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高層ビルの揺れ、どんな安全対策をとり、どう行動すればよい?

福和伸夫名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長
(写真:アフロ)

高層ビルの揺れの大きさは?

高層ビルの耐震設計では、想定する地震動に対して、構造的な損壊を抑え、内外装材や設備の損傷を防ぐために、各階の変形の傾き(層間変形角と言います)を1/100程度以内に納めるようにしています。建物高さの1/100の程度の揺れでは壊れないと言う意味です。逆に言えば、200mの高さの建物であれば、最上階の利用に当たっては、往復4m程度の揺れが生じるということを踏まえる必要があると言うことです。200mの高さの建物の周期は4~5秒ですから、揺れの速度は最大、秒速3mくらいになります。10畳の部屋の長手方向を往復4~5秒で走ってみると大変な速度だということが良くわかります。先日公表された南海トラフ地震の長周期地震動予測結果では、大阪の周期6秒の建物の揺れ幅が6m程度と示されていましたが、これも同程度の速度に相当します。

どんな揺れ方?

高層ビルのように細長い建物では、下の方の階は、長方形の形が平行四辺形になるような「せん断変形」をしますが、上の方の階は、建物全体が下敷きのように曲がるため、「せん断変形」に加えて長方形の形が傾くような「曲げ変形」が生じます。水平の揺れは1方向ではなく、2方向になり楕円軌道を描きます。上層階の窓際にいると、この水平の揺れに加え、曲げ変形で床が傾斜するため上下の動きも加わります。窓の外の風景が上下することになるため、大変怖い思いをすると思われます。

東日本大震災の時に大阪の高層ビルの最上階に居た方が、「大きな揺れを感じるより 少しずつ 気がつけば 本当に動かされているような感覚」「このまま折れて自分が真下に落ちて行くんじゃないか 恐怖を覚えたんですよね ジェットコースターで落ちる瞬間のイメージです」と話されていたことが思い出されます。ちなみに、このビルの揺れ幅は270cm程度でした。

高層ビルを揺れなくするには?

高層ビルが強く揺れる理由は二つあります。一つは、長周期地震動に対しては地震動の揺れの周期と高層ビルの揺れの周期が近くなるため共振しやすいこと、もう一つは高層ビルは一度揺れたら揺れが収まりにくいという特徴があるため長い時間地震動が作用すると強く共振して揺れが大きくなりやすいこと、です。ということは、揺れにくくするには、地震動の周期と建物の周期を離すこと、建物を揺れにくくすることが、効果的だということです。

現状、震源から放出される地震波の周期を事前に予測するのは難しいのですが、建物の下の地盤の揺れやすい周期は計測で簡単に調べられます。従って、地盤の揺れやすい周期を避けることはできます。地盤と共振しにくい高さの建物にすることができれば良いのですが、建築計画上は一般に難しいようです。そこで役に立つ方法が「免震」です。建物の下に積層ゴムなどを設置して建物の周期を長周期化して、共振を回避する方法です。ただし、高層ビルの場合は元々長周期ですから、低層の建物に比べると免震効果が小さいかもしれません。もう一つの方法は、建物を揺れにくくする「制振」です。建物の中に振動エネルギーを吸収する部材を設置することで、揺れを速やかに抑えます。水飴のようなネバネバしたものを建物につけるイメージです。免震、制振ともに既存の建物にも使うことができます。我が国は、免震技術や制振技術では世界をリードしていますので、長周期地震動の解決策として有効だと思っています。

揺れても大丈夫な準備を!

高層ビルの上層階では、強い揺れで家具が転倒したり、走り回ったりします。家具固定などの室内安全対策は必須です。また、揺れに翻弄されないように、廊下などには手すりがあると良いと思います。高層ビルは、エレベータや電気・水道など各種設備に依存しています。たとえ、物理的な損傷が無くても停電した時はこれらが使えなくなります。非常用の発電設備の設置が望まれます。

高層マンションにお住まいの方々は、地元の方々との付き合いが希薄な場合が多いようです。ライフライン途絶時に避難所にマンション住民が大量に押し寄せるとトラブルになりがちです。マンション内の上・下階での助け合いや、食料・水・災害用トイレの備蓄を心がけておきたいと思います。また、エレベータ停止時には救急隊が高層階に向かうのは困難になります。高齢者や負傷者救出のため、非常用階段避難車を準備しておくと良いでしょう。事業所では、事業継続のために、重要な機能の低層階への移設や、バックアップ施設の確保等が望まれます。また、浸水予想地域では、ディーゼル発電機などの非常用設備は上層階に移設しておく必要があります。

地震後にビルを継続して利用して良いかどうかの判断をするには、地震計が役に立ちます。残念ながら、高層ビルの構造設計者の数は限られていますから、地震後すぐに安全点検することができません。建物に地震計を設置しておけば、その揺れが、耐震設計で考えていた揺れを上回ったかどうかを直ぐに確認できますから、地震直後に継続使用できるかどうか速やかに判断できます。

落ち着いた行動を!

緊急地震速報があれば、揺れる前に情報をキャッチできます。高層ビルは揺れが大きくなる前に十分な時間がありますから落ち着いて行動することが大切です。まずは、窓から離れ、廊下やエレベータホールなどの安全な場所に移動し、手すりなどに捕まってください。大地震では、揺れは10分以上続きます。余震も起きますから、揺れ続けることになります。非常階段は主として火災を前提にしていますから、幅が狭く、地震後の全館避難は大混雑になり危険です。また、高層ビルが林立する場所では、ビル内の人が皆地上に出てしまうと満員電車のようになります。ビルからガラスなどが降ってくる危険もありますから、ビル内に留まることが大切になります。

名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長

建築耐震工学や地震工学を専門にし、防災・減災の実践にも携わる。民間建設会社で勤務した後、名古屋大学に異動し、工学部、先端技術共同研究センター、大学院環境学研究科、減災連携研究センターで教鞭をとり、2022年3月に定年退職。行政の防災・減災活動に協力しつつ、防災教材の開発や出前講座を行い、災害被害軽減のための国民運動作りに勤しむ。減災を通して克災し地域ルネッサンスにつなげたいとの思いで、減災のためのシンクタンク・減災連携研究センターを設立し、アゴラ・減災館を建設した。著書に、「次の震災について本当のことを話してみよう。」(時事通信社)、「必ずくる震災で日本を終わらせないために。」(時事通信社)。