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時給いくらのアルバイトで本当に満足か 学生時代のよい経験をつくる

遠藤司皇學館大学特別招聘教授 SPEC&Company パートナー
学生の作成したアパレルブランド comfortable life

 夏休みが終わろうとしている。学生の皆さんは青春の1ページを、どのように描いたことであろう。

 多くの時間をアルバイトに使った学生もいるだろう。そのアルバイトは、いかなる意義をもつのか。あるいはその経験は、今後の学生生活にどう活かすことができるのだろうか。

 今回の記事では、筆者の知っているよい「アルバイト」の事例を2つ挙げたい。いずれも地方大学の学生による、学生時代のよい経験である。

学生が居酒屋を開店した

 9月1日より、皇學館大学現代日本社会学部の4年生が、伊勢で居酒屋を立ち上げた。

 彼らは、筆者のゼミ生である。Dahlia(ダリア)という店名の由来は、筆者が X Japan の熱烈なファンだからではなく、花言葉「最高の感謝」を表すのだという。すなわち、自分たちを育ててくれた三重という地に恩返しをしたいという思いが、そこにある。さらには、後輩に起業、経営、地域貢献などを体験できる場を残したいという意図もあるようだ。

 店では、三重県熊野市のかんきつ類「新姫 にいひめ」と、同じくわが国ではほとんどが熊野で収穫されるマイヤーレモンを使ったサワー、「新姫サワー」と「マイヤーレモンサワー」を提供する。これらの認知度を上げ、熊野および三重の産業に貢献するのが狙いである。

 学生に心がけてほしいのは、何のために働くのか、ということである。当面の生活のため、という答えでも結構だが、それ以上に社会的なインパクトのほうを重視してほしい。すなわち、自分なら社会にどのように貢献できるのか、という観点から、自らを問うことを心がけてもらっている。

 居酒屋起業における彼らの答えは、地域貢献であった。彼ら自身の思いと能力のなかで、それを実現する。よって今回、筆者はなんらサポートをしていない。彼らはすでに多くを学んできた。であれば、自分たちの力で行うことが重要であろう。そのとき使命感は生まれる。そして使命感は、人を育てる。

 さらにいえば、みずからの主体性をもって行うときに、よい仕事ができる。そしてよい仕事には、よいリターンがある。「ありがとう」がかたちになったもの、つまりお金である。利益率はいえないが、彼らの売上は通常1日4時間ほどで、2、3万円代である。二人でオペレーションしていることを考えれば、時給1000円やそこらよりは儲けていることが理解できよう。充実した仕事のなかで感謝が得られる。こういう経験が、よい経験である。

comfortable life が4日でTシャツ100枚完売

 もう一つの事例は、3年次のゼミ生による起業である。 彼はこの夏に向けて、自身のアパレルブランド「comfortable life」を立ち上げた。こちらは社会貢献というよりは、マーケティングに成功した事例である。

 今回、自分がつくる服には、何の意味があるのか、何のために着るのか、ということを徹底的に考えてもらった。すなわち、Tシャツを着る人への提供価値=貢献は何なのか、である。彼の答えは「そのTシャツを着るような人になりたいから着る」であった。デザインに自信がなければ言えないセリフだが、ともあれ、それを軸に考えることになった。

 売りものは定まった。着た人が「インスタグラムでたくさんの人に自分の姿をみせる場所」である。かくして、ブランドコンセプトがより明確になる。購入する人は、このTシャツを身につければ、スナップの中にいる彼ら・彼女らのようになれるのである。

 よって、伊勢では売らないことにこだわった。今回の顧客は、地域の人ではないからである。発売開始から、Tシャツは飛ぶように売れた。最初の4日間で、当初の目標数100枚を完売してしまった。その後も売れ行きは順調である。

 工夫次第で、自らの価値は上げられる。それは、生み出したものの大きさによって測られる。彼はもともと、大学で学ぶことをいかに活かすかという視点をもっていた。だから、授業でもよく話を聞いていたし、一つひとつのことに真摯に取り組んだ。結果が、この売れ行きである。彼はこれからも成長を続けていくだろう。より多くの「ありがとう」をもらう人間になるためである。こういう経験もまた、よい経験である。

時給いくらのアルバイトで本当に満足か

 筆者は、彼らを誇らしく思っている。自分の思いを実現させるため、日々努力している人の姿は美しい。それが誰かの幸せのためだというならば、なおさらだ。

 「職人は職種転換ではなく、業種転換を」でも述べたが、重要なのは「問うこと」である。私たちは何であろうか、誰に貢献することができるのかと、自らに問いかけることが重要なのである。

 とくに学生は、まだ社会経験が乏しい。ゆえにこの問いかけは、つねに行っていなければならない。広く深く知識を身に着け、自分とは何なのかということに、当面の答えを見つけなければならない。さもなければ、将来の仕事を見つけることは難しくなる。

 時給いくらのアルバイトが悪いとは言わない。そこにやりがいがあれば、よいように思う。しかし、もしそうでないならば、他のことに時間を費やしたほうがいい。安定的にお金を稼がなければ、生活すらままならない学生もいるだろう。しかし、どうにか時間を見つけて、自分にとって意義のある仕事に従事したほうがよい。そこで自らの決めた最高の成果を上げるために、力を注ぐのである。学んできたことを活かして、自分を高めることに勤しむのである。

 学生は、可能性のかたまりだ。自らの可能性を開花させる機会を、できる限りもうけてほしいと思う。

皇學館大学特別招聘教授 SPEC&Company パートナー

1981年、山梨県生まれ。MITテクノロジーレビューのアンバサダー歴任。富士ゼロックス、ガートナー、皇學館大学准教授、経営コンサル会社の執行役員を経て、現在。複数の団体の理事や役員等を務めつつ、実践的な経営手法の開発に勤しむ。また、複数回に渡り政府機関等に政策提言を実施。主な専門は事業創造、経営思想。著書に『正統のドラッカー イノベーションと保守主義』『正統のドラッカー 古来の自由とマネジメント』『創造力はこうやって鍛える』『ビビリ改善ハンドブック』『「日本的経営」の誤解』など。同志社大学大学院法学研究科博士前期課程修了。

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