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我が国の「災害軽減」を支える多くの法律

福和伸夫名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長
(写真:アフロ)

災害対策の基本「災害対策基本法」(1961年11月15日)

1959年伊勢湾台風での甚大な被害を受けて作られた法律で、国土や国民を災害から保護するための基本理念を定めています。行政各機関の体制・責任を明確にするとともに、防災計画の作成、災害予防、災害応急対策、災害復旧、財政金融措置などについて定めています。他の様々な法律は災害対策基本法の理念に基づいて作られています。

直前予知を前提にした東海地震対策の「大規模地震対策特別措置法」(1978年6月15日)

1976年に石橋克彦氏が発表した駿河湾地震説を受けて制定された、東海地震の直前予知を前提にした法律です。地震防災対策強化地域を指定し、地震観測体制の整備や、事前の地震防災体制、警戒宣言発令時の対応などが定められています。近年、南海トラフ地震の発生の仕方に多様性があること、直前予知が確実にできるとは限らないことなどから、見直しの必要性を指摘する声も聞こえます。

なお、この法律に対応する財政措置は、「地震防災対策強化地域における地震対策緊急整備事業に係る国の財政上の特別措置に関する法律」(1981年5月28日)が担っています。

阪神淡路大震災を反省して作られた「地震防災対策特別措置法」(1995年6月16日)

阪神淡路大震災の甚大な被害を受け、地震予知の限界を前提とした防災指向の法律です。震災後の緊急事業5箇年計画に加え、地震防災対策の実施に関する目標設定や、地震に関する調査研究推進の体制整備などを定めています。この法律に基づいて設置されたのが、地震発生の長期評価や地震動予測地図を公表している地震調査研究推進本部です。

具体的な地震への備えを進める法律

「南海トラフ地震に係る地震防災対策の推進に関する特別措置法」(2002年7月26日)、「日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震に係る地震防災対策の推進に関する特別措置法」(2004年4月2日)、「首都直下地震対策特別措置法」 (2013年11月29日)の3つの法律は、切迫する地震を踏まえて作られた法律です。例えば、南海トラフ地震に関しては、南海トラフ地震防災対策推進地域の指定、南海トラフ地震防災対策推進基本計画等の作成、南海トラフ地震津波避難対策特別強化地域の指定、津波避難対策緊急事業計画の作成、地震観測施設等の整備、財政上の特別の措置などを定めています。

個別の災害事象に対処するための法律

災害には、地震に加え、津波、火山、台風、豪雪、地すべり、原子力災害、はては武力攻撃など、様々なものがあります。個々の災害には特徴がありますので、災害ごとに法律が定められています。「津波対策の推進に関する法律」(2011年6月24日)、「活動火山対策特別措置法」(1973年7月24日)、「台風常襲地帯における災害の防除に関する特別措置法」(1958年4月22日)、「豪雪地帯対策特別措置法」(1962年4月5日)、「地すべり等防止法」(1958年3月31日)、シラスなどの火山土壌に対する「特殊土じよう地帯災害防除及び振興臨時措置法」(1952年4月25日)、「原子力災害対策特別措置法」(1999年12月17日)、「武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律」 (2004年6月18日)などです。

事前の備えを促進する法律

防災対策の基本は事前の備えにあります。その要点は、危険を避けることと、災害に負けない力を持つことです。危険回避を促進するための法律としては、豪雨、洪水、高潮などに対する「防災のための集団移転促進事業に係る国の財政上の特別措置等に関する法律」(1972年12月8日)に加え、東日本大震災を受けた津波に対する「津波防災地域づくりに関する法律」(2011年12月14日)があります。また、阪神淡路大震災を受けて、建物の強度を増す「建築物の耐震改修の促進に関する法律」(1995年10月27日)が制定されています。

災害後に被災者を支援するための法律

災害後の適切な対応を行うために、必要な救助・援助などを規定した法律が整備されています。その基本は、「災害救助法」(1947年10月18日)にありますが、被災自治体や被災者に対する財政援助を定めた「激甚災害に対処するための特別の財政援助等に関する法律」(1962年9月6日)や、遺族への弔慰金を定めた「災害弔慰金の支給等に関する法律」(1973年9月18日)などの法律もあります。

さらに、阪神淡路大震災の被害経験を受け、「被災者生活再建支援法」(1998年5月22日)や「特定非常災害の被害者の権利利益の保全等を図るための特別措置に関する法律」(1996年6月14日)が制定されました。また、東日本大震災後、復興体制の構築に関して「大規模災害からの復興に関する法律」(2013年6月21日)が定められました。

具体的な災害に対しても、財政措置については、「阪神・淡路大震災に対処するための特別の財政援助及び助成に関する法律」(1995年3月1 日)や「東日本大震災に対処するための特別の財政援助及び助成に関する法律」(2011年5月2 日)が、復興体制については、「阪神・淡路大震災復興の基本方針及び組織に関する法律」(1995年2月24日)があります。

また、公共土木施設や農林水産施設の復旧のために、「公共土木施設災害復旧事業費国費負担法」(1951年3月31日)や「農林水産業施設災害復旧事業費国庫補助の暫定措置に関する法律」(1950年5月10日)が定められています。

近年制定された事前防災対策と関係のある法律

東日本大震災の甚大な被害を受け、一方で、南海トラフ地震や首都直下地震の発生が懸念される中、この数年、新しい施策が推進されています。一つは、災害後もしなやかに回復できる強靭な社会を構築しようとする国土強靭化の施策です。この推進のため、「強くしなやかな国民生活の実現を図るための防災・減災等に資する国土強靱化基本法」(2013年12月11日)が制定されました。また、東京一極集中の是正や地方創生をめざして、「まち・ひと・しごと創生法」(2014年11月28日)も制定されました。現在、国土強靭化基本法に基づいて各地で強靭化地域計画が策定されており、地方創生と表裏一体で災害に強い地域つくりが進んでいます。また、時期を同じくして「空家等対策の推進に関する特別措置法」(2014年11月27日)が制定され、防災上問題となっていた空家対策も進めやすくなりました。

その他、防災対策の基礎となる法律

以上に紹介した法律に加えて、防災対策の基礎となっている様々な法律があります。国土計画や都市計画に関わる法律としては、「国土形成計画法」(1950年5月26日)、「国土利用計画法」(1974年6月25日)、「都市計画法」(1968年6月15日)、「土地区画整理法」(1954年5月20日)、「都市再開発法」(1969年6月3日)が、建築物に対しては「建築基準法」(1950年5月24日)があります。 

また、道路、森林、河川、海岸、港湾、工業用水確保と地盤沈下などに対して、対象別に「道路法」(1952年6月10日)、「森林法」(1951年6月26日)、「河川法」(1964年7月10日)、「港湾法」(1950年5月31日)、「漁港法」(1950年5月2日)、「漁港漁場整備法」(1950年5月2日)、「海岸法」(1956年5月12日)、「工業用水法」(昭和1956年6月11日)などが制定されています。

我が国では、このように、様々な法律に基づいて、各府省の担当部局が具体的な災害対策を進めています。

名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長

建築耐震工学や地震工学を専門にし、防災・減災の実践にも携わる。民間建設会社で勤務した後、名古屋大学に異動し、工学部、先端技術共同研究センター、大学院環境学研究科、減災連携研究センターで教鞭をとり、2022年3月に定年退職。行政の防災・減災活動に協力しつつ、防災教材の開発や出前講座を行い、災害被害軽減のための国民運動作りに勤しむ。減災を通して克災し地域ルネッサンスにつなげたいとの思いで、減災のためのシンクタンク・減災連携研究センターを設立し、アゴラ・減災館を建設した。著書に、「次の震災について本当のことを話してみよう。」(時事通信社)、「必ずくる震災で日本を終わらせないために。」(時事通信社)。

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