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木造建築の耐震性は? 日本古来からの伝統的大規模建築から最近の住宅まで

福和伸夫名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長
(写真:アフロ)

豊富で性能の良い木材を活かした伝統的建築技術

木材は、その重さに比べ強度が高い優れた材料です。コンクリートの比強度(重さに対する強度の比)を1とすると、圧縮の力に対しては、鉄は4.5倍、木材は9.5倍に、引張の力に対しては、それぞれ、51倍、225倍になります。我が国には豊富な木材資源があり、容易に入手できます。素材の美しさ、造作のしやすさなどもあり、古くから多くの建物が木材で作られてきました。

世界最古の木造建築物・法隆寺の建造物群や、世界最大の木造建築物・東大寺大仏殿など、我が国の木造建築の技術は素晴らしいです。特に釘を使わない組物の技術は、その装飾性と共に高く評価されます。伝統的な木造建築の耐震性については、大きな断面の柱が持つ転倒復元力の効果や、木組みのエネルギー吸収効果、五重塔の柔構造や心柱の制振効果など、諸説が示され、議論されています。

明治以降、住宅に限定されてきた木造建築

木材は、その性能の高さとは裏腹に、燃えやすく、腐ったり、蟻の害を受けやいため、経年変化が大きい材料です。また、乾燥収縮により反りやすく、節があったり、柾目と板目など方向によって強度が異なるため、取り扱いが難しい面もあります。このため、明治以降に西洋の建築技術が導入されたこともあり、大規模な建築物は、木造以外の構造で作られるようになってきました。この結果、最近の木造建物は住宅に限られるようになってきました。

大断面集成材が復活させた大規模木造建築

ですが、近年、木造の大規模建築が集成材によって作られるようになってきました。集成材は、寸法が小さな木材を接着剤で貼り合わせた木質材料です。材料を集成することで、間伐材などの小径木の活用も容易になり、節や反り、方向性の問題が無くなり、品質の安定した材料を作ることができます。大断面の集成材も作ることができ、合理的な接合方法も開発され、構造計算に乗る材料になったことから、最近では、学校や図書館などの大型公共施設にも用いられるようになりました。曲線の部材や長大な部材を作ることができるため、ドーム建築などにも利用されはじめています。話題の新国立競技場でも木材を活用した屋根が採用されることになっています。

住宅で多用される在来軸組工法

戸建て住宅で最も多く使われているのは在来軸組工法です。無垢の材料の柱や梁を組み合わせて作ります。昔から大工さんによって作られてきた伝統工法に、被害地震の経験に基づいて、地震などに対する抵抗力を加えてできてきたものです。昔と違い、良質な木材が減ってきたため、柱や梁の断面が小さくなっており、地震などの横力に対しては、筋交いや構造用合板が主たる抵抗要素になっています。

柱や梁、筋交いなどの部材を接合するには、継手・仕口といった、ほぞ・ほぞ穴による接合方法を用います。ですが、接合部分には大きな力がかかり、断面欠損も多いことから、接合金物や羽子板ボルトなどで補強する必要があります。

また、屋根の構造(小屋組)には、在来型の和小屋と、欧米で用いられてきた洋小屋があります。和小屋は縦横に部材を組み合わせますが、洋小屋ではトラスのように三角形に部材を組み合わせていきますので強度が大きくなります。

住宅を支える基礎は、鉄筋コンクリートで作るのが一般的です。かつては、石の上に柱を乗せていただけでしたが、現在は、鉄筋コンクリート製の布基礎やべた基礎の上に土台をアンカーで堅結します。さらに柱が抜け出さないようにホールダウン金物などで基礎に柱を直接接合します。

最近増えてきた枠組壁工法

軸組工法が柱や梁といった軸組で構成されるのに対して、壁や床などの面材で構成されるのが枠組壁工法です。一般にはツーバイフォーとも呼ばれています。19世紀に北米で生まれた工法です。構造用合板でできた耐力壁と剛な床を一体化した箱型の構造で、フレーム状に組まれた木材に構造用合板を打ち付けて作ります。近年の地震災害でも枠組壁工法の地震被害は極めて少なく、耐震性は高いと考えられています。さらに、耐火性・断熱性・気密性・防音性にも優れているため、急速に普及しつつあります。

木造住宅の耐震設計

小規模な木造住宅については、設計や審査の手間を省くために、構造計算や構造安全性の審査は免除されていますが、住宅規模に応じた壁量や、基礎、接合などについての仕様規定が定められています。

木造の耐震規定が最初に定められたのは、1924年の市街地建築物法の改正時で、筋交いに関する規定が加えられました。1950年に制定された建築基準法では、床面積に応じて必要な量の筋交いを入れる「壁量規定」が定められました。ここでは、床面面積に必要な壁長さや、軸組の種類による壁倍率が規定されました。その後、1959年に壁量規定が強化され、1971年に基礎の規定が加えられ、さらに1981年に壁量規定が強化されました。2000年には、地耐力に応じた基礎の選定、接合部の継手・仕口の規定などが加えられました。

このように、1950年、1959年、1981年、2000年を区切りとして、耐震性には差があることになります。

木造住宅に必要な壁量

2階建てで、屋根が軽い住宅の場合の壁量は、2階は、2階の床面積(平米)に15cmを乗じた長さ、1階は1階の床面積に29cmを乗じた長さが必要になります。屋根や壁が重い場合には、乗じる長さをそれぞれ21cmと33cmに増やす必要があります。

この壁量は、耐震規定の強化により増えてきました。例えば軽い屋根の2階建て住宅の場合、1階の必要壁長さに乗じる値は、1950年には12cm、1959年に21cm、1981年に29cmと増加してきています。

また、耐力壁の種類によって壁長さに乗じる倍率(壁倍率)が定められています。例えば、柱断面を3つに割った3つ割筋交いの場合には、片掛けは1.5倍、たすき掛けは3倍、2つ割筋交いは、それぞれ2倍と4倍、構造用合板を壁の片面で使用する場合は2.5倍、両面貼りは5倍などとなっています。

従って、軽い屋根の2階建て住宅の1階の必要壁長さは、1階床面積が50平米で、両面貼りの構造用合板を使う場合には、建物の両方向に対して、50×29÷5=290cmの壁長さが必要ということになります。

このように、在来軸組構造の住宅の安全性は、極めて簡単な方法で確認されています。したがって、実際に建っている住宅の耐震性には大きな幅があることになります。

耐震診断で安全をチェックし耐震改修を進めましょう

1995年兵庫県南部地震では、1981年以前の住宅に大きな被害があったことから、耐震改修促進法によって古い木造家屋の耐震改修が促進されることになりました。現在、殆どの自治体で、住宅の耐震性を診断する木造住宅耐震診断や、補強を行う耐震改修への補助が行われています。

本格的な耐震改修が難しい場合にも、部分的な耐震改修法や、耐震シェルターなども開発されており、これらへの補助制度のある自治体も増えています。

室内には沢山の家具があり、これが転倒すると怪我をし、死に至る場合もあります。新しい建物でも耐震性が不足しているものもあるようです。大事な命や生活を守るため、是非、自宅の防災対策を進めたいものです。

名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長

建築耐震工学や地震工学を専門にし、防災・減災の実践にも携わる。民間建設会社で勤務した後、名古屋大学に異動し、工学部、先端技術共同研究センター、大学院環境学研究科、減災連携研究センターで教鞭をとり、2022年3月に定年退職。行政の防災・減災活動に協力しつつ、防災教材の開発や出前講座を行い、災害被害軽減のための国民運動作りに勤しむ。減災を通して克災し地域ルネッサンスにつなげたいとの思いで、減災のためのシンクタンク・減災連携研究センターを設立し、アゴラ・減災館を建設した。著書に、「次の震災について本当のことを話してみよう。」(時事通信社)、「必ずくる震災で日本を終わらせないために。」(時事通信社)。

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