Yahoo!ニュース

使った水は処理しないと捨てられない、いざというときのトイレ対策を考える

福和伸夫名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長
(写真:アフロ)

使ったものは処理が必要

私たちは、食べることについては関心がありますが、排泄に関しては意外と無関心です。例えば、上水道が動脈だとすると、下水道は静脈のようなものです。当たり前ですが、汚い水はきれいにしなければ、河川や海に排出することはできません。たとえば、福島原発では、増え続ける汚染水を貯めるため、膨大な数のタンクを建設しつづけています。万が一、災害時にゴミや排水の処理ができなったとすると、私たちの生活はどうなるでしょうか。

家庭から出る汚水と下水道

普段の生活で、炊事、洗濯、入浴など、大量の水を使っています。この水は、洗剤やゴミが入った生活雑排水になります。トイレからは屎尿も出ます。生活雑排水と屎尿は汚水として排出します。下水道が整備されている都市部では、汚水は下水管などの管路を通して下水処理施設に運び、きれいにした後、河川や海へと放出します。

下水処理施設では、水処理と汚泥処理を行います。水処理では、物理的に固形物などを分離・除去する物理学的処理と、微生物などを利用して有機物を除去する生物学的処理を行います。水処理工程を経た水は消毒・滅菌して河川や海へ放流します。また、水処理で発生した汚泥は、汚泥処理で、濃縮、脱水、乾燥、消化して、減量化します。固化した汚泥は、煉瓦、セメント、肥料などに再利用したり、発生したメタンガスは発電に利用したりしています。

下水管は、自然流下式、真空式、圧力式があり、自然流下式以外の方法では電気が必要になります。ポンプや、水処理、汚泥処理にも電気や燃料が必要になります。また、処理施設は、一般に河川や海に近い低地に作られるため、浸水や液状化の危険度も高いと考えられます。万が一、災害時に下水道が機能しなくなると、上水道を使うことが困難になります。このため、停電対策や浸水対策が不可欠ですが、赤字がちな下水道事業では、十分な対策が難しいのが現状です。

集排と浄化槽

我が国の下水道普及率は77.6%(平成27年3月)程度で、先進国の中では決して高くはありません。下水道が整備されていない地域の中には、農業(漁業・林業)集落排水処理施設(いわゆる集排)が整備されている所もありますが、人家がまばらなところでは浄化槽が使われています。現在使われている浄化槽は800万基程度です。初期の浄化槽は屎尿処理のみをしていましたが、今は生活雑排水と屎尿を処理する合併処理浄化槽が採用されています。浄化槽には、ブロワーや水中ポンプなどが付いており、長期間停電すると使用が難しくなることも考えられます。また、地中に設置する際に、周辺の土を乱すために、地下水が浅い場合には液状化などで被害を受けることもあります。

雨水

都市部では、雨水も下水道に排出します。雨水の排除方式には、汚水と分けて排水する分流式と、一緒に排水する合流式があります。汚水排除の目的は公衆衛生ですが、雨水排除は水害対策が主目的になります。分流式の場合には雨水処理施設を通して公共用水域に排出します。ゲリラ豪雨による内水氾濫が問題になっているため、近年では、ポンプ場などの雨水排水施設に加え、雨水貯留施設や雨水浸透施設を利用した総合的雨水対策が行われています。ポンプ場に関しては、停電対策、燃料確保、施設の嵩上げなどが必要となります。

産業排水

工場などから排出される産業排水は、下水道処理計画区域では、基準に適合する水質に処理してから下水道に排出します。また、区域外では、水質汚濁防止法等に適合する水質に処理してから公共用水域に排出します。いずれにせよ産業排水処理が不可欠です。逆に言えば、適切な処理ができなければ、工場の稼働ができないので、災害後も処理施設が稼働できるよう事前の備えをする必要があります。

まずはトイレ対策から

下水処理の災害対策は、行政でしかできないことですから、私たちはその必要性を訴えることしかできません。まず、家庭ですべきことは、トイレ対策です。食べたり飲んだりすれば、排泄物がでます。トイレを流すのに必要な水は10リットル程度です。断水した場合、下水道が使えれば、お風呂に蓄えた水などを利用して、バケツなどで直接便器内へ流します。お風呂の水は200~300リットルありますから、20~30回は利用できます。

下水道が使えない場合は、非常用トイレなどを使います。必要な数は、1日に大便が1回、小便が4回だとし、小便は4回で取り替えるとすると、4人家族7日分で、56枚になります。中高層集合住宅の場合は、停電するとエレベータが使えず、断水もしますので非常用トイレの備蓄が必須です。

小中学校などの避難場所でもトイレは大きな問題になっています。最近では、避難場所にあらかじめ災害トイレとしてマンホールトイレを設置している場合もあるようです。

名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長

建築耐震工学や地震工学を専門にし、防災・減災の実践にも携わる。民間建設会社で勤務した後、名古屋大学に異動し、工学部、先端技術共同研究センター、大学院環境学研究科、減災連携研究センターで教鞭をとり、2022年3月に定年退職。行政の防災・減災活動に協力しつつ、防災教材の開発や出前講座を行い、災害被害軽減のための国民運動作りに勤しむ。減災を通して克災し地域ルネッサンスにつなげたいとの思いで、減災のためのシンクタンク・減災連携研究センターを設立し、アゴラ・減災館を建設した。著書に、「次の震災について本当のことを話してみよう。」(時事通信社)、「必ずくる震災で日本を終わらせないために。」(時事通信社)。

福和伸夫の最近の記事