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「災害時に何をどう発信するのか」熊本でマスメディア、NGO、自治体関係者が議論

藤代裕之ジャーナリスト
報告を行う熊本日日新聞の小多社会部次長=ホテル日航熊本

災害発生時の支援団体と自治体、メディアの連携を深めることを目的にした災害報道研修会「災害時に何をどう発信するのか~メディア、NGO、自治体による効果的な災害対応のために~」(マスコミ倫理懇談会全国協議会、ジャパンプラットフォーム共催)が、2月15日熊本市内のホテル日航熊本で行われました。

研修会には、全国から新聞、テレビ、通信社、ヤフーの記者や担当者、熊本県内を中心に自治体の担当者、災害支援を行うNPOやNGO、生協などから100人が参加しました。

ジャパンプラットフォーム(JPF)の阿久津幸彦国内事業部長は「メディア、NGO、行政が一同に介して、災害時の発信について話す機会は初めてではないか。連携していくことで、災害時の命を救うことができる」と挨拶しました。この記事では事例報告の概要を紹介します。

不確かな情報があるのを前提に活用を

2016年の熊本地震でツイッターで情報発信をしたことで注目された大西一史・熊本市長は「災害時のツイッター活用」と題して講演。

「ツイッターで紹介したのはデマの否定、給水ポイントや漏水箇所情報提供の呼びかけ。漏水箇所の報告は、写真を撮って住所を知らせて頂くことで場所が特定できると考えた。最初はツイートを見ろと水道局に伝えたが、あまりにも多くなって見れなくなってしまった。そこで、途中からホームページに情報を流してくださいと切り替えた。当初は、電話番号を書いていたので、電話が殺到したのでコールセンターを準備した」と状況に応じて発信や情報収集のあり方を変化させたと説明しました。

また、注意点として「安心感を持ってもらうことが大事なので、慌ててツイートしない。流したほうがいい情報は次々あるが、確認したり、下書きに寝かせることもした」と話し、「普段のコミュニケーションがうまくできていれば、いざという時に本領を発揮する。役所のアカウントを堅いが、日常を垣間見せる発信をしていて注目している」と熊本県警のアカウント(@yuppi_KK)を挙げました。

マスメディアに対しては「新聞を避難所に配ってほしい、テレビを設置してほしいと依頼したら対応してくれたのはありがたかった。事前の協定、コスト負担も考える必要がある」と評価する一方、取材のあり方について「避難所取材でライトで夜眠れないなど不満はかなりある。引き続き研究してもらいたい」と対応を呼びかけました。

ツイッター情報の確認に関する会場からの質問に「発信者はその場所にいるかは分からないので、前後の書き込みを確認していた。玉石混交、不確かな情報が入ってくるというのを前提に使う必要がある」と回答しました。

行政だけでなく個人の備えも必要

熊本県の本田圭知事公室危機管理監は、震度6弱以上の地震が7回(阪神・淡路大震災は1回、新潟県中越地震は5回)、余震が2,959回(230回、680回)、最大避難者数18.4万(31.7万、10.3万)というデータを提示しながら、「熊本地震の影響は非常に大きい」と説明。

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「迅速な救出救助が展開され、1700名を超える救出・救助が行われた。熊本空港に他地域支援の拠点として防災駐機場を整備していたが、応援ヘリ150機の受け入れに効果を発揮した。民間企業の高度な技術により、行政だけではできなかった捜索が出来て、最後のお一人を見つけることが出来た。報道機関には対策本部会議を全面公開し、問い合わせが減少した。資料はホームページに公開している」

「課題については、物資の集積拠点を予定していたグランメッセや市町村庁舎が被災し、利用できなくなった。行政の手がとどくまでの間をしのぐ個人の備えが不十分だった。支援物資は届いたが、必要なものを、必要なだけ、避難所に配送するのは難しい。余震が頻発し、車中泊が多くあり全体像が把握できなかった。避難所運営を行政主体になってしまった。自主運営やボランティアに引き継いでいく必要がある。県内外からの問い合わせ電話が増加し、災害対応に支障が生じた」

と災害対応の評価点と課題点をそれぞれ紹介しました。

厳しい取材の中で報道が出来ること

地元紙である熊本日日新聞社の小多崇社会部次長兼論説委員兼編集委員は「前震と本震が違いすぎ局面が大きく変わっていった。前震の時は、より大きい地震が来るとは予想できないと考えていた。局所的から、広域へと取材が広がり、混乱した状況だったのは否めない。南阿蘇村の隣の高森支局に20代の若い記者が一人いただけ、住んでいた記者らが自主的に動いて対応したが、交通網が寸断するなかで厳しい取材体制となってしまった」と当時の取材状況について詳しく話しました。

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阿蘇大橋付近で山体崩壊に巻き込まれて犠牲になった大学生について、当初は行方不明かどうか分からないと判断されていたと明かし、「お父さんから、息子さんが帰って来ないのに探してくれない。助けて欲しい、報道して欲しいとお願いされて紙面で報じた。ご両親は、自ら捜索に動かれ、取材にも丁寧に対応頂いた。報道が出来ることはこういうことではないか」と振り返りました。

女性への対応が遅れている

NGOや政府、経済界と調整を行うJPFの阿久津部長は、スフィア・スタンダード(人道憲章と人道対応に関する国際基準)について触れ、「日本は先進国と言われながら、特に女性への対応に関しては遅れている。トイレの数も少なく、トイレを我慢することで災害関連死につながりかねない。東日本大震災時には省庁幹部は男性ばかりだった、いまでは少しずつ変わってきているが、リーダークラスに女性がいないと末端に女性がいても想いが反映されない」と指摘しました。

メディアとの関係については「行政方針や被災地の全体像の報道は支援活動に有益である。地元紙で過去の事例を用いた連載が行われて参考になった。一方で、課題を先読みした報道、特定の地域や施設に取材が集中している、同じ報道機関内で情報が共有されていない、などの課題がある」と支援団体によるアンケートを紹介しました。

現場を知るNGOから一次情報を

このあと参加者は2つの分科会に分かれて議論、再び集まった全体会で、研修会の開催を呼びかけたシリアなどで活動する田邑恵子さんは「国連では一回の調査で包括的な情報集約を行う、マルチニーズ合同調査チームがある。食料、衛生、教育などの関係者が合同でニーズを把握することにより負担を軽減している。3日間ぐらいの協働は可能ではないか」と会場に訴えました。NGO関係者からは「現場にいるので、現場の状況が分かっている。一次情報としても利用して欲しい」という提案もありました。

初めての取り組みということで、それぞれの立場の説明や課題を出すことが中心でしたが、「なぜ、これまでこのような場がなかったのか」「非常に参考になった」とネットワークタイムでも議論が続いていました。

ジャーナリスト

徳島新聞社で記者として、司法・警察、地方自治などを取材。NTTレゾナントで新サービス立ち上げや研究開発支援担当を経て、法政大学社会学部メディア社会学科。同大学院社会学研究科長。日本ジャーナリスト教育センター(JCEJ)代表運営委員。ソーシャルメディアによって変化する、メディアやジャーナリズムを取材、研究しています。著書に『フェイクニュースの生態系』『ネットメディア覇権戦争 偽ニュースはなぜ生まれたか』など。

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