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【COP21直前】本音トーク:地球規模の気候変動リスクと向き合う(第3回)エネルギー編(2/2)

江守正多東京大学 未来ビジョン研究センター 教授
(写真:アフロ)

前の記事(1/2)からつづく)

CCSを、どう考えるか

江守(進行役):それでは次に伺いたいのは、二酸化炭素排出をゼロにするのに必須とも言われているCCSの大規模導入の実現可能性についてです。

真野(SBエナジー):やはりコスト次第ということで、少なくとも国内では、CO2に価格付けがされないと、企業が自主的にCCSを導入する可能性はあまりないのではないかと思います。

中山(電源開発):ヨーロッパでは一時、CCSを推進するムーブメントがありましたが、CO2価格の低迷で止まってしまいました。イギリス、ドイツには多くの計画がありましたが、結局CCS付きの発電所は1つもできていません。価格インセンティブさえあればCCSはできると言われていますが、まだ証明されていないという状況です。

伊藤(昭和シェル石油):CCSは、以前行った検討では、まず第一に空気中のCO2回収は無理であるという結論を得ました。従って、今後は発生源、それもできるだけ纏めて回収することに力を注ぐべきです。第二に、発生源からの回収技術は相当なレベルまで進んでいます。しかしながら、これら技術は補助金などが出ないと経済性がないレベルです。

こうした点から、CO2を出さない発電は他の技術で可能なはずですから、まずCCSありきという議論はおかしいのではないかと考えています。否定するわけではありません。CCS抜きも1つのオプションであるべきと申し上げているのです。

本郷(三井物産戦略研):私は化石燃料ゼロというのは考えにくいのでCCSは不可欠であり、課題であるコスト削減にはEOR(Enhanced Oil Recovery:石油増進回収法)が、必要なステップだと思っています。CO2削減のためには、いろいろなオプションが必要だということです。

CCSが大規模に使われるためには問題は2つあって、回収コスト引下げは当然として、もう1つはCO2を回収する場所からCCSまでの輸送をどうするかということ。パイプラインなどの共通インフラを整備することで社会的コストを引き下げる必要が出てくるかもしれない。もう1つはCO2が漏れてくる可能性の責任など制度的に考慮しなければなりません。責任範囲が不明確では投資がしにくいということです。

江守:CCSは有力なオプションである、いや、難しいのではないか、といういくつかの意見が出ましたが……。

中山:それは時間軸によると思います。IPCCの2℃シナリオは、膨大なCCS利用を前提としていますが、それはCCSを含む今ある技術のみを対象とし、革新的な技術を除外しているためです。2100 年時点で、今ある技術しかないと考えるのは不自然で、革新的な技術が実用化されているはずです。将来、核融合や宇宙太陽光発電などの新しい技術が実用化した時点で、ロードマップを引き直していくべきでしょう。

伊藤:シェルは、温暖化問題に敏感です。本社があるオランダは国土の25%が海面下にありますので、CCSにも熱心です。北海油田でEORのトライアルを行ったり、製油所で発生するCO2を集めて植物に固定化したり、という具体的な活動を行っています。

しかし、先ほども申し上げました通り、今ある技術だけでもCCSに頼らない道はあるのではないかと思っています。送電線などの問題があるというのを承知の上で単純な計算だけの話をすれば、アラビア半島の半分の面積に太陽光パネルが置ければ、世界中のエネルギーがまかなえます。風力にせよ、潮力にせよ、何かそんな道も考えていかなければならないという気持ちがベースにあります。

社会のイノベーションを展望する

江守:次に、エネルギー技術の変化に伴う抜本的な社会イノベーションの可能性についてお話いただけるでしょうか。それは中央集中的な新しい技術なのか、あるいは地域分散型のエネルギーシステムなのか。また、それによって社会や生活はどのように変わるでしょうか。

石田(積水ハウス):これから先、技術が革新的に変わるかどうかはわかりませんが、今ある技術をどう使うかという考え方はできます。電力についても、地産地消型の地方分散型都市を前提とすれば、送電ラインが短くてすむのでコストも下げられるし、非常時にも対応しやすくなります。これからは地方ほど自立性を高める必要があるでしょう。

先ほど大規模な太陽光パネルのお話がありましたが、家に付けるだけでも、家としてはエネルギーゼロにすることも可能なので、国内だけではなくインフラの整備されていない地域に、この技術を出せれば、さらにCO2削減が進められるかもしれません。

企業の活動に国は口を出さない方がいいという意見もありますが、日本が太陽光発電でも蓄電池でも中国や韓国に負けているのは、国策としての投資が弱いせいではないかと考えています。

本郷:具体的に何が、とはわかりませんが、必要性が明確であれば今後イノベーションは必ず出てくるでしょう。

私は、政治は、企業の活動に細かく介入するべきではないと思っています。むしろどうやってフェアに企業間や技術の競争を刺激し、支援するか。もうひとつ政治に求められるのは、補助金をいつまでも続けないことだと思います。国内の石炭生産を閉めて別のエネルギーに行ったときのように、持続的ではない補助金からの撤退政策を考えておくことです。その上で競争すべきだと思います。

中山:私が委員を務めている総合科学技術イノベーション会議・エネルギー戦略協議会では、各省庁の技術開発支援がバラバラになっている状況に横串をさすということを目指しています。

一方、国の支援をいただいた成功例として挙げたいのは、磯子にある当社の世界一クリーンな石炭火力発電所です。オールジャパン体制で研究開発した技術を集大成したものです。このような高効率発電設備、環境設備は、日本の重要な輸出産業へと成長しました。

伊藤:我々の太陽光電池パネルも補助金をいただいて開発しました。純国産の技術を開発し、日本の経済あるいは環境に良いものを作りたいという提案をさせて頂き、採択されました。公平性を担保した上で企業が申し出て国から受ける方式は有効だと思います。

真野:イノベーションには2つあって、まず技術のイノベーションはCO2削減のために、これからもっと重要になるでしょう。当社は技術開発セクションを持っていないので、今あるものをどうやって活用するかというテーマに注力していくことになります。国産の太陽光パネルには30年以上発電できるものも出てきましたから、コストとしても充分ペイします。メガソーラーをつくらなくても太陽光発電を需要地に建設すれば、発電コストも送電コストも抑えられて、地産地消に向いていると言えます。一方、エネルギーは量の問題でもありますから、それを拡げる社会イノベーションも重要です。

あとは再生可能エネルギーが今後の基幹電源になると思っていますので、そこを後押しするような仕組みが欲しいところです。

国全体で未来を考えるには

江守:お話の中にもたびたび出てきましたが、政府の役割についてお聞かせください。また今後、世の中はどのような方向に行くとお考えでしょうか。

石田:住宅メーカーから見ても、問題はエネルギーだけではありません。社会問題は、全部つながっているのではないかと思います。たとえば今、燃料電池自動車を普及させるという話もありますが、何で車を走らせるかということより、コンパクトシティをつくって走る距離を短くした方がいい。それは企業ではできないことです。やはり、政府が方向性を決定しなければならない。どんな社会がつくりたいのか、国としての方向性をわかりやすく提示する必要があります。

江守:その場合の「政府」というのは具体的には何を指すでしょうか。

石田:役人ではなく、政治家の判断ということです。各省庁は自分の問題しか対応ができません。しかし票がとれないコンパクトシティは提案しにくいかもしれませんね。

伊藤:エネルギー供給会社としては、モビリティの燃料をどうするかということが一番の関心事です。おそらく最終的にはすべて電気になるか、車の必要がない社会になるでしょう。ガソリンスタンドは充電ステーションになり、石油は石油化学製品の原料としてのみ利用されるようになるかもしれません。

あとは、どうやって電気をつくるのかということですが、どこかでまとめてつくって、CO2はCCSで取り込む。原材料の輸送をどうするのかといった問題は残りますが。

それから地方でトライアルが始められていますが、やはり分散型のコンパクトシティは必要です。太陽光発電なら、コミュニティ内でまかなうことも可能でしょう。私の家にも太陽電池とバッテリーを付けて実験をしていますが、バッテリーの価格が下がり、寿命が長くなれば、一件の家でも相当なことができると思っています。

国の政策について言うと、政府が決めたことに対してだけ補助金を出すのではなく、企業や一般の人がやりたいことを自分たちで決められるように自由度を与えてほしいですね。そうでないと、イノベーションは起きません。

中山:技術開発を政府主導でやるためには、柔軟性が必要です。石炭だけでなく水力も風力もある、地熱もあるといったオプションをたくさん持っている方がいい。日本は資源がありませんから技術力が大事です。そして事業者にとっては、補助金などに頼らず、規制で強制されるのでなく、サステイナブルに続けていける競争力のあるものを自らの判断で選べるということが重要です。やはり電力会社として、安定・安価な電力供給をしていくというのが役割だと思っています。

あとは、国際交渉の現場を見ていて思うのですが、192の国が合意するには妥協は不可欠であり、日本でも国民ひとりひとりが、どこで妥協するのか考える必要があるということです。原子力もダメ、化石燃料もダメ、電気料金の値上げもダメ、生活レベルも落としたくない、というわけにはいきません。

本郷:この問題はグローバルな課題で、世界全体で最適化を考える必要があります。

技術の普及・イノベーションを考えたときにキーワードになるのは、やはり企業間の競争だと思います。イノベーションを政府が優先付けしてコントロールするのは無理ですから、いかに競争条件を整えるかということです。

最後に、政治に期待するのはメッセージです。規制導入には時間がかかるでしょうから、こういう世界のために、こうしてほしいとメッセージを出して、方向性を提示することです。十分なメッセージがあれば企業は規制の前に動き出します。

真野:政府に期待する役割は、やはり大きな道しるべとしての政策の提示です。あとは、やり方・スピード感・補助金の使い方についても企業にまかせる。その方が、いろいろな提案が出てくるはずです。

一方、研究コミュニティに期待するところでは、日本での技術レベルは高いのに、それが社会で実際に活用できていません。そこが重要になってくると思います。

江守:今日は、ありがとうございました。

*環境省環境研究総合推進費課題S-10の研究活動として実施した。

アドバイザー:黒沢厚志、杉山昌広、松岡昭彦

執筆:小池晶子

編集:青木えり、江守正多、高橋潔

東京大学 未来ビジョン研究センター 教授

1970年神奈川県生まれ。1997年に東京大学大学院 総合文化研究科 博士課程にて博士号(学術)を取得後、国立環境研究所に勤務。同研究所 気候変動リスク評価研究室長、地球システム領域 副領域長等を経て、2022年より現職。東京大学大学院 総合文化研究科で学生指導も行う。専門は気候科学。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)第5次および第6次評価報告書 主執筆者。著書に「異常気象と人類の選択」「地球温暖化の予測は『正しい』か?」、共著書に「地球温暖化はどれくらい『怖い』か?」、監修に「最近、地球が暑くてクマってます。」等。記事やコメントは個人の見解であり、所属組織を代表するものではありません。

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