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キム・ナムギル史上最高のカッコよさ、愛を知らないツンデレ無頼漢

渥美志保映画ライター

10月はほんとにいい映画が多いので「みなさんに是非見てもらいたい!」と【イケメン編】【個性派編】と10本セレクトしたんですが、今回はその中で真っ先に公開する韓国映画『無頼漢 渇いた罪』をご紹介します。主演は日本でもがっちりと固定ファンをつかんでいる韓流スターのキム・ナムギル。正直言うと、キムナム(変に呼び捨て)って演技が自己陶酔系でイマイチなんだよなーとか思ってたんですが、ここ数年は大ヒットドラマ『サメ』や、軽薄な泥棒をコミカルに演じた『パイレーツ』とか、悪くないんですねー。でもってこの作品は、演技も作品の質もキムナムの最高傑作!「ギル」までつけてキチンと呼んでやってもいい!(どんだけ上から)てな気持ちで、紹介してみたいと思いまふー。

キムナム様のファンの方、上から発言ですみません…
キムナム様のファンの方、上から発言ですみません…

物語の始まりはある殺人事件。逃亡犯を追う主人公の刑事ジェゴンは、その情婦であるヘギョンが営む場末のクラブにマネージャーとして潜入し、犯人が現れるのを待ちます。ところがそうするうちに、ジェゴンは彼女を好きになっちまい――って、こうして書くとありがちな話ですが、言うたらラブストーリーなんて物語はどれもほぼ同じなんですよ。男女が出会って好きになり、でも何か障害があって、それを乗り越えて一緒になるのか、ならんのか、っていう。勝負どころはその過程を、どう飽きさせず最後まで見せるのか

この作品の場合、キムナム演じるジェゴンが結構後ろ暗い男で、さらに仕事人間で愛情に興味がない、つまり自分の感情が愛だと気づかないってところがキモです。ダメ刑事な上にダメ男。マジ好みです

キムナム、マジで恋する何日か前
キムナム、マジで恋する何日か前

ジェゴンの過去は描かれませんが、仲間との会話から、どうやら以前の潜入捜査で女性相手に違法スレスレの手段を使ったことがあるようです。真偽は分かりませんが、かつての上司が出てきて「あの時に庇ってやった恩を忘れるな」的なこと言ってますから、何かしらやらかしてはいるんでしょう。プライベートでは離婚もしています(ま、愛を知らないんで)。

でもジェゴンはそうした雑音を完全にスルーして、全く相手にしていません。頭の中は事件の事だけ。でもそこに悪を憎む感情や正義みたいなものがあるわけでもない。チームワークなんてお構いなしの独断専行、自分が生きたいように生きるだけの、クールでハードボイルドなまさに無頼漢なわけです。

タバコふかす姿もハードボイルドなキムナム…素敵じゃないのさ!
タバコふかす姿もハードボイルドなキムナム…素敵じゃないのさ!

一方、うらぶれた年上女ヘギョンを演じるのは演技派女優チョン・ドヨン。『シークレット・サンシャイン』(素晴らしい映画!)で韓国人で初めてカンヌの主演女優賞を獲得した彼女は、パッと目を引く「美人女優」ではないけれど、年をとってもどこか可愛く、汚れ役を演じても汚れきらない女優です。

この作品で演じるヘギョンも、少女の頃に多額の借金を背負わされ、それ以来囲われ者として生きてきたド不幸な「汚れ役」ですが、逃亡中の恋人への一途な愛を貫く高潔さがあり、近づいてきたジェゴンを警戒して寄せ付けません。男たちは安物の服と派手な化粧の「盛りの過ぎた女」を蔑み嘲笑しながら、ことあるごとに足元を見て「タダ乗り」しようとするわけですが、ヘギョンは――たとえ痛い目に遭おうとも――そういう相手にも絶対に屈しない。強さと壊れやすさが同居するチョン・ドヨンの演技がほんとに素晴らしいんですが、その痛々しい純真とプライドにジェゴンはグッときちゃうわけです。わかるわあ。

クラブのマダムなので、何気にスケスケ
クラブのマダムなので、何気にスケスケ

やがてヘギョンも次第にジェゴンを頼りにするようになり、ある晩二人はついに関係を持ってしまうのですが、その翌朝のやり取りがすごくいい

友達のところに住んでいるというジェゴンに、「ここに来れば?」と誘うヘギョンは、その言葉をどう喜こぶべきかわからないジェゴンに、すぐに「私が彼と上海に逃げた後に」と答えます。一方ジェゴンは「一緒になろう」と言いながら、「本気なの?」と尋ね返すヘギョンに、「俺を信用するな(だったかな~、まそんな感じのセリフで)」と前言撤回する。

恋人を裏切れないという躊躇うヘギョン。自分の本音か刑事の嘘かわからないジェゴン。つい口から出た言葉に、自分と相手の気持ちを量りながら、自分はそんなこと言える立場ではなかったと否定するふたりの複雑な心模様が、なんとも危うく切ないんですよ~。くー、悶えるわ!

ヘ、ヘソがっ!
ヘ、ヘソがっ!

普通の韓国映画ならば怒涛のメロドラマ展開になりそうなところですが、そうならないのがこの映画の良さ。そうです、キムナム(てか、ジェゴン)は愛を知らない悲しい男なんです!きゃー好き好き、そういうのが好きなんですよ!私は!(どうでもいい)真実が明らかになった時、ヘギョンとジェゴンの関係はどうなってしまうのか。この気持ちが愛だと気づいてないから、ヘギョンには愛として伝わらない、あああ、なんて不器用なのキムナム!ギル!と、その哀れに、ラストシーンはシビれてしまいました。これは男の人にも絶対に刺さると思うなー。てか私、キムナムのこと全然好きじゃないのに、何この大絶賛。ま、そんくらいいい映画なんで、みなさんも気に入ってくれるといいなあ。

『無頼漢 渇いた罪』

10月3日公開

映画ライター

TVドラマ脚本家を経てライターへ。映画、ドラマ、書籍を中心にカルチャー、社会全般のインタビュー、ライティング、コラムなどを手がける。mi-molle、ELLE Japon、Ginger、コスモポリタン日本版、現代ビジネス、デイリー新潮、女性の広場など、紙媒体、web媒体に幅広く執筆。特に韓国の映画、ドラマに多く取材し、釜山国際映画祭には20年以上足を運ぶ。韓国ドラマのポッドキャスト『ハマる韓ドラ』、著書に『大人もハマる韓国ドラマ 推しの50本』。お仕事の依頼は、フェイスブックまでご連絡下さい。

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