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【再審請求・恵庭OL殺害事件】炎の新目撃証言で「完全なるアリバイが成立」と弁護団

江川紹子ジャーナリスト・神奈川大学特任教授

恵庭OL殺害事件の再審請求審の決定が、21日午後、札幌地裁で出される。この事件は、「警察の思い込み捜査」「検察による証拠隠し」「有罪推定の裁判所」が連動し、状況証拠のみで有罪が確定した。ところが再審請求審の中で、隠されていた証拠が開示され、弁護側の科学鑑定とあいまって、元被告人(受刑中)のアリバイ主張が強化された。東電OL殺害事件、袴田事件に続いて、証拠開示と科学鑑定の組み合わせで重くて固い再審の扉をこじ開けられるのか、注目される。

状況証拠で有罪認定

2000年3月17日朝、北海道恵庭市の農道で炭化した女性の焼死体が発見された。被害者は、千歳市内の運送会社支店に勤務するA子さん(24)=当時=と判明。その翌日から、警察は同僚の大越美奈子さんを尾行している。4月14日から取り調べが始まり、5月23日に逮捕。否認のまま、殺人と死体損壊で起訴となった。大越さんが交際していた男性がA子さんと交際を始めたことから、三角関係のもつれ、女の嫉妬が動機、とされた。

この経緯を見ると、警察は早くから大越さんに目星をつけたものの、なかなか決め手がなく、”苦労”したことがうかがえる。実際、直接的な証拠は何もない。犯行があったとされる3月16日の夜、大越さんが被害者と行動を共にしている目撃証言も見つからなかった。しかし検察側は、ア)A子さんの携帯電話がロッカーから見つかり、その鍵が大越さんの車の中から発見された、イ)A子さんの携帯電話や自宅電話に、大越携帯からきわめて多数の着信履歴があり、嫌がらせ電話をしたと見られる、ウ)前夜に灯油10リットルを購入している、エ)取り調べ開始後、大越宅から3.6キロほどの道路路肩でA子さんの遺品を焼いた跡があった――などの状況証拠をいくつも提示することで、大越さんの有罪を主張。裁判所もそれを受け入れた。

A子さんの死因は頸部圧迫による窒息死。だが、A子さんは大越さんより身長は14センチ高く、体重も3キロほど多く、握力も25キロ優っている。体格や体力は、圧倒的にA子さん優位だ。ところが、札幌地裁(遠藤和正裁判長、森島聡裁判官、村山智英裁判官)の判決は、何ら具体的な方法も示さないまま、「殺害方法や被害者の抵抗方法の如何によっては、非力な犯人が体力差を克服して自分に無傷で被害者を殺害することは十分に可能」と認定。札幌地裁が認定した殺害事実は、「殺意をもって、なんらかの方法で頸部を圧迫し、同人を窒息死させて殺害した」という、極めて曖昧なものだった。

「有罪推定」でアリバイを否定

裁判所は、このように「有罪推定」のもとに、争点については「被告人が行為をなすことが不可能ではないか」を検討して、不可能でないと判断したものは、有罪の証としていった。本当に被告人が行ったか疑わしい点はないかを検証していくのではなく、どのように理解すれば被告人が犯人と説明できるか、という発想で、物事を見る。その最たるものが、アリバイを巡る判断だった。

起訴状では、遺体に灯油をまいて火を放ったのは、3月16日午後11時頃とされている。逮捕された時には午後11時15分頃となっていたが、起訴時に15分早まった。一審判決では、午後11時5分頃となっている。

事件当夜に大越さんがガソリンを給油したGS
事件当夜に大越さんがガソリンを給油したGS

この微妙な時間の変化は、大越さんのアリバイを成立させないために、検察と裁判所が”工夫”を凝らしたたまものと言える。大越さんは事件のあった日の晩に、現場から約15キロ離れたガソリンスタンド(GS)で給油していた。そのレシートには、午後11時36分と印字されていた。まだ雪の残る北海道の夜道。それほどスピードを出すことはできない。それでも、制限速度で走行した場合には23~25分でGSに到着する、と札幌地裁は見た。午後11時から11時5分頃の間に自宅の窓から炎を見た、とする証言から、11時5分頃の着火という認定になった。

判決は、懲役16年。

検察の証拠隠しが発覚しても…

実は、大越さんがGSに到着したのは、レシートの時刻よりもっと早い。このGSでは、16台の防犯カメラが備えてあり、大越さんが入店する様子や、給油後に店を出る状況が防犯カメラで撮影されてビデオテープが2本あった。警察がビデオの時刻の表示の誤差を調べ、入店時刻は午後11時30分43秒と分かった。2007年4月17日付、同24日付で捜査報告書が作成されている。当然、検察もこの事実を知っていた。にもかかわらず、1審で検察はこの証拠を伏せ、大越さんの車の中にあったレシートだけを証拠提出していたのだ。そしてビデオについては、一審判決直前にGSに返却。そのビデオがテレビ局に渡り、番組で放映されてその事実が知られることになった。

控訴審では、弁護側はこの証拠隠しを批判し、アリバイの成立を主張した。しかし札幌高裁(長島孝太郎裁判長、川本清巌裁判官、市川太志裁判官)は、検察の証拠隠しを断じるどころか、その条件下で大越さんが犯人として成立する理屈を立てる”工夫”をした。

結局、もっとスピードを出して走ればよいということになり、「20分もあれば十分に死体焼損現場からGSに着くことができると考えられる」と認定した。まさに綱渡りのようなギリギリの線で、アリバイの主張をしりぞけた。高裁もまた、「有罪推定」ですべての証拠を見ていたとしか言いようがない。

この判決が最高裁(島田仁郎裁判長、横尾和子裁判官、甲斐中辰夫裁判官、泉徳治裁判官、才口千晴裁判官)で確定し、大越さんは服役することになった。

ようやく出てきた重要証拠

今回の再審請求審では、様々な経緯を経て、56点の証拠が新たに開示された。そのうち、もっとも重要だったのは、P子さんの目撃証言だった。「午後11時10分ころから15分頃に炎を見た」とするP子さんの検察官調書は原審でも出されていたが、事件直後に警察官に対して語った詳細な調書や捜査報告書があったのだ。

それによれば、P子さんは2頭の犬を1頭ずつ散歩させる間に、1)午後11時15分ころ、2)午後11時22分ころ、3)午後11時42分ころ、4)午前0時5分ころの合計4回にわたって、炎を見ており、そのうち1)と3)は大きなオレンジ色の炎を目撃していた。

弁護団が行った燃焼実験(「北方ジャーナル」HPより)
弁護団が行った燃焼実験(「北方ジャーナル」HPより)

燃焼工学の専門家の実験や違憲からも、灯油をまいて着火した場合、約30秒後に炎が最大となり、3分後には炎の高さは半分となり、10分後には肉眼では炎が見づらいほど小さくなることが判明。しかも、被害者の遺体は、特に陰部や頸部が炭化しており、体重が9キロも減っており、10リットルの灯油を一回まいただけで、これほどの焼損が生じるとは考えられない、とのことだった。そのうえで、新たに開示されたP子調書を見れば、犯人はそれなりの時間現場にとどまって、火が弱まるとさらに燃料を注ぎ足していたと考えられる。

午後11時30分43秒にはGSに入店している大越さんには「完全なるアリバイが成立する」と弁護側は強調している。

当初はP子証言を「極めて信用性が高く」としていた検察側は、途中で調書の重要性に気づいたのか、「炎の大きさやその移り変わりに関する供述については完全に信用することはできない」と評価を変えた。

さらに、遺体の脂肪が燃焼して長時間燃え続けることがあるとして、燃料を途中で供給したとする弁護側の主張に反論している。果たして、そんなことが現実的と言えるのだろうか。

弁護側は「再審開始以外は考えられない」と自信を深めている。

再審開始決定が出た場合には、袴田巌さんや東電OL事件のゴビンダさんのように、刑の執行が停止されて、すぐに釈放されるかどうかも注目される。

ジャーナリスト・神奈川大学特任教授

神奈川新聞記者を経てフリーランス。司法、政治、災害、教育、カルト、音楽など関心分野は様々です。2020年4月から神奈川大学国際日本学部の特任教授を務め、カルト問題やメディア論を教えています。

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