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保守が品格を失う時 / ジェレミー・コービンが炙りだすエリートの悪意

ブレイディみかこ在英保育士、ライター
(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

英国のPMQ(Prime Minister’s Question Time)が面白くなってきた。英国議会では、毎週水曜日正午から30分間、首相VS野党第一党の党首、その他の各党議員との質疑応答の時間がある。BBC2が毎週生中継で放送しており、世論への影響力の大きい番組だ。

このPMQは、政治家というより天才パフォーマーだったトニー・ブレア首相の時代が面白かった。が、彼がいなくなってから、はっきり言って退屈になっていた。

しかし、新労働党党首のジェレミー・コービンが再びこのPMQを面白くしている。

彼は、「PMQは芝居がかった見世物的イベントになり、質問する側も答える側も本気で政策について話し合っていない。僕はこれを根本から変えたい」と発言し、野党第一党の党首として初登壇した日は、一般の人々からネットで募集した質問を読み上げるいう前代未聞のことを行った。

この奇襲作戦は「新鮮だ」と評価されたが、「党首はみなさんからのお便りを読むラジオ番組のDJじゃない」と批判もされた。

こうした目新しいやり方は「新たな政治」を印象づける上では効果的だが、庶民に政治のプロを狼狽させる質問が書けるかというとやはりそれは難しいし、2週目、3週目と続ければマンネリ化してしまう。もともと演説が得意なタイプではないだけに、コービンは「ブレアの模倣品」と呼ばれるキャメロンに舐めきられている印象だった。

が、ここに来てコービンがキャメロンを追い詰め始めた。

潮目が変わったのは高視聴率のテレビの政治討論番組で、観客が泣きながら保守党議員に質問したことだった。この観客は自営業のシングルマザーで、保守党が緊縮政策の一環としてタックスクレジットと呼ばれる子供を抱えた働く人々への助成金を削減しようとしていることを批判し、「私は今年の選挙で保守党に入れました。私や子供たちの未来を保証してくれるのは保守党だと思ったからです。でも、あなたたちは、そんなことはしないと約束したくせにタックスクレジットを削減しようとしている。私は必死で働いて子供たちを育てています。私たちの生活費を助けてくれているのはタックスクレジットです。なのに、あなたたちは嘘をついて私からそれを取りあげるのですか?恥を知りなさい!」と言って客席で大粒の涙をこぼしたのである。それは劇的なシーンだったので大手メディアが翌朝こぞって取りあげた。

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実際、タックスクレジット削減案は「サッチャーの悪名高き人頭税のように保守党政権を弱体化させる」と保守党のベテラン議員たちを危惧させ、下院では可決したのに上院で否決されるという異例の事態になっている。キャメロン首相やオズボーン財相は、所得控除額の引き上げや、保育費の政府負担額の増大などによって、削減による損失額は相殺されると主張しているが、来年4月からの新税務年度での子供を持つ低額所得者の損失は年間1300ポンド(約24万円)になるという試算結果もある。

労働者階級をレペゼンするはずの労働党にとって、この問題だけは引き下がるわけにはいかない。

10月28日のPMQで、コービンは首相に同じ質問を6回した。PMQでは野党第一党の党首は首相に6回質問できるので、彼はそれを全て同じ質問のために費やしたことになる。

「(新たな税務年度が始まる)来年4月から、一生懸命に働いて子供を育てている人々が今より貧しくなるなどという状況にはならないと首相は保証できますか?」

彼は地味だが実直に、冷静に同じ質問を繰り返した。

キャメロンは一度もそれに対するストレートな答えを返さなかった。

「それは所得税控除の引き上げにより…」「保育費援助の引き上げにより…」「保守党が『強い経済』を実現したからこそ国民に仕事が確保され…」とはぐらかすばかりで、相殺策だという他の政策がワーキング・プアの家庭にもたらすという恩恵について具体的数字も示せない。

キャメロンの顔から芝居がかった余裕が剥がれ落ち、唇をかみしめて本気で困っている表情がテレビに映った。それは与党と野党が「お約束」の範疇の中でトムとジェリーのように仲良く喧嘩していた従来のPMQとは全く異質のものだった。

翌週11月4日のPMQでも、コービンはしつこく同じ質問をした。

「首相には1週間考える時間を与えたのですから、今週は答えていただけるでしょう」

と言ってまた同じ質問をすると、キャメロンは

「もし彼が次の5つの質問でも同じことを繰り返すつもりなら、それはエンターテイニングでもなければ面白くもない。それが『新しい政治』なのかどうかは私は知りませんが」

と答え、保守党議員たちがどっと笑った。

すると、老眼鏡の奥で瞳をギラッとさせてコービンが言ったのである。

「これはエンターテイメントではありませんよ。来年の4月から自分たちの生活はどうなるのだろうかと本気で心配している人々にとって、おかしいことなど何一つありません」

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英国では冬はインフルエンザや肺炎や風邪で病院にかかる人が激増し、NHSがパンク寸前になるが、コービンはこの状況を「冬の危機」と呼び、緊縮体制のNHSに今年の冬を乗り切れるのかと質問すると、キャメロンは

「『冬の危機』に直面しているのは労働党だ。彼のメディア・アドバイザーはスターリン主義者で、政策アドバイザーはトロツキストで、経済アドバイザーは共産主義者だ」

と言った。そこからのキャメロンはもう、コービンへの個人攻撃の連発だ

「もしも彼が労働党を左側に移動させたいのなら、FULL MARXをあげましょう(FULL MARKS(満点)とMARX(マルクス)をかけた駄洒落)」

「彼は英軍を絶対に使わないと言っている人だから、こんな人物が政権を取ったら軍人は失業する」

「彼は『クレイジーな社会主義者たち』のシンパだ」

その度に保守党議員たちが地鳴りのような怒号を上げて喜び、コービンが質問をするために立ち上がると凄まじいブーイングを浴びせかける。

コービンはヤジの嵐の中で無言で立っている。議長が保守党議員たちを諫めてブーイングをやめさせるまで、ただ沈黙して紳士的に直立しているので、いったいこれはどちらがエリートでどちらが反逆者と呼ばれてきた左翼なのかという気になって来る。

まともな議論ではなく個人攻撃に走るキャメロン首相も、ディベートのマナーを無視して子供のようにわめき続ける保守党議員たちも、この人たちは本当にオックスブリッジ卒の上流階級の人々なのかというぐらい品がない。また、コービンが決して個人攻撃をしない人なので、エリートたちの剥き出しの悪意がいっそう際立つ。

最初は単なる強者の弱者いじめかと思っていたが、そうではない。キャメロン首相の目にも、ブーイングしている保守党議員たちの顔にも、コービンへの凄まじい嫌悪が見て取れる。彼らはコービンか、またはコービンが象徴する何かを憎悪しているように見える。

何にせよ、この品格を失った保守党は、労働党ではなく自らにダメージを与えている。

一部の右派を除き、メディアも最近のPMQの異常さについて書き始めた

タブロイド紙ザ・ミラーのサイトが行った「今週のPMQの勝者はどちら?」調査ではコービン95%、キャメロン5%という結果が出ている。

在英保育士、ライター

1965年、福岡県福岡市生まれ。1996年から英国ブライトン在住。保育士、ライター。著書に『子どもたちの階級闘争』(みすず書房)、『いまモリッシーを聴くということ』(Pヴァイン)、『THIS IS JAPAN 英国保育士が見た日本』(太田出版)、『ヨーロッパ・コーリング 地べたからのポリティカル・レポート』(岩波書店)、『アナキズム・イン・ザ・UK - 壊れた英国とパンク保育士奮闘記』、『ザ・レフト─UK左翼セレブ列伝 』(ともにPヴァイン)。The Brady Blogの筆者。

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