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被災リスクを避けるには〜安全の基本は自律・分散・協調と地元愛

福和伸夫名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長
(写真:アフロ)

災害リスクを増す都市への人口集中

都市への人口集中は、様々な点でひずみを生みます。都市が過密化・高層化し、災害危険度の高い場所にまちが広がるため、災害被害が激増します。アメーバー状に拡大した都市は、焼け止まりが無く、万が一、大規模火災が発生すれば、消防力が不足し、焼け尽くされることになります。1923年関東地震での地震火災を思い出してみましょう。いくら不燃化が進んだとは言え、人口が200万人から1000万人に増えたことに、危惧を覚えます。社会が持つ災害対応力を超えれば、社会が破綻することになりますから、適正な大きさ以下に都市規模を抑制することの大切さを感じます。

被災者数に左右される地震被害

兵庫県南部地震(1995年1月17日、M7.3、死 6434不明3)では、6000人を超える犠牲者を出しましたが、それ以降、発生したマグニチュード7クラスの活断層による地震では、100人を超える犠牲者は出ていません。鳥取県西部地震(2000年10月 6日、M7.3、死0)、芸予地震(2001年 3月24日、M6.7、死 2)、新潟県中越地震(2004年10月23日、M6.8、死68)、福岡県西方沖地震(2005年3月20日、M7.0、死1)、能登半島地震(2007年3月25日、M6.9、死1)、新潟県中越沖地震(2007年7月16日、M6.8、死0)、岩手・宮城内陸地震(2008年6月14日、M7.2、死17不明6)、岩手県沿岸北部地震(2008年7月24日、M6.8、死1)、長野県北部地震(2011年 3月12日、M6.7、死3)、福島県浜通りの地震(2011年 4月11日、M7.0、死3)、長野県北部の地震(2014年11月22日、M6.7、死1)などです。このことから、地震被害の大きさは、地震規模ではなく、被災人数によって決まり、被災人数と共に指数関数的に被害が増大することを示しています。

過去の地震との違い

我が国では、繰り返し、南海トラフ地震に見舞われ、その前後には、西日本を中心に地震の活動期を迎えてきました。ですが、我が国社会が破綻するようなことは無かったように思います。例えば、有史以来最大の南海トラフ地震・1707年宝永地震では、確かに大きな被害を出したものの、地域ごとに独立性の高かった幕藩体制下では、被害は被災地に止まり、他地域への波及は少なかったと考えられます。東日本大震災の被害が全国に波及したこととはずいぶん異なります。食料やエネルギーを自給自足していなければ、他地域の災害を受けます。南海トラフ巨大地震の予測被害が甚大になっている理由は、地震規模よりは、社会の災害脆弱度の増加にあると思われます。

安全の基本は自律・分散・協調型社会

このため、地域の自律力が災害への耐力を決めることになります。また、同時被災リスクを避けるには、危険の分散を図る必要があります。被災時のリスク移転のために、他地域との災害応援の仕組みを作っておくことも役に立ちます。東京一極の国土構造を、自律・分散・協調型の国土構造に変えるには、地域の力が源泉となります。甚大な地震被害を受ける前に、各地の魅力を増し、地域の力をつけておきたいと思います。

地元愛で地域を安全に

そのための鍵は、地元愛です。地域の歴史・文化・伝統を愛する心を持ち、地元を良くしたいという気持ちを持って、多くの人たちと力を合わせ、地域の人の心に訴えかけ具体的な行動に結びつけていくことが大切です。そうすれば各地に、魅力的で多様な地域が形成されていきます。その結果、若者が地域に残って活躍し、結果として安全な地域が作られていきます。

名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長

建築耐震工学や地震工学を専門にし、防災・減災の実践にも携わる。民間建設会社で勤務した後、名古屋大学に異動し、工学部、先端技術共同研究センター、大学院環境学研究科、減災連携研究センターで教鞭をとり、2022年3月に定年退職。行政の防災・減災活動に協力しつつ、防災教材の開発や出前講座を行い、災害被害軽減のための国民運動作りに勤しむ。減災を通して克災し地域ルネッサンスにつなげたいとの思いで、減災のためのシンクタンク・減災連携研究センターを設立し、アゴラ・減災館を建設した。著書に、「次の震災について本当のことを話してみよう。」(時事通信社)、「必ずくる震災で日本を終わらせないために。」(時事通信社)。

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