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無くてはならない電話とデータ通信、災害に備え、念には念の多重化を

福和伸夫名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長
(写真:アフロ)

今は昔、公衆電話

行方不明となっていた埼玉県の少女が、2年ぶりに公衆電話で110番通報して無事保護されました。公衆電話の存在を忘れがちな昨今、改めてその大切さを実感しました。さて、電話や通信の現状はどうなっているでしょうか?

激減する公衆電話

携帯電話を持ち歩く現代、公衆電話を使うのは、携帯電話を忘れたときくらいのように思います。そのせいか、2001年3月時点では71万もあった公衆電話が、2015年3月時点では18万と、4分の1になっています。災害時には有線電話として利用される公衆電話が激減している現況は、防災対策上、心配な状況です。

使われなくなったメタル回線

かつての電話は、銅線でできたメタル回線を通して使っていました。昔の黒電話のようなダイヤル式の電話(パルス方式)が、プッシュフォン(トーン方式)に変わり、その後、デジタル化したISDNやADSLが使われるようになり、インターネット接続がしやすくなりました。最近では、メタル回線から、光ファイバーを利用した光回線へと移行されつつあります。光回線を利用して、電話、インターネット、テレビを楽しむ家庭が増えているようです。ただし、メタル回線を利用したアナログ電話は停電時も使えましたが、光回線になると停電時の利用が難しくなります。

携帯電話

携帯電話は家が停電しても使える便利さがあります。ですが、東日本大震災では、長期停電により携帯基地局のバッテリーが不足し、携帯電話が不通になった地域が広域に発生しました。その後、種々の長期停電対策が進められています。また、都心では携帯基地局は1km程度の間隔でありますが、災害に備えて広い地域をカバーできる大ゾーン基地局が整備されてきています。メタル回線をやめ携帯のLTEネットワークを利用した固定電話も導入され始めていますので、携帯基地局の役割は益々高まっています。

通信の多重化

最近では、携帯電話に加え、モバイルデータ通信を利用したインターネットの活用が当たり前になってきました。このため、固定回線が断線しても通信手段を獲得することが可能となっています。

一方で、大企業や自治体は固定系の光ファイバーを利用したインターネットに依存しています。中には複数のインターネットサービスプロバイダと契約することで危険分散している企業もありますが、気をつけておきたいのは、同じ電柱を複数の光ケーブルが通っている場合が多いということです。液状化や家屋倒壊などによって電柱が倒れると、同時に被災する可能性があります。また、ケーブルは大丈夫でも、停電時のバックアップ電源が無ければ、通信の確保はできません。

現代社会は、電話連絡やデータ通信ができないと、無力になってしまいがちです。通信には絶対は無いと思って、できる限り、通信の多重化をしておきたいものです。

練習しておきたい災害用伝言ダイヤルと災害用伝言板

災害時に、一番気になるのは家族の安否です。大規模災害時には、安否を確認する電話が大量に発生すると共に、災害時優先電話の通話を確保するため、電話がかかりにくくなる輻輳が発生します。こういったときのために、安否を確認できる録音システムとして、災害時伝言ダイヤル「171」が提供されています。震度6弱以上の地震発生時などに利用が可能になります。毎月1日と15日、正月三が日、防災週間、防災とボランティア週間などに、体験利用ができます。その他にも、災害用伝言板「web171」や災害用音声お届けサービスなども利用できます。是非、ご家族で試してみて下さい。

名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長

建築耐震工学や地震工学を専門にし、防災・減災の実践にも携わる。民間建設会社で勤務した後、名古屋大学に異動し、工学部、先端技術共同研究センター、大学院環境学研究科、減災連携研究センターで教鞭をとり、2022年3月に定年退職。行政の防災・減災活動に協力しつつ、防災教材の開発や出前講座を行い、災害被害軽減のための国民運動作りに勤しむ。減災を通して克災し地域ルネッサンスにつなげたいとの思いで、減災のためのシンクタンク・減災連携研究センターを設立し、アゴラ・減災館を建設した。著書に、「次の震災について本当のことを話してみよう。」(時事通信社)、「必ずくる震災で日本を終わらせないために。」(時事通信社)。

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