている。ダーイシュが盗んだ石油を売却すると同時に、テロリストを支援するためにシリア軍を砲撃したこともある…。トルコ人テロリストが送り込まれ、シリアでその他のテロリストとともに戦っている…。しかし今日、エルドーアン、そしてサウジアラビアに対する戦争がテロリストを打倒するかたちで行われている…。エルドーアンの軍隊、つまりトルコ軍ではなく、今シリアで戦っているエルドーアンの軍とはテロリストだ。これらのテロリストを打倒すれば…、エルドーアンを直接打ち負かすことができるだろう」。

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリア地震被災者支援キャンペーン「サダーカ・イニシアチブ」(https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』などがある。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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