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尖閣沖、中国の狙い――南シナ海に学び東シナ海でも強硬路線

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
「攻めに出ろ」と指示したとされる習近平(写真:ロイター/アフロ)

尖閣沖における中国公船の不当な動きが活発化している。南シナ海問題では判決を無視して強気に出たことが成功したとして、東シナ海でも強硬路線を貫く方針だ。「攻めに出ろ」と指示したとされる習近平の真実を追う。

◆過去最多の中国巡視船

尖閣諸島の沖合で、過去最も多い中国当局の巡視船13隻が日本の接続水域に現れ、周辺海域には、中国漁船およそ300隻がいるもようで、海上保安庁は警戒を強めている。

海上保安庁はホームページで「尖閣諸島周辺海域における中国公船及び中国漁船の活動状況について」を発表した。

領海侵入を繰り返す中国側に対し、岸田外務大臣も外務省に中国の程永華・駐日大使を呼びつけ、抗議を表明している。

しかし程永華大使は「中国の領土で中国の船が活動することに、いかなる問題があるのか」と居直っている。

中国海洋局のウェブサイトにも「中国の海警艦船が8月7日に我が釣魚島領海を巡航した」と、堂々と書いている。

中国はなぜここまでの強気な態度を示すのか?

◆南シナ海における強気姿勢を東シナ海においても

その回答は、南シナ海における「盗人(ぬすっと)猛々(たけだけ)しい」とも言える強気姿勢により判決を逃げ切った中国の経験にある。これに関してはこれまで本コラムで数多く書いてきたので、ここではくり返さないが、ともかく強硬姿勢に出ることによって、徹底してASEAN諸国の一部をチャイナ・マネーで抱き込み、判決を逃げ切ったという中国にとっての「成功例」を、今度は東シナ海でもと考えているのである。

7月24日付の本コラム「中国空海軍とも強化――習政権ジレンマの裏返し」に書いたように、中央軍事員会は、徹底した空海軍強化の司令を出している。これまでは「(これでも)防御に留まっていたが、今後は積極的な攻撃に出る」ことを宣言しているのである。

「判決がボタンを押した」としているが、実はその前から「強硬路線」は決議されていたとみなしていいだろう。

だから2013年初頭にフィリピンによる仲裁裁判所への提訴を受けてからは、むしろ逆に次々と南シナ海に人工島を建設し、判決後はさらに強硬路線を貫き通した。

その背後には、習近平国家主席の指示があったと、香港の「明報」が報道している。

◆中共中央政治局会議で習近平が「行動を起こせ」

8月4日、香港の「明報」は、習近平国家主席がハーグの仲裁裁判所の判決が出る前に開かれた中共中央政治局会議で、「まず行動を起こせ! あとで言っても何にもならない」という趣旨の指示を出していたと報道している。

それによれば、習主席は「南海問題に関して、もし今われわれが行動を起こさなかったとしたら、あとに残るのは歴史資料の束だけで、何を言っても役に立たない。いま行動を起こしてこそ、論争状態が保たれる」と述べたという。

さらに中共中央政治局会議のあとに、「本当の大国は問題があることを恐れない。むしろ問題があるからこそ、(それを逆利用して)そこから利益を得ることができるのだ」と述べていた。

明報は論拠として「中国南海網(ウェブサイト)が開通したので」としているが、実際に「中国南海網」にアクセスしても、そのようなことが書いてあるわけではない。

また明報には「一部の資料を初めて公開した」とあるので、「国家海洋局」の中の「【新華社】中国南海網正式開通 一部の資料を初公開」という項目にアクセスしてみたところ、そのようなことには全く触れていなかった。古い歴史の資料の一部を開示したに過ぎない。

ところが「明報」には、「中国南海網が開通した→一部の資料を初公開→中共中央政治局会議で習近平が発言」とあるので、まるで「中国南海網が開通して、それまで明らかにしなかった中共中央政治局会議における習近平の発言を初めて公開した」と読めるような書き方になっている。

事実、日本の一部のメディアでは、そのように誤読して報道しているものがある。

実際に早くから公表されている中共中央政治局会議の内容を見てみると、2016年1月29日が全人代に関してで、2月22日が全人代で発表する「政府活動報告」と「第十三次五カ年計画」文案の最終チェックである。この会議は習近平国家主席が招集し、習自身がチェックしている(ちなみに、李克強首相が勝手に書いたような報道の全ては流言飛語以外の何ものでもない)。

次は5月27日で、ここでは城鎮化問題に関して討議している。その次は判決が出た後の7月26日で、ここでは今年10月に北京で開く中共中央六中全会や今年下半期の経済政策などに関して討議され、その後、北戴河の会議へとなだれ込んでいるので、明報が報道しているような内容は載ってない。

ただ、明報を非常に注意深く読むと、「北京の消息筋によれば」という文言があるので、「漏れ伝わったところによれば」というのが、最大の根拠だろう。

そうであるならば、筆者もまさに「北京の、ある消息筋」から、同様のことを聞いている。但し、習近平が軍事的指示を出したのは、中共中央政治局会議ではなく、あくまでも中央軍事委員会会議においてである。

それらの一部は本コラムですでに紹介してきた中央軍事委員会会議による決議と声明発表などだ。

情報は根拠が正確でないと、正しく有用な分析はできない。

◆海だけでなく、いずれは空も

その後の動きとして注目すべきは、中国空軍のスポークスマンが8月6日、多くの機種にわたる戦闘機が南シナ海に向けて飛び立ったことを発表したことだ。それによれば「67年の輝かしい歴史を経て、中国空軍は多種の空軍兵士、多機能により現代化された戦略的軍種により、国家主権と民族の尊厳を守るために戦っている」として、いつでも臨戦態勢にあることを中国空軍は忘れていないと強調した。

「67年の輝かしい歴史」とは、拙著『毛沢東 日本軍と共謀した男』の252頁に書いたように、日本敗戦後も毛沢東は日本軍を徹底的に利用して、元日本軍の第二航空軍団第四練成大隊を懐柔し、中国共産党側の空軍創設を成し遂げたことを意味している。

元日本軍を原点とする中国人民解放軍の空軍部隊は、南シナ海に於いて海だけでなく、空の覇権をも掌握すべく、いま強化されているのである。

このアナロジーは、そっくりそのまま、尖閣を含めた東シナ海に適用されていくことだろう。

日本は決して南シナ海問題の二の舞を踏まぬよう、中国の打つ手を正確に読み、先手を打っていかなければならない。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。2024年6月初旬に『嗤う習近平の白い牙』を出版予定。

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