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周永康処分ついに公表――問われる習近平の決断

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

周永康処分ついに公表――問われる習近平の決断

◆実質的には逮捕も同じ

7月29日、中国政府の通信社である新華社は、胡錦濤政権時代の元チャイナ・ナイン(中共中央政治局常務委員9人)の一人であった周永康が、中共中央紀律検査委員会(中紀委)の取り調べを受けていることを正式に公表した。中紀委が取り調べに入ったことは、このあと司法に回して逮捕し、その後公判が展開されることを意味している。中国では中国共産党が政法(公安、検察、司法)を「指導」しているので、まず中紀委が「党規約違反があった」として動く。中紀委のこの宣言を受けたが最後、社会生命は終わる。党の方が上位にあるからだ。したがって実質的には「周永康逮捕」という見出しを付けたいところだ。

前回(7月19日)の本コラム「中国、西沙掘削作業終了前倒しのわけ――中国の国内事情と日本のビジネスチャンス」(http://bylines.news.yahoo.co.jp/endohomare/20140719-00037516/)で、筆者は「前倒しの理由は、まもなく周永康に関する処分が公表されるからだ」と書いた。書いたからには責任が生じるので、日夜、まだかまだかと待っていた。その予言が当たって、本当にホッとしている。

周永康が2013年末から軟禁されていることは早くから分かっていた。軟禁していたのは、当然、中紀委である。中紀委が取り調べに入ることを「双規」(スワングイ)と称する。これは「党規約に違反した党員」を「決まった場所、決まった時間」で取り調べるという意味で、この「双規」はかなり前から始まっていたのである。

だから今年の両会(全人代と全国政治協商会議)を前にして、3月2日、北京で開かれた記者会見で、周永康に関する質問が出ると、全国政治協商会議(中国の国会に相当する全人代の助言機関)のスポークスマンである呂新華氏は「あなた、わかりますよね?」と回答し、会場を笑わせた。呂新華氏は、「どんなに地位が高くても、党規や法律を犯した者は厳しい調査と処分を受けなければならない」と、習近平が言った言葉を例にとって、最後に「私はここまでしか言えないが、あなた、分かりますよね?」と回答したのだ。

これを受けて、両会が終わる3月14日には周永康に関する公表があるだろうと、世界のチャイナ・ウォッチャーが息を呑んで待っていた。だというのに公表が見送られたのは、一つには3月1日の夜、雲南省で無差別殺傷事件があったからだろう。中国政府はこれを、ウィグル独立運動を唱えるテロ組織によるテロ行為と断定。中国の庶民は「いつどこで何が起きるか分からない」という不安におびえていた。そんなときに周永康処分に関する公表など、できるはずがない。全人代の決議に関する権威性を失わせる危険性もあった。だから延期してきたが、この秋に開催される「四中全会」(第四次中共中央委員会全体会議)は「法制」がテーマなので、これ以上延期するわけにはいかなかったのだ。

◆習近平は政治体制改革を断行できるか?

習近平は「虎もハエも同時に叩け」をスローガンとして反腐敗運動を断行してきた。党幹部だけでも15万人以上処分している。ただし「大虎」となると、利権集団の真っただ中に斬りこんでいくことになり、どうしても「共産党一党体制が生んだ利権」という、自己矛盾に突き当たってしまう。つまり、政治体制改革を断行しなければ腐敗を撲滅することはできず、政治体制改革を断行すれば「一党支配体制は崩壊する」という矛盾をはらんでいるのである。

その大前提の中で、それでも腐敗分子を逮捕する方向に動かない限り、やはり党は滅ぶ。

習近平はどこまで斬りこめるのか?

その決断が迫られている。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。2024年6月初旬に『嗤う習近平の白い牙』を出版予定。

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