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無自覚だったYahoo! JAPANのメディア化、ステートメントの実質化に向けて改善へ

藤代裕之ジャーナリスト

先日、Yahoo! JAPANの宮坂学社長へのインタビューに関して、対応がメディアステートメントと整合性が取れていないと指摘した記事を公開した件で、広報とニュースの担当者と話し合いを持ちました。こちらの指摘の意図を理解して頂き、メディアの社会的責任について社内の理解や議論が不十分なまま公表された状況のステートメントが実質化するように何らかのアクションを行いたい、と改善していく方向性が示されました。

最初の記事投稿から時間がかかってしまい、申し訳ありませんでした。たくさんの意見や反応を頂きありがとうございます。話し合いでは、まず広報として調整と説明が不十分であったという謝罪を頂きました。こちらも取材依頼に関する説明が不十分であったことを謝罪し、取材はしかるべき担当者に対応して頂けることになりました。記事の趣旨は、どの媒体の、誰の取材を受けるのかという広報対応の問題ではないことを述べ、問題がメディアステートメントとの整合性にあることを説明しました(言うまでもないことですが、この記事も社員の個人的な責任を追求するつもりはありません)。

プラットフォームとメディアの違い

Yahoo! JAPANは長い間、プラットフォームとしてマスメディアから記事の配信を受けてきました。独自記事はつくらない、配信された記事を紹介しているだけ、という立ち位置でメディア的な責任を回避してきました。プラットフォームというのは、ブログやSNS、掲示板のようなサービスで、プロバイダ責任制限法の範囲内での対応が基本です。問題になる書き込みがあれば、手続きにしたがって削除などの対応することでプラットフォームの責任は免責されているのです。この枠組みは、インターネット上のヘイトスピーチや人権侵害の拡大につながっている部分もあります。

ヤフーニュースは、トップページに掲載する記事を選び、タイトルをつけているので、微妙ではありますが、「私たちは掲載しただけで、責任はない」という論理を展開してきました。ロス疑惑の三浦和義氏(故人・無罪)遺族が慰謝料を求めた訴訟で、ニュースサイトの運営会社側にも責任を認める判決が出ていますが、基本的にはプラットフォームであるという立場を崩していませんでした。いまや、ヤフーは独自に記事を作り始め、メディアであることをステートメントで認めたのです。

読者から見えない世論の誘導

しかしながら現実は、プラットフォーム的な意識のまま、なし崩しでメディア化しています。

例えばヤフー個人には、アカウントを持つ個人が自由に書いている記事と、Yahoo! JAPANの発注を受けて書いている記事が混在しています。発注記事は、テーマや文字数が決められ、記事内容の事前チェックもあります。特に記載はないので、読者からは判断がつかず、個人が自由に書いた記事に見えてしまうのです。

Yahoo! JAPANはメディアとしてアジェンダ・セッティングを行っているということです。何らかの意図を持ったキャンペーンを行い世論を誘導することも可能なのです。これは読者を騙した「ステマ記事」といってもいいでしょう。

問題なのは、Yahoo! JAPANのような大きな影響力がある企業が、このような隠れた世論誘導につながる取り組みを行っていることに無自覚であるということです。担当者は真面目な方が多いことを知っていますが、大きな影響力を持っているだけに、これからの担当者が誰かに買収されていたり、特定の思想に影響されて誘導したり、することが無いという保証はありません。メディアを標榜しながら、メディアの自覚がないというのは大変恐ろしいことなのです。

メディアとして信頼を築けるか

メディア的な責任には、筆者や取材先といった関係者を守ることも含まれます。

記事に問題があれば、自社の記者が取材したものであれ、依頼して寄稿したものであれ、基本的にメディア側が対応し、責任を引き受けます。筆者や取材先から見れば、メディアは守ってくれる存在でなければなりません。そうでなければ社会的な課題や微妙な問題を書くことは不可能です。

メディアは社会の課題に光を当て、知られなかった事実を掘り起こし、読者に未来のために判断するための材料を提供する役割を持っています。これはジャーナリズムと言って良いでしょう。ただ、社会の課題を扱えば、必ずコンフリクトが起きます。ふじいりょうさんは、今回の問題でステートメントと異なる対応をしたことに、トカゲのしっぽ切りに遭うのではないか、と不安を表明しています。

トラブルや訴訟になった時に、ヤフー個人の執筆者に責任を押し付けるのではないかということを心配しているのです。コンフリクトが起きる可能性があるからこそ、取材相手と書き手、メディアの間の信頼関係が必要です。

「この人だったら、この媒体だったら、伝えても大丈夫だ」と思ってもらう必要があります。プラットフォームとメディアを都合よく使い分けるような組織は信用出来ませんし、重要な情報を預けることは出来ません。

広報対応をウソだと指摘した記事について、大げさだとか、バイラルメディアと同じやり方という批判がありましたが、言っていることと、やっていることが違う、というのは大変大きな問題なのです。誠実に対応する組織でなければ、信頼関係など築けるわけがありません。

現状はステートメントとの整合性が不十分

上記のような、メディアを名乗りながらプラットフォーム的な曖昧さがある立ち位置だけでなく、メディアを名乗ることによる社会的な責任と起き得るリスクに関しても話し合いました。

ステートメントにあるように、言論に責任を持ち「社会にとって重要な情報や新たな関心を呼び起こすような情報」を届けようとすれば、権力からの介入、様々な圧力、社員への脅迫なども当然起き得ます。このようなリスクについては組織的に準備不足であること、メディアの社会的責任について社内での理解や議論が不十分なことを担当者は認めていました。

識者にもステートメントを確認してもらったようですが、メディアを名乗ることの重要性や大変さを指摘した人もいなかったようです。残念ながらYahoo! JAPANは、組織的にも人員的にもメディアを宣言するには経験不足だったのでしょう。「プラットフォームとしてやるということも考えてもいいのではないですか?」とも言ってみましたが、社会的な責任を担うメディアを目指したいとのことでした。

話し合いでは、担当者は個人として、未熟さを認め、覚悟を持って進めていきたいという姿勢を感じることができました。荒っぽい問題提起を受け止めて頂いた事を感謝し、インターネットのジャーナリズムを支える役割への期待、求められれば協力を惜しまないことをお伝えしました。既に社内でも議論が始まっているとのことです。メディアとして自覚を持ち一歩を踏み出せるのか、Yahoo! JAPANの組織としてアクションに期待したいと思います。

ジャーナリスト

徳島新聞社で記者として、司法・警察、地方自治などを取材。NTTレゾナントで新サービス立ち上げや研究開発支援担当を経て、法政大学社会学部メディア社会学科。同大学院社会学研究科長。日本ジャーナリスト教育センター(JCEJ)代表運営委員。ソーシャルメディアによって変化する、メディアやジャーナリズムを取材、研究しています。著書に『フェイクニュースの生態系』『ネットメディア覇権戦争 偽ニュースはなぜ生まれたか』など。

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