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釜山国際映画祭レポート(その1) やっぱり韓国の人たちと仲良くしたい。

渥美志保映画ライター

韓国映画好きなら一度は行ってみたい釜山国際映画祭が、今年も開催されました。

私は初参加が5回目で、間に4~5回抜けながらも、それ以外は今回の19回目まで、ほぼ毎回参加しています。なぜかと言うと本当に楽しい映画祭だから。上映本数がアジア最多という映画祭としての華やかさと充実はもちろんのこと、会場は解放感あふれる海辺の温泉地リゾートだし、食べ物はおいしいし、港町の人々は外から来る人に対してもオープンで優しく、毎回「帰りたくなーい!」と思っちゃう映画祭なんですねー。

パーンと花火なんて上がっちゃったりなんかして。
パーンと花火なんて上がっちゃったりなんかして。

映画祭ってマスコミ関係者のためのものでしょ?って思う人も多いかと思いますが、映画やドラマでおなじみの韓流スターたちのイベントも多く、日本からもたくさんの一般の観光客が訪れています。だからユーもきちゃいなよ!って感じで、今回は映画祭レポを2回にわたってお届けしますー。

初回は10月11日公開の出品作『ザ・テノール 真実の物語』をご紹介しつつ、今回の映画祭のキモをお伝えしたいと思います。そうなんです、キモがあるんですよー。

さて物語は、韓国のオペラ歌手ベ・チェチョルと、彼の日本人のマネジメント沢田の関係を、実話をもとに描いています。当初、沢田は「(ヨーロッパ系が主流のオペラ界で)韓国人のオペラ歌手?」とさほど期待していなかったんですが、一目で彼の才能に惚れ込み日本でのマネジメントをやらせてほしいと頼みこみます。

ところが。さあこれから世界へ羽ばたこうというその時に、チェチョルの喉にガンが見つかってしまうのですー。沢田は、手術以降声が出なくなり自暴自棄になるチェチョルを励ます一方で、チェチョルの声を取り戻すために東奔西走し始めます。

よかった!と一安心するたびに次々と出てくる思わぬ事態の中、ふたりは決して諦めずに同じ目標に向かっていきます。人間を救うのはやっぱり人間。不屈のチェチョルもすごいけれど、安易なことは言わず、でも絶対に希望を失わない沢田の前向きさにも心を打たれます。

手なんてつないじゃってー!と違う意味にとらえがち。
手なんてつないじゃってー!と違う意味にとらえがち。

先日この作品のふたりの主演俳優、ユ・ジテさんと伊勢谷友介さんにインタビューした時に、おふたりが作品への出演を決めた理由として声をそろえて言ったのは「今の日韓関係の難しい状況を、文化で超えることができれば」。そしてさらにユ・ジテさんからこの作品が釜山映画祭に出品されること、そして「今年の釜山国際映画祭のテーマは和合なんですよ」と伺ったのですー。

映画祭の開会式は、そのテーマを明確に示していたと感じました。

司会を務めたのは、日本が誇るワールドスター、渡辺謙さん。韓国のこんなに華やかなイベントで、日本人の俳優が司会をするなんて考えられないけれど、よく考えたら謙さんの奥さま、南果歩さんは韓国籍、それも釜山のご出身。映画祭のテーマにこれほどぴったりとくる人物はいません。なんだか妙にハイテンションな(笑)謙さんが「プサン、チェゴー!」と叫んだりして、韓国モードで観客を喜ばせてくれました。謙さん、レッドカーペットでもどの媒体もスルーすることなく取材を受けていました。ほんとにサービス精神旺盛な人です。

映画祭発行「シネ21」には、大興奮の謙さんと「釜山で韓国映画をいかが?」の文字。
映画祭発行「シネ21」には、大興奮の謙さんと「釜山で韓国映画をいかが?」の文字。

中盤、沖縄の歌手、夏川りみさんと、韓国の伝統楽器・ヘグムのコラボレーションで演奏された「さとうきび畑」で、歌いあげられた過去の戦争に対する鎮魂には、一緒に見ていた韓国人の友人ともども、涙が出そうになりました。夏川さんの透明感のある歌声、水を打ったように聞き入る人々、演奏後の大きな拍手。すごーく感動的な場面でした。

そしてオープニング作品として上映されたのは、台湾映画『軍中楽園』。

中国を相手に戦っていた台湾の国民党軍の中にあった従軍慰安所を舞台に、ステレオタイプにとらえられがちな慰安婦たちの様々なあり方を描いた作品です。これを開幕作に選ぶ釜山映画祭の気概とメッセージを、誤解せずに受け止めたいなあと思いました。

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「チェチョルと沢田のような個人的なつながりがたくさんできていけば、きっといい方向に向かっていく」と語ったのは、沢田役を演じた伊勢谷友介さん。それを体現するように、伊勢谷さんとユ・ジテさんはすごーく仲が良く、作品を通じて互いを尊敬し信頼しあっているのがよくわかります。

日本と韓国の関係でニュースが取り上げるのは、関係悪化をあおるようなものばかりだけれど、どちらの国にも仲良くやっていきたいと思っている人だってたくさんいる。もちろん問題はいろいろあると思いますが、国民一人一人が相手を全く知らないまま、それを感情に置き換えてこじらせてもいいことはひとつもないんだよな――と感じた釜山映画祭のオープニングでしたー。来年は皆さんも是非、釜山映画祭で韓国を体験してほしいですー。

明日は映画祭で上映された注目の作品をご紹介しますー!お楽しみに!

『ザ・テノール 真実の物語』

10月11日公開

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映画ライター

TVドラマ脚本家を経てライターへ。映画、ドラマ、書籍を中心にカルチャー、社会全般のインタビュー、ライティング、コラムなどを手がける。mi-molle、ELLE Japon、Ginger、コスモポリタン日本版、現代ビジネス、デイリー新潮、女性の広場など、紙媒体、web媒体に幅広く執筆。特に韓国の映画、ドラマに多く取材し、釜山国際映画祭には20年以上足を運ぶ。韓国ドラマのポッドキャスト『ハマる韓ドラ』、著書に『大人もハマる韓国ドラマ 推しの50本』。お仕事の依頼は、フェイスブックまでご連絡下さい。

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