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本音トーク:地球規模の気候変動リスク管理を、どう考えるか(2/2)

江守正多東京大学 未来ビジョン研究センター 教授

前の記事(1/2)からつづく)

気候変動問題における南北対立

江守(進行役):それでは次に、気候変動問題における先進国と途上国の対立について、また貧困や安全保障など他の問題との関係でどうご覧になるかをお話ください。

小島(元環境省地球環境審議官):そもそも温暖化は誰に責任があるのか。先進国と途上国が対立するということですが、それぞれに責任はあり、自分の問題として考えなければならないということです。そのためのスキームが必要です。そして、自分の国でやることはしっかりやる、そういうシステムが動かなくてはいけません。しかし、日本の国内で温室効果ガスを削減するシステムを動かそうとするときに、「温暖化で南の島が沈む」といった人ごとでは、なかなか動かない。利己的かもしれませんが、多くの人々は、自分に、自国に被害が出て初めて真剣になって動く。それまでは国内の政策を決める際の優先順位としては低いままなんです。アメリカも、温暖化対策をはじめたのは、熱波による被害が出てからです。外圧や倫理観だけでは、理解はしますが、なかなか行動には結びつかない。

西村(元外務省地球環境問題担当特命全権大使):たしかにそうですね。深刻な事態が自分の国に起きて、やっと目が覚める。そして、この問題を解決しようと思ったら、仕組みは簡単でなければなりません。今の京都方式は、短期間でかなりの削減が要求されて、難しいんです。過剰な負担をどの国も負いたくない。しかし、国別の削減方式をとっている限り、会議のたびに先進国と途上国の間で対立ばかりすることになる。どの国も成長に必死ですから、今頃誰がこの事態を招いたのかといった歴史責任を問い続けてもどうにもならないのです。むしろ、温室効果ガスの排出をどの国も2050 年までに40‐70%削減、2100 年までにネットゼロにするという目標に各国がコミットするべきです。要するに、これから80 年かけて自分の大気汚染は自分で解消する。化石燃料を使わない方法に切り替える。再生可能エネルギーの利用によって、それを実現させるという新しい仕組みにするべきです。

田中(元国際エネルギー機関事務局長):すべての国の目標を0%にするということ?途上国はYES と言うかなあ。

西村:貧困国は微細なエネルギーしか使っていないから、値段が下降している再生エネルギーで代替できるでしょう。大部分の先進国は既に2050 年に現状より80‐95%削減するといっています。技術的な能力で対応できるはずです。問題は成長途次にある中国とインドでしょうが、今後80年もかければ、彼らも出来るでしょう。それに中国は大気汚染などからも排出削減を徹底しなければならないと気づきはじめています。

田中:日本は0%の目標達成が可能だと思いますが、そのためにはグリッドを強化していく必要があると思います。50、60 ヘルツに東西に分裂している周波数帯を統一して系統線網を強化するとともに発送電を分離し、電力会社を競争させなければ。今後は再生可能エネルギーを使わなければなりませんから、どういう風にそれを実現させるか考えていくべきです。

西村:それから、日本のエネルギー自給率は4%程度なので、エネルギーの自立性確保は最重要課題です。この観点からしたら、仮に原発を再稼働させるにしても現状ではそこそこしか出来ない訳だから再生可能エネルギーをもっと強力に推進する必要があります。

田中:そうですね。両方とも必要だと思います。あとはどうやって供給体制の中でフレンドリーに共存できるかということです。

地球規模で見た温暖化対策

江守:先ほど、今後は中国よりもインドが問題というお話がありましたが。

田中:日本国内で温室効果ガスの発生を止めても、地球規模で見たらほとんど減らないわけで、むしろ高効率石炭発電をインドなんかに技術移転していくことの方が効果はあると思います。それが南の国に対する日本の貢献ではないでしょうか。

江守:高効率といえども石炭火力の新設には反対の声も多いですが。

田中:それならCCSレディにすればいい。

小島:2100 年の排出量0を目標にすると、時間をどう配分していくかがすごく重要です。どのタイミングまでは石炭火力を使っていつの段階でリプレースするのか、その共通認識を各国が持ち、そのプロセスというか、方法論を考える必要がありますね。

住(元東京大学教授):それでも反対論とかは出てくるよね。CO2 は温室効果がないと言う人までいる。

西村:だから気候変動の問題は、科学者にどんどん発言していただかないと。躊躇していたら大変なことになりかねない。

小島:気象災害がひどくなったり、感染症が北上してきたりするということは、ずいぶん前から専門家は指摘してきた。因果関係を100%証明はできないが、現象的にはそれらが今起きつつある。しかし、気象災害が起きる、あるいは感染症が起きるということが温暖化対策をしなくてはならないという政治的な意識に結びつくためには、もっと専門家の役割が必要でしょう。それが不確実であることは仕方がないけれども、人々の側でも専門家の話を理解するリテラシーが求められていると思います。

住:気候の変化や温暖化すら認めない人がいる。CO2 に関するサイエンスは完璧ではないけれども0でもないわけで、その積み重ねを全否定されても困ってしまいます。

今後の展望と施策

江守:これからの世界の緩和レベルは何によって決まり、それによってどれぐらいのレベルに落ち着くのでしょうか。

田中:IEA にはいろんなシナリオがありますが、”New Policies Scenario (Likely Scenario)”では、技術の限界と各国のやる気が課題で、けっこう頑張っても3.5℃くらいなんですね。そのくらいはなんとかいけそうだけれど、それ以上やろうとすると相応の覚悟と投資をしなければならないという分析をしています。

江守:個人的には、どうお考えですか?

田中:もう少し行けるのではないかと思います。このシナリオだと、2035 年でも、まだピークアウトしていないんです。しかし、中国の成長もこれから鈍化してくるだろうし、技術開発も進んでくると考えると、答えは2℃と3.5℃の間くらいでしょうか。

江守:西村さんは、いかがですか?

西村:2℃の実現については世界中で実証的な裏づけ議論も行われている。実現に向けて蓋然性はないとは言えないと思います。

田中:そうです。現状からみてこんなところかなと。ブレークスルーが出てきたら、また違います。あと、IEA はライフスタイルを変えることには踏み込んでいません。

逆に伺いたいのは、ジオエンジニアリング、気候工学は有効ですか?

住:人為的に気温を低下させる方法ですね。やらない方がいいでしょう。地球の気象は複雑だから、それをやったことで、どこで何が起きるかわからない。誰が責任をとれるかということです。どこかの国が成層圏にエアロゾルを撒いたために、別の地域で洪水が起こるかもしれません。

西村:ヨーロッパには、プランB として利用する発想があるようですが、巨大な法的責任問題が起きる可能性がありますね。

我々がすべきこととできること

江守:それでは最後に、より望ましい帰結にするために、何をしなくてはいけないか、すべきこと、できることはなんでしょうか。

住:個人レベルでいうと、多くの人は、そんなにエネルギーを使っているという実感はないんじゃないかと思う。個人の我慢や倫理観に過度に依拠せずに、結果として削減ができるような制度設計ができるかが問題と思います。あと、日本が国としてできるのは技術協力が大きいと思います。

それから正しい情報をどう伝えるのかということ。インターネットなんかで情報公開はあるけれど、それを社会の設計と言う観点でどう見るかですね。情報公開が実現可能なサステイナブルな社会をつくることに資するように一歩づつ着実に研究を進めていくしかない。

西村:今、CO2 削減のための世界制度はあまりにも政府の管理経済の色彩の強いモノになっていると思います。世界経済の中でどうして温暖化防止の局面だけ、これ程政府が経済を管理しなければならないのでしょうか?その他の経済分野は専ら市場中心です。温暖化防止でも、もっと市場的な発想を入れてやれば効率的で世界経済にも負担が少なく目的を達成できます。そういうことを本来は目指すべきです。

田中:あえてみなさんにチャレンジするようですが、やっぱり3.11 の事故を起こしてしまった日本がそれを乗り越えて、原子力が抱えている問題の解決策を提示することが求められていると思います。この事故によって、日本が地球環境問題を難しくしたんです。再生可能エネルギーの利用を進めることはもちろんですが、再稼働も含めた今後の展望を提供しなければなりません。

小島:先ほどから話に出ているように、専門家や政策決定者が、普通の人にきちんと説明をすることが大切です。国の政策を決定するときに望ましいのは、国民の要望が湧き上がってくることです。

それから技術はあるのに制度がうまくいかない。これが大きな問題です。電力の自由化も、やると決めれば制度設計だってできるし技術もあるのになぜできないのか、ということです。

そして、温暖化対策を推進するという大義名分で原子力が推進されたということで、環境コミュニティが、原子力に対すると同じく温暖化に対してもすごく懐疑的になっていて、温暖化対策を進めることに対して斜めに見てしまうところがある。原子力発電所を再稼働するかしないかという以前に、福島第一原発で何があったのか、日本の東半分が使い物にならなくなる一歩手前まで行った大事故なのか、死者は一人も出なかった大したことがなかった事故なのか、それを明らかにしたうえで、これからどうするのかというところをオープンにした議論が必要です。それを隠せば隠すほど疑惑が出てくる。専門家に対しても政治家に対しても疑問が出てきて、議論が成り立ちません。

住:あとは2100 年に日本がどうなっているかということ。人口は確実に減少しているだろうし、国の借金はあるしね。

小島:人口減少や過疎地域の問題、財政的にも限りある資金をどう使うのかなどの温暖化対策の前提となる問題もいろいろあるわけで、そのベースの議論をしておかないと、2050 年になって、やっぱりやるのは無理だよねっていう話になりかねない。そのビジョンは必要だと思います。

江守:今日はありがとうございました。

*環境省環境研究総合推進費課題S-10の研究活動として実施した。

執筆:小池晶子 撮影:福士謙介

編集:青木えり、江守正多、高橋潔

東京大学 未来ビジョン研究センター 教授

1970年神奈川県生まれ。1997年に東京大学大学院 総合文化研究科 博士課程にて博士号(学術)を取得後、国立環境研究所に勤務。同研究所 気候変動リスク評価研究室長、地球システム領域 副領域長等を経て、2022年より現職。東京大学大学院 総合文化研究科で学生指導も行う。専門は気候科学。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)第5次および第6次評価報告書 主執筆者。著書に「異常気象と人類の選択」「地球温暖化の予測は『正しい』か?」、共著書に「地球温暖化はどれくらい『怖い』か?」、監修に「最近、地球が暑くてクマってます。」等。記事やコメントは個人の見解であり、所属組織を代表するものではありません。

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