若者は本当に田母神氏を支持したのか?

都知事選挙が明けて一息つき、各メディアが選挙分析の助けとなる指標を次々に公表している。中でも特に注目したいのは2月9日に出た朝日新聞の出口調査。これによると、20代の有権者の投票先で、2位につけているのが田母神候補であることが分かる。

・若者の田母神支持は本当か?

選挙戦では宇都宮氏・細川氏に及ばず4位となった田母神候補だが、20代からの支持は突出しているということができる。続いて、30代の得票でも3位につけているなど、この結果から「田母神氏は若者からの支持に支えられた」という言説が目立ってきた。

2013.2.9 朝日新聞出口調査より筆者制作(数字は%)
2013.2.9 朝日新聞出口調査より筆者制作(数字は%)

このような結果を鑑み、今回の都知事選で20代、30代の若年層の中で、実際に投票所に足を運んだ有権者が、他の年代に比してより田母神氏に投票したのは疑いようのない事実だとしても、これだけで果たして「若者は田母神氏を支持した」と言うことができるのだろうか。

今回、田母神氏に投票した都民の多くは「ネット保守(否定的な文脈でのネット右翼)」を中核する「新保守」の系譜にある、というのはすでに私の過去記事「都知事選で見えた”ネット保守”人口=250万人」に詳しく書いたとおりだが、この「ネット保守」を批判的にみる文脈では早くも「若者の右傾化」、肯定的にみる文脈では同じく「若者の(保守的な意味合いにおいての)正常化」が叫ばれている。

・20代の投票率を加味しない「若者論」は無意味

田母神氏に投票した有権者の年代構成が、舛添氏、細川氏よりも若い、というのは各種調査で判明しつつあるので疑うべきものではない。しかし、これを以って「20代の若者(ネット世代)の多くが右傾化/正常化した」という論調には、大変強い違和感を感じざるを得ない。

まずこういった議論の多くは、世代別の投票率を勘案に入れていない場合が多い。つまり「20代のうち、何%が投票に行ったのか」で、「若者の右傾化/正常化」の文脈は変更を迫られることになる。もし20代の過半数が一票を投じ、そのうちの第2位が田母神氏に票を投じたのであれば、こういった「若者の右傾化/正常化」の理屈は一応筋が通っている。しかしもし20代のうち、ごく少数しか投票にいかなかった場合、その結果をそのまま「若者の意思の象徴」として捉えてしまうことに問題はないのか。

・数字で見る本当の”20代田母神票”のゆくえ

これには今回の都知事選挙における世代別の投票率を探る必要があるが、その数字はまだ公表されていないので、今回の都知事選挙(46.15%)と同程度の投票率であった平成7年の参議院通常選挙(投票率44.52%)を極めて近い基準として、今回の都知事選のそれにシンクロさせてみよう。

それによるとこの時の20代の投票率は「25.15%」(総務省調べ)となる。実に20代の4人に1人しか投票していないという計算になる(因みに、平成14年の都知事選挙/全体投票率44.94%でも、20代の投票率は約25%強と大差ない)。

では、東京都内の20代の有権者数はと言うと、2012年3月末の時点で約157万人(東京都選挙管理委員会)であり、ここに「25.15」をかけると、

1,570,000×0.2515=394,855

となり、約39万人が今回の都知事選挙における実際の20代の投票者であるということになる。ここで、冒頭にあげた田母神氏への投票者が24%であるから、

394,855×0.24=94,765

となり、約9万5千人の20代が田母神氏に一票を入れたことになる。田母神氏の得票総数は61万票だから、田母神氏の得票に占める20代の割合は約16%となる。これを「多い」のか「少ない」とみるのかは意見が分かれるところであるが、少なくとも「20代の若者によって田母神氏が支えられた」というのは、些か誇張の感がしないでもない。

・世代別にみた”田母神票”

各世代を同じ計算式に当てはめると、

・30代の有権者約209万人のうちの実効投票率41.4%=86.5万人。田母神氏へはその内17%だから147,000人で田母神票の約24%

・40代の有権者約200万人のうちの実効投票率48.3%=96.6万人。田母神氏へはその内14%だから135,000人で田母神票の約22%

・50代の有権者約144万人のうちの実効投票率54.7%=78.7万人。田母神氏へはその内11%だから87,000人で田母神票の約14%

・60代の有権者約162万人のうちの実効投票率64.8%=92.2万人。田母神氏へはその内7%だから65,000人で田母神票の約11%

・70代以上の有権者約193万人のうちの実効投票率57.2%=110.4万人。田母神氏へはその内6%だから66,000人で田母神票の約11%

となる(すべて総務省/東京選管の数字に基づく)。これをグラフにまとめるとこうなる。

田母神票の世代別構成割合
田母神票の世代別構成割合

他の候補よりは、20代、30代の支持比率は高いことは間違いないとしても、「田母神支持の主力が20代の若者であった」というのはちょっと飛躍しすぎかなと思う。これを見てもわかるように、田母神票の中心は30、40代であり、20代の支持数は50代と大差ない。

・「ネット保守」の平均年齢は38歳

私が2013年春に刊行した著書『ネット右翼の逆襲 嫌韓思想と新保守論』(総和社)の中で、「ネット保守」1,000人近くに独自の調査をした結果、その平均年齢は「38歳強」と出た。今回の田母神氏の支持層が、ゼロ年代初期より広まってきたインターネット上の「ネット保守」を主軸とする「新保守」の潮流をそのまま投影したものであるとすれば、私の調査した大規模なデータと、今回の田母神票の世代構成は驚くほど似通っている。

「ネット保守」の中心は30代、40代が主力であり、比較的富裕な中小の自営業者を中心とする都市部の中産階級である、というのが私の長年の持論であるが、今回の都知事選挙における田母神候補の得票分析は、この私の「ネット保守」の自説を補強するものになったことは間違いない。

むろん、政治の世界で30代、40代が「若者」といえばそう言えると思うが、少なくとも世間が想定するような「若者」、つまり大学生とか新社会人とか居酒屋でバイトをしたりクラブに行って遊んでいる「古典的なイメージの若者たち」が、田母神支持者の中核を担っている、と考えているのであればそれは大きな間違いである。

・「若者の右傾化」は左派の事実誤認、「若者の正常化」は保守派の願望(2.12追記)

そもそも、20代の25%しか投票に行かないのに、その更に2割強が田母神氏に投票したからと言って、「若者の右傾化/正常化」を叫ぶのは早計であろう。この国の若者は、相変わらず政治に無関心か、関心があっても日々の業務や学業に忙しく、選挙に行くどころの状況ではない、というのが「正直な若者像」であるといえる。

25%のうちの24%は6%である。20代全体の内、田母神氏に投票したものは、わずか全体の6%なのである。4月に上がる消費税率より低いではないか。これの何処が「若者の右傾化/正常化」だというのだろうか。

この計算に従って、各年代別の候補者投票率を票にしてみた。

朝日新聞の出口調査に基づいた各年代別の投票状況%
朝日新聞の出口調査に基づいた各年代別の投票状況%

これを観ても分かるように、世代別の投票率を勘案すれば、田母神氏への得票は20代がことさら多いというわけではない。寧ろ世代的には、30,40代を中心にほぼまんべんなく出力している、とも言える。唯でさえ少ない母数の内、その一部に有意な差が見られたからと言って、その結果を「若者全体」に援用するのは余りにも雑な議論である。少なくとも20代の投票率が、50%を超えてから判断しなければならない。20代で投票所に行くのはマイノリティ(25%)であり、更にその中で田母神候補に投じたのは更にマイノリティ(6%)である。

よって、左による「若者の右傾化」は事実誤認の過大評価であり、右からの「若者の(保守的な文脈での)正常化」は願望に基づく過大評価である、と結論するものである。