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日本の科学技術政策はどうなるのか?各党の公約を比較してみた

榎木英介病理専門医&科学・医療ジャーナリスト

2014年総選挙における科学技術政策に関する主要政党の公約を比較する。ここで比較する科学技術政策には、エネルギー、原発政策、環境政策、医療政策は含まない。それぞれ密接に関係する政策ではあるが、基礎科学、純粋科学も含めた科学技術の振興や発展、若手研究者の才能をどう発揮するか、STAP細胞事件に代表されるような研究不正にどう取り組むか、といったことについて着目したい。

以下比較した公約

1.そもそも科学技術政策に関する記載があるのか

まずみたいのが、そもそも比較できる政策を公約に記載しているか、ということだ。

詳細な記載がある

自民、共産

ある程度記載がある

民主

わずかに記載がある

公明(ロボット産業の振興、奨学金)、維新(臨床研究不正対策)、次世代(ロボット、人工知能等先端技術や資源開発への投資拡大、技術立国を維持する)、生活・社民(奨学金)、新党改革(留学生政策及び下記参照)

#訂正:次世代の党に技術政策の記載がありましたので、追加しました。

#追記 新党改革は以下の記載あり

今後の成長が見込める産業には、重点的に研究開発予算を投じ、技術の面から国際優位性を達成します。そのため、政治主導による科学技術の司令塔組織(科学技術局)を創設し、科学技術立国の復活を図り、国際競争力を強化していきます。

科学技術政策の公約が乏しいというのは、科学技術が票にならないということなのだろう。国民の科学技術に関する関心の低さを反映しているのであり、政党のせいばかりではないが、これは非常に残念というか、お話にならない。私達は2003年から公約比較しているが、一向に変わらない。

2.自民、民主、共産の政策を比較してみる

比較できる部分を抜き出した。

科学技術政策決定の仕組み

自民党:官邸主導

民主党:記載なし

共産党:学術団体の意見を尊重、人文・社会科学の役割を重視

競争的資金

自民党:大幅拡充

民主党:記載なし

共産党:科学研究費補助金を大幅に増額し、採択率を抜本的に引きあげ

若手研究者対策

自民党

  • 大学院生への恒常的な経済的支援の拡大
  • 中長期インターンシップの導入の積極的な促進
  • 研究者の安定したキャリアパスの確立
  • マネジメント人材であるリサーチ・アドミニストレーターや「目利き」人材といった専門人材の育成
  • 若手研究者の安定的なポストを大幅に増やす
  • 優秀な研究者が大学や公的研究機関、産業界の枠を超えて活躍できる環境を整備
  • 産業界と連携した若手研究者や大学院生に対する企業家・イノベーション人材育成を実施
  • 産業界の研究職や知的財産管理等の研究支援に携わる専門職等での活躍を促進
  • 公的研究機関等における、ポスドクなどを対象とした専門人材育成の取り組みを支援し、活躍機会を拡大
  • 研究者の名前を冠した「冠プロジェクト」を創設

民主党

  • 大学などの理系カリキュラム改善
  • インターンシップを産学官連携で推進
  • テニュアトラック制の普及
  • 補助員の配置

共産党

  • 運営費交付金を大幅に増額し、若手教員・研究者の採用をひろげる
  • 公務員の大学院卒採用枠を新設し、学校の教師や科学に関わる行政職、司書や学芸員などに博士を積極的に採用
  • 博士を派遣や期間社員で雇用する企業に対して正規職への採用を促すとともに、大企業に対して博士の採用枠の設定を求める
  • テニュアトラック制をさらに発展、期限終了後の雇用先の確保を予め義務づける制度を確立
  • ポスドクの賃金の引き上げ、社会保険加入の拡大をはかる
  • 特別研究員制度を大幅に拡充
  • 大学院生に給付制奨学金を創設

女性研究者

自民党

  • 大学等における保育環境の整備、研究と出産・育児・介護等との両立、研究力の向上に向けた女性研究者の支援を図り、わが国初の女性ノーベル賞の受賞を目指す

民主党

  • 研究環境の整備を行う
  • 女性研究者の育成・支援に取組み、欧米諸国などに比べ低い女性研究者の割合を引上げる

共産党

  • 性差別撤廃条約が求める「家庭及び子の養育を男女及び社会全体が担うべき」という考え・意識をひろげる
  • すべての大学・研究機関が男女共同参画推進委員会などを設置し、教員、研究員、職員の採用、昇進にあたって女性の比率を高めるとりくみを、目標の設定、達成度の公開をふくめていっそう強めることを奨励・支援
  • 各大学・研究機関における男女格差是正のための暫定的措置(ポジティブ・アクション又はアファーマティブ・アクション)の運用を推奨し、女性研究者のキャリア形成を支援するプログラムの形成を促す
  • 大学・研究機関が、男女共同参画の促進やセクシャルハラスメント・アカデミックハラスメントなどの人権侵害を防止する専門家を専任で配置することへの支援を強める
  • 出産・育児・介護にあたる研究者にたいする業績評価での配慮、育児休業による不利益あつかいの禁止、育児支援資金の創設をはじめ休職・復帰支援策の拡充、大学・研究機関で働き・学ぶすべての者が利用できる保育施設の設置・充実など、研究者としての能力を十分に発揮できる環境整備促進に力を尽くす
  • 文科省が実施している女性研究者支援のための補助事業を大幅増額するとともに、採択枠を文系・理系を問わずすべての分野に拡大し、保育所の設置・運営なども経費負担に含めるなど現場の実情に即して柔軟に利用できる制度に改善
  • 非常勤講師やポスドクについても出産・育児にみあって採用期間を延長し、大学院生に出産・育児のための休学保障などの支援策をひろげる
  • 企業に対しては、研究・技術職に女性を積極的に採用すること、昇進・昇格・仕事内容において性差別をしないことなどを求める

研究不正

自民党:予めルールを明確にすることで実効性ある対応が確保されるよう、不断の取組みを進める

民主党:記載なし

共産党:科学者としての倫理規範の確立を促すとともに、不正の温床となっている業績至上主義とそれを助長する過度に競争的な政策をあらためる、大学・研究機関における外部資金の管理を厳格におこなう

国立大学法人運営費交付金

自民党:安定的確保

民主党:記載なし

共産党:大幅増額

大学

自民党:大学院教育の抜本改革(「卓越大学院」群を形成)

民主党:研究の中核となる大学の研究力を強化し、世界で戦えるリサーチユニバーシティ(研究大学)を増強

共産党:「大学改革実行プラン」を中止、国立大学法人制度を抜本的に見直す

大学のガバナンス

自民党:学長のリーダーシップを強化

民主党:記載なし

共産党:「大学の自治」を尊重

軍事研究

自民党:デュアルユーステクノロジー推進

民主党:記載なし

共産党:科学・技術の平和利用と研究における非軍事を原則とすべき

国際リニアコライダー計画

自民党:ILCに向けた加速器技術への挑戦

民主党:研究拠点の日本誘致に取り組む

共産党:記載なし

研究開発型の独立行政法人

自民党:研究開発法人制度を創設

民主党:最大限活用、制度構築・運用改善を行う

共産党:記載なし

その他

自民党

  • 世界中から第一線級の研究者を集める
  • 国際科学イノベーション拠点の整備

民主党

  • 世界最先端の研究基盤の整備・共用を推進し、世界の研究者を惹きつける国際的な研究拠点を充実
  • イノベーション(技術革新)を促す基礎研究成果の実用化環境を整備

共産党

  • 科学者で常勤の審査員を大幅に増員し、将来性ある研究、萌芽的な研究を見極める「目利き」のある審査、公正な審査を充実

総評

もう10年以上同じようなことを言っているが、科学技術政策に関しては、自民党と共産党が記載が多いという状態が続いている。民主党は一度政権を担ったためか、以前よりは多少記載が多い印象だが、まだ両党に及ばない。

自民党と共産党は、科学技術政策に関しては、トップダウン型かボトムアップ型かという明確な争点がある。ただ、若手研究者対策に関しては、常勤研究者を増やすといった共通点も見出される。そうした部分については、是非推進していただけたらと思う。

科学技術政策に関する公開質問状の回答はこちらに掲載しました→科学技術を重視する党は?公開質問状に対する各党の回答

病理専門医&科学・医療ジャーナリスト

1971年横浜生まれ。神奈川県立柏陽高校出身。東京大学理学部生物学科動物学専攻卒業後、大学院博士課程まで進学したが、研究者としての将来に不安を感じ、一念発起し神戸大学医学部に学士編入学。卒業後病理医になる。一般社団法人科学・政策と社会研究室(カセイケン)代表理事。フリーの病理医として働くと同時に、フリーの科学・医療ジャーナリストとして若手研究者のキャリア問題や研究不正、科学技術政策に関する記事の執筆等を行っている。「博士漂流時代」(ディスカヴァー)にて科学ジャーナリスト賞2011受賞。日本科学技術ジャーナリスト会議会員。近著は「病理医が明かす 死因のホント」(日経プレミアシリーズ)。

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