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消費税と税収の関係をグラフ化してみる

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ 財務省/国税庁

日本でも消費税が1989年に導入されてから20年以上の月日が経つが、昨今再び消費税周りの話題を良く耳にする。言うまでも無く、現行税率の5%から、さらに上乗せがされる可能性があり(2段階方式で最終的には10%)、その判断がこの数か月の間になされるからだ。そしてその理由として良く耳にするのが「財政再建、健全化」「安定税収の確保」「不景気下で落ち込み気味な税収のアップ」。一方で「消費税を上げて本当に税収は増えるのか」という疑問もある。そこで今回は過去の税収関連のデータを基に、日本における消費税と税収(一般会計税収)をグラフ化し、その関係を推し量ることにした。

過去において消費税導入・増税が一般会計税収増につながったことは(ほとんど)無い

消費税に関する日本の過去の出来事「1989年4月1日に新設(3%)」「1997年4月1日に増税(3%から5%)」を盛り込んだのが次のグラフ。この数十年間実質的に消費者物価指数はほぼ横ばいなことを考慮すれば、無視できるものと判断する(過去60年余にわたる消費者物価の推移をグラフ化してみる(2013年5月分までデータ反映版)参考のこと)

↑ 一般会計税収と消費税税収推移(兆円)(-2013年度)
↑ 一般会計税収と消費税税収推移(兆円)(-2013年度)

消費税新設直後は税収項目の新設に加え、当時が好景気だった(解説は後述)こともあり、税収は純粋に増加。しかしそれも失速し、2年目からは減収に。3年目以降は一般会計税収が「消費税導入時点より」少なくなる事態に陥る。

1997年の消費税税率アップ(3%から5%)により、消費税税収は4兆円ほど上乗せされ、その後は10兆円前後の横ばいを維持する。一方、一般会計税収そのものは導入直後の1997年度はやや上向きになるが、すぐに失速。「税率アップ以降、一般会計税収がアップ時より上回る年度は皆無」の状態のまま現在に至る(2013年度時点まで継続中)。

消費税新設直後における「景気が良かった」を明確にするため、一般会計税収推移のみ・消費税税収のみそれぞれと、各年度の年度終日における日経平均株価(2013年度は数字取得日前日の終値)の推移を重ねたのが次のグラフ。併記対象に日経平均株価を選んだのは、景気を表すバロメーターは各種存在するが、株価が一番身近で分かりやすく、さらには税収とも深い関係があるからだ。

↑ 一般会計税収推移(兆円、右)と各年度終日日経平均株価推移(円、右)
↑ 一般会計税収推移(兆円、右)と各年度終日日経平均株価推移(円、右)
↑ 消費税税収推移(兆円、右)と各年度終日日経平均株価推移(円、右)
↑ 消費税税収推移(兆円、右)と各年度終日日経平均株価推移(円、右)

株価変動と一般会計税収は近しい動きをしているのが分かる。因果関係まではこのデータから「だけ」では実証できないが、少なくとも相関関係は説明できる。「企業業績が上がる」のと「株価が上がる」「企業の利益が増えて法人税が増収する」という関係は容易に理解ができよう。

一方消費税税収はといえば、税率の変更による大幅増収をのぞけば、やはり多少は株価と連動するものの、その額面上の変動幅は小さなもので、安定した税収を維持しているのが確認できる。手堅い税収、といったところか(この「手堅さこそが、消費税増税を求める最大の理由である、とする話もある)。

これら過去の事例からを見るに、消費税の新規導入直後の2年間以外は、消費税による一般会計税収の税収増という実態は無かったことになる。さらにいえば唯一増加した「最初の2年間」ですら、景気動向のたまものである面が多分にあるといえる。

相関関係と因果関係

今件がそのまま「消費税を上げても税収全体は増えない」と結論付けるものにはつながらない。過去の事例に基づく相関関係を示しただけで、因果関係を証明したことにはならないからだ。

今件該当時期の日本のGDPの推移を確認すると、実質GDPは漸増、名目GDPはほぼ横ばい(直近金融危機以降は幾分減退)している。「一般会計税収の減少は消費税に伴うものでは無く、GDPそのものが減ったのが原因では」との意見は通りにくい(実質GDP・名目GDPの違いは日本の経済成長率をグラフ化してみる……(上)用語解説を参照のこと)。

一方、消費税導入前後から兆しが見え始めたデフレ傾向で、税収弾性値(経済成長に応じて、税収がどの程度増加するかを示す指標。税収伸び率を名目GDP成長率で割ったもの)は高いものとなっている。この値が高くなるほど、景気が悪いほど税収の下落は大きくなり、景気が良くなるほど税収の増加幅は大きくなる。例えば所得税は累進課税が導入されているため、収入が増加すれば、その増加率以上に税収が増える次第である。

消費税も税金には違いなく、増税をすれば景気は冷え込む。税収弾性値や上記の過去の事例を考えれば、その冷え込み感を凌駕する景気対策が(景気と税収の安定、上昇には)必要になる。増税のために予算を投じて、あるいは減税による景気対策をするとなれば、「財政再建、健全化」のための消費税増税は意味が無くなってしまう。

繰り返しになるが、上記グラフはあくまでも過去の事例を基にした、相関関係の提示でしかない。とはいえ、デフレ経済からの脱却、不景気からの回復が十分になされていない現状で、消費税増税に踏み切れば、どのような事態に陥るかを推測するのには、参考になるデータには違いない。

「消費税率の引上げに当たっての措置」における「附則第18条」(参考:社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法等の一部を改正する等の法律案(財務省))をしっかりと守ってほしいものだ。

「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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