高齢者による犯罪状況を探る
高齢化が進むにつれて高齢者人口数、総人口に占める高齢者の比率は増加をする。同じ確率で発生する事象でも、元になる人数が増えれば対象人数が増えるのは世の中の道理であり、必然的に高齢者(ここでは65歳以上とする)による犯罪件数も増加しているとイメージされる。一方、各種防犯対策の成果も上がっており、高齢者以外も含めた全体としては刑法犯での犯罪発生率は全般的に減少する傾向を示している(認知件数が減り、検挙率が横ばい、検挙件数は減少)。
それでは高齢者に限れば犯罪件数はどのような推移を示しているのだろうか。意外にも検挙人員数そのものはこの数年の間は横ばいで推移している(以降のデータは警察庁発表の「平成24年の犯罪情勢」を基にしている)。
高齢者人口そのものは漸増しているが、同時に犯罪者率(検挙人員率)は減少している。それが丁度良いバランスで推移しているため、結果として年間の検挙数はほぼ横ばいとなっている次第。
ただし一つ目のグラフをよく見ると分かるように、年々高齢者による窃盗犯、具体的にはいわゆる「万引き」がメイン、が増加しているのが目に留まる(無論万引きも窃盗犯の一要件であり、万引きとて窃盗には違いない)。この10年強の間に件数は約2.5倍。65歳以上人口そのものは2001年時点で2284万人、2012年では約3000万人で精々1.3倍程度にしか増えておらず、高齢者による窃盗犯率が増加していることになる。
これを受けて全窃盗犯者における高齢者の比率も増加の一途をたどり、現在では窃盗犯の約3/4が高齢者という事態に陥っている。
高齢者の万引き行為をはじめとする窃盗犯罪は、中堅層までの行為とは理由を異にする場合が多い。高齢者においては孤独感や生活苦が引き金となり、手を悪事に染めてしまうパターンが多数を占めている。高齢社会のひずみ、闇の部分と表現するのはあまりにも陳腐な話だが、数字の上から導き出される推論は、それを否定できない。
社会構造の全般的な変化が無い限り、今後も高齢化のさらなる進行と共に、高齢者による万引き、そしてそれにより底上げされる窃盗犯の比率は上昇を見せる。行政側、特に地域社会を包括する自治体レベルにおいて、発生事由を見極め、単なる防止策だけでなく、窃盗犯そのものが発生しない・しにくくなるような環境作りまでをも含めた、対策の強化が求められよう。
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