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解散総選挙~科学技術政策の争点は?

榎木英介病理専門医&科学・医療ジャーナリスト

衆議院が解散し、総選挙に突入する。

経済政策を中心に様々な論点があるが、私は今回の選挙を、科学技術政策に焦点をあててみていきたいと思っている。

日本は「科学技術立国」をかかげ、与野党とも科学技術を重視した政策を打ち立てる。「研究開発力強化法」が自民、民主、公明の3党の提案で成立したように、与野党の政策にあまり相違点はないようにみえる。宗教的な価値観などが背景にあり、再生医療など、共和党と民主党のあいだで政策に違いが目立つアメリカなど諸外国とは異なる面もある。

しかし、よくみれば、科学技術政策にも問われるべき様々な論点がある。ひとことに「科学技術立国」を目指すといっても、取りうる政策は複数ある。また、科学技術は経済政策とも密接に関わる。

私は2003年から、仲間と各党の科学技術政策に関する公約の比較を行ってきた。また、2009年からは、各党に公開質問状を出し、科学技術政策のあり方を問うてきた(2009年衆院選2010年参院選2012年衆院選2013年参院選)。今回の総選挙でも、各党に科学技術政策に関する公開質問状を送付したいと考えている。

科学技術政策にどのような争点が考えられるだろうか。ここで整理したい。

1) トップダウンかボトムアップか

昨年総合科学技術会議が改組され、総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)が誕生した。科学技術政策をトップダウンで行うか(強化するか)、あるいは研究者の自主性や国民の要望をより重視するボトムアップで行うかが論点となる。

2) 選択と集中をどうするか

科学技術も含め、予算は限られており、あらゆる分野に湯水のように投じることはできない。どの分野を重視し、予算を投じるのかが争点となる。科研費(科学技術研究費補助金)などの競争的資金を重視するという政策もありうる。また、「スーパーグローバル大学」や「L型、G型」など、大学と研究のあり方も議論になっている。研究大学を選び、重点的に予算を投じるべきか、あるいは重点化するにしても、どこまで選択と集中を行うのかが論点となる。国立大学の運営費交付金をどうするかという問題もある。特定国立研究開発法人の是非も問われる。

3) 軍事研究(国防研究)のあり方

大学などにおける軍事研究をどうするか。

4) 科学技術に予算をいくら投じるか(人文社会科学系の諸分野に対する予算をどうするか)、予算のあり方

科学技術に3兆5千億円の予算が投じられているが、これにみあった成果がでていないという意見も、逆に予算が足りないという意見も出ている。また、人文社会科学系の予算が減額されるという懸念があるが、これもどうするかが問われる。科研費の基金化(年度繰越可能)をどうするか。

5) 若手研究者対策

若手研究者が不安定な立場に置かれ、才能を十分に発揮できていない状況が続いている。ポストドクターの数は減っていると言われるが、高齢化が進んでいる。こうした事態にどう対処するか。常勤研究者ポストを増やすか減らすか。若手研究者の多様なキャリアパスをどう実現するか。

6) 研究不正対策

STAP細胞事件や研究費不正流用など、研究不正はいっこうになくならない。これに政府としてどう対処するか。研究公正局(ORI)の設立の是非も問われる。

7) 科学と社会のあり方

震災や原発事故、STAP細胞事件など、科学技術に対する社会の信頼を低下させる問題が起こっている。科学技術の負の側面も含めて、国民とどう対話していくか。解決が求められている社会問題に科学技術がどう対処するか。

8) 研究支援者対策

京大山中伸弥教授が繰り返し述べるように、研究支援者が不安定な地位におかれている。労働契約法の5年ルールは10年となったが、不安定な地位は変わらない。こうした事態をどうするか。

9) 教育のあり方

STAP細胞の問題は博士号の価値、若手研究者教育の問題点をあらわにした。こうした事態にどう対処するか。理科教育のあり方。奨学金もふくめて、経済的、社会的格差にどう対処するか。

10) 情報公開

科学技術政策も含めた政府の情報の開示(オープンガバメント化)をどうするか。オープンアクセス化に対してどう対処するか。

こうした争点のなかには、政府しか対処できないもの、政府が対処すべきでないものもあるだろう。

おりしも第5期科学技術基本計画がどうあるべきか議論の真っ最中である。先日も経団連が第5期科学技術基本計画に関して提言を発表した。また、サイエンストークスは「勝手に『第5期科学技術基本計画』みんなで作っちゃいました!」という企画を行っている。

科学技術政策はもはや「聖域」ではない。いろいろな立場の人たちが関心を持ち、議論を深めていくことが重要だ。選挙がそのきっかけになればと考えている。

病理専門医&科学・医療ジャーナリスト

1971年横浜生まれ。神奈川県立柏陽高校出身。東京大学理学部生物学科動物学専攻卒業後、大学院博士課程まで進学したが、研究者としての将来に不安を感じ、一念発起し神戸大学医学部に学士編入学。卒業後病理医になる。一般社団法人科学・政策と社会研究室(カセイケン)代表理事。フリーの病理医として働くと同時に、フリーの科学・医療ジャーナリストとして若手研究者のキャリア問題や研究不正、科学技術政策に関する記事の執筆等を行っている。「博士漂流時代」(ディスカヴァー)にて科学ジャーナリスト賞2011受賞。日本科学技術ジャーナリスト会議会員。近著は「病理医が明かす 死因のホント」(日経プレミアシリーズ)。

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