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阪神タイガース「外野の若虎四人衆」―江越大賀、高山俊、板山祐太郎、横田慎太郎

土井麻由実フリーアナウンサー、フリーライター
阪神タイガースの今年のドラ1・高山俊選手

■若虎が占める外野陣

練習中、ノックバットを振るう中村豊 外野守備走塁コーチの首筋をふと見ると、磁石入りの丸い絆創膏が貼られていた。「そりゃ毎日、ヒヤヒヤですから。試合中…特に守備のときなんてグーッと首に力が入って、めちゃくちゃ凝りますからねぇ」。冗談めかした口調で話すが、神経の消耗が尋常ではないことを、その首筋が物語っている。

外野の若虎たち
外野の若虎たち

今季のタイガースの外野陣には、「超変革」の名のもとに若手選手が積極的に起用されている。さらに4月14日に福留孝介選手が太ももを故障したこともあり、なおのこと若手で占められることが増えた。翌15日からのスターティングメンバーを見てみると、福留選手や大和選手が名を連ねることもあったが、大半は江越大賀選手(2年目・23歳)、高山俊選手(1年目・23歳)、横田慎太郎選手(3年目・20歳)が守っている。そして21日には板山祐太郎選手(1年目・22歳)も1軍登録され、28日に初めて先発出場。その後、着実にスタメンの機会を増やしている。

(なお、横田選手は5月6日に、江越選手は5月8日に出場選手登録を抹消されている。)

■若さが出た顕著な例を二つ

若手選手にとっては日々新しい体験ばかりだ。顕著なシーンが4月29日の対ベイスターズ戦であった。六回、ロペス選手の右中間への当たりにダイブした江越選手は、打球を一度はグラブに収めながらもこぼしてしまった。また同じゲームの九回には倉本選手の左中間の打球を高山選手と横田選手がお見合いした格好となり、後逸してしまった。

初の開幕1軍、開幕スタメンを経験した横田慎太郎選手
初の開幕1軍、開幕スタメンを経験した横田慎太郎選手

いずれも三塁を陥れられたが、どちらも投手の踏ん張りでホームに還すことはなく、ゲームもタイガースの勝利で終えた。

この二つの例を中村コーチに解説してもらった。まず江越選手の場合は「足が速すぎる」ことが要因だという。普通なら追いつきさえもしない打球に、超人的な足の速さで“追いつけてしまった”のだ。ただ天然芝が邪魔をした。天然芝は人工芝と比べて摩擦が大きく滑らないので、ダイビングキャッチした後、グラブが芝に引っかかって体の下に巻き込む形になってしまった。そしてボールは無情にもグラブからこぼれ落ちていったのだ。

「実はこれまでロペスにあの方向の打球はなかった。一度でもあればポジショニングも違ったんだけど。でも、データにないことが起きるのが野球だから」と明かす中村コーチ。「だからといって『しかたなかった。勉強になった』で済ませたくはない。江越には『グラブに入れたのなら、絶対に落とすな』と言いました」。江越選手も「捕ってたんで、あれはこぼしちゃダメですね」と悔しがり、「グラブに当てたら絶対に捕ります!」と鼻息荒く、意気込んだ。

高山俊選手
高山俊選手

高山選手と横田選手の例については、これまた「どちらもが足が速すぎた」という。ただ相手を見ずボールだけを見て一直線にいってしまった。「すんでのところで横田が先に気づいて引いたけど、それならなんとしても止めないと」と苦言を呈する。「簡単な打球ではなかった」と中村コーチも理解している。ただ「センターに優先権があるけどレフトのボール。お互いをちゃんと見ていれば…。3ベースにしたことがいけない。せめて2ベース、いや、シングルにもできた」と振り返る。

こういったときによく言われるのが「声の連携」だが、中村コーチは「それを言うのは素人です」と言い切った。確かに4万6千人を超える入場者の歓声に、お互いの声はかき消される。相手の動きを見ることや、練習からのコミュニケーションが重要となる。

1軍での経験が浅い二人だが、「横田との左中間は何回もやっていますし、『声の連携が…』では済まされない。試合後に横田ともしっかり話し合いましたし、練習するしかないですね」と高山選手も気合いを入れ直し、横田選手も「どっちかが捕ってどっちかがカバーというのを、ちゃんとしないと。練習から意識してやっていきたい」と猛省している。

■4選手それぞれの評価

「守備の評価は難しい。2年、3年やってナンボやから」と渋る中村コーチに、敢えてそれぞれの評価をしてもらった。

江越選手については「とにかく一生懸命する」と褒めつつも、「ひとり抜けてほしいと思う分、淋しいなぁ。もっとどっしりしてほしいけど、淋しいプレーが多いなぁ」と、他の3人と比べて一日の長があるだけに辛口コメントが多くなる。「守備は怖い。怖いからこそ準備が大切。常に3つ以上考えなさいと言っている。点差、イニング、ランナーの状況、他の守備位置…考えることはいくらでもある。その中から3つ以上ね。間違っていたとしても、考えるということが大事やから」。意識を高め、感性を磨くことも求めている。

「いい反応をしたときは、いいスピードが出る」と、守備範囲の広さは認めている。「だけどまだまだ大きく回り過ぎるとか、無駄な動きが多い」とし、さらなるレベルアップを求めている。

高山選手については「やれと言ったことはやろうとするし、やれる。意識も高いし、打球まで早くいこうというのが見えるようになった」と、春先からの進歩を認めている。「(5/5対ドラゴンズ戦の)ナゴヤドームで、弾いてしまいそうな平田のすごい打球をキャッチしたのは見事だった。あれは予測していたからできたこと」と頷いた。それだけに「もっともっと鍛えたいね」と期待を込める。

“師匠”中村豊コーチと横田選手
“師匠”中村豊コーチと横田選手

横田選手については「練習でできることが試合でできない。バッティングと同じ」と嘆きつつも、「言い換えれば、練習でそれだけのことができるようになったということ。想定以上に上手くなっている。シートバッティングでも素晴らしい球を放る。それは成長やね」と、入団時からファームで見てきた愛弟子は最も付き合いが長いだけに、その成長ぶりはよくわかっている。

「試合になるとガーッとなりやすい」と焦ってパニック状態になるようだ。「『投げなきゃ、投げなきゃ』でとんでもないボールを投げたり、『振らなきゃ、振らなきゃ』でボール球を振ったり、『走らなきゃ、走らなきゃ』で暴走したりね」。

しかし同点の延長十二回に、絶体絶命のピンチの芽を摘むスローインングを見せたこともある(4/28対ジャイアンツ戦)。「あれは褒めました。褒めるところはしっかり褒めています。練習に近いことが少しでも試合でできるように」と、じっくり育てていくつもりだ。

板山選手については「一生懸命でガムシャラなのはいいところ。今のところ、クセがないね。これからもっとエグい打球も飛んでくるし、わからないことが起こる。今は課題しかない」と、“これから”を強調した。

板山祐太郎選手
板山祐太郎選手

その中で興味深い話が飛び出した。「板山はハンドリングや送球がいい。内野をやっていたから」。外野は大学2年の秋からで、ファームでは再びセカンドにも取り組んできた。

「ボクらの時代の外野手はほとんど内野手出身なんですよ。今はいきなり外野手をやりたいという子が多いから、“基本の基本”をやってきてないんです」と中村コーチは持論を展開する。

内野手は打者により近い。速い打球への反応やショートバウンドにステップを合わせることなども求められる。サインプレーも多い。そういう内野で体得したことが、外野でも生かされるというのだ。

福留先生の青空教室
福留先生の青空教室

昨今、なぜ内野手を経由せずに「いきなり外野手」になる選手が多くなったのか。「憧れの対象に外野手が増えたからでしょう。イチロー松井秀喜、もちろん金本監督高橋由伸監督もね」。憧れの選手のモノマネから入るから、「いきなり外野手」をし、その“弊害”が「基本を知らない」ということになるそうだ。

実際タイガースでも、福留選手やOBの桧山進次郎氏赤星憲広氏ら「上手い外野手」と評される選手は、ほぼ内野からコンバートされている。そういった点からも、内野手歴の長い板山選手への期待値は高い。

■4選手の意識は・・・?

選手それぞれの守備への意識を聞いた。

江越選手

「ボールに対して常に早くと意識しています。フライはボールに合わせるのではなく、先に落下地点に入れるように。風の強さや向きを頭に入れながら、当たった瞬間の打球の強さで判断しています」

高山選手

「プロは打球が違いますね。強いし、思った以上に伸びる。とにかくしっかり捕ること。当たり前のプレーを当たり前に確実にやりたい。声も出しながら、ジェスチャーでも伝えるようにしていきたい」

板山選手

「難しいのは風ですね。全部の旗を見るようにしてますけど、そのとおりにいかないことも多いので…。ミーティングで聞いた打者の傾向とか頭に入れて、ポジショニングも考えるようにしています。派手なプレーはいらないので、必死に食らいつくことだけです!」

横田選手

「普通に確実なプレーをしっかりやりたいです。1軍の選手の準備はすごいなと思った。ボクもデータを頭に入れながら打球の予測をしたり、考えながらやりたい。福留さんのように、確実に取れるアウトは取れるようになりたい」

■「生きた教材」福留選手の存在

若手が成長していく上で、忘れてはならないのが福留選手の存在だ。ゲーム中のグラウンドで、ベンチで、また練習中にも自ら若手に声をかけ、アドバイスしている。

「絶対にしなきゃいけないこと、しちゃいけないこととか、当たり前だけど大事なことを“再確認”という感じで言ってくれる」「球場の特徴、相手ピッチャーやバッターのことを、その都度、教えてくれる」など、若虎たちも心酔している。

中村コーチと話をする福留選手
中村コーチと話をする福留選手

「コーチとは違った立場だし、選手も落ち着くんじゃないかな。終盤(の守備位置)はベンチの指示ですけど、それまではだいたい福留や大和に任せてますから」と中村コーチが話すように、ベンチの信頼も非常に厚い。若虎にとって、これ以上ない「生きた教材」なのだ。

福留選手からのアドバイスを聞き、その技を目で見て盗み、自分のものにしていく。いずれは福留選手を脅かす存在になれるように―。そんな日が一日も早く訪れることを願う。

フリーアナウンサー、フリーライター

CS放送「GAORA」「スカイA」の阪神タイガース野球中継番組「Tigersーai」で、ベンチリポーターとして携わったゲームは1000試合近く。2005年の阪神優勝時にはビールかけインタビューも!イベントやパーティーでのプロ野球選手、OBとのトークショーは数100本。サンケイスポーツで阪神タイガース関連のコラム「SMILE♡TIGERS」を連載中。かつては阪神タイガースの公式ホームページや公式携帯サイト、阪神電鉄の機関紙でも執筆。マイクでペンで、硬軟織り交ぜた熱い熱い情報を伝えています!!

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