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ギリギリ数字目標無しの節電要請…2014年夏季の節電要請内容正式発表

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ 電力会社管轄間でやりくりを行うための連系線にも限りはある

昨夏よりも厳しい電力需給状況だが制限令はギリギリ回避

政府や経済産業省など関係省庁は2014年5月16日付で開催した「電力需給に関する検討会合」において、2014年度夏季の電力需給対策「2014年度夏季の電力需給対策について」を正式に決定、その内容を発表した(「電力需給に関する検討会合」)。それによると沖縄電力をのぞく9電力会社すべてで、電力の安定供給に最低限必要とされる予備率3.0%以上をギリギリながらも確保できる見通しとなった。今夏では昨夏同様に具体的な数字目標付きの電力使用制限令の発令は無く、「数値目標を伴わない節電要請(定着節電分の確実な実施)」(高齢者や乳幼児などの弱者、熱中症などへの健康被害に配慮を行う)がなされることとなった。

今年は原発稼働の無い状態での夏季となる見通しで、また関西電力管轄と九州電力管轄は周波数が異なる東日本(東京電力)からの電力融通(60万kW)までをも試算に含めることで、安定供給が望める3.0%を維持できる状態であることから、昨年以上の厳しさ対象が予想される。これについて両電力会社に対し、6月末までに東日本から融通を受けなくとも同一周波数領域内全体で予備率3%を確保できるよう、供給力の上乗せや需要抑制対策による状況改善が求められている。なお節電要請の期間は同年7月1日~9月30日(お盆休み期間中の8月13日~15日を除く)の平日9時~20時となる。

今回発表された、電力需給対策の概要は次の通り。

1.沖縄電力管轄以外の全国で「数字目標を伴わない」一般的な節電の協力要請。

2.中部及び西日本では昨年以上に厳しい電力需給が見込まれることを踏まえ、特段の対策を実施する。

2-1.中部及び西日本電力各社に予備力積み増しの要請。特に厳しい関西電力と九州電力管轄では東西の周波数変換装置(FC)を通じた電力融通に頼らなくとも同一周波数内で予備率3%以上を確保できるよう、両電力管轄で24万kW以上の予備力(※これだけ積み増せば、同一周波数内地域にある中部・西日本電力管轄内合計で、予備率3%を確保できる)を6月末までに積み増すことを要請。

2-2.計画外停電を最大限回避するため、火力発電設備の保守・保安の一層の強化。6月末までに一斉点検を実施し、その結果報告を要請。

2-3.自家発電設備の活用を図るため、中部及び西日本において設備の増強などを行う事業者に対する補助の実施。

2-4.中部西日本を中心として節電・省エネキャンペーンを実施。具体的で分かりやすい節電メニューを示しつつ必要な節電の周知、ディマンドリスポンス(時間帯別の電力料金設定を行い、ピーク時以外の電力使用を促進する)契約の拡大を促進。

3.政府は猛暑による需要の急増、発電所の計画外停止の状況などを常時監視すると共に、必要に応じて、数値目標付きの節電協力要請を含む、更なる追加的な需給対策を検討。

重要なのは、震災から3年以上が経過した今夏季でも、昨夏よりもさらに厳しい電力需給状況が見込まれている点。最大の理由は大飯原発3・4号機の停止や松浦火力2号機の使用が望めないなど(「九州電力管轄でマイナス100万kWのトラブル・松浦火力発電所の事故」の通り。100万kWの発電能力が失われている)、供給力のイレギュラー的マイナスが生じたから。元々震災以降は綱渡り的な電力のやりくりが求められていたわけだが、そのリスクが体現化した形となる。

↑ 2014年度夏季における電力予備率見通し(沖縄除く)
↑ 2014年度夏季における電力予備率見通し(沖縄除く)

昨年夏と比較して新設発電所の稼動、再生可能エネルギーによる発電量力の上乗せ、新電力への切り替えに伴う9電力管轄からの離脱など、需給面でプラスとなる面もある。しかしそれらプラスとなる要素の内部にも、火力は老朽化や管理の面でリスク上昇、揚水は天候に左右される面や連続使用の点でやや難、再生可能エネルギーは出力に波があるため火力や水力より使い勝手が悪いなどの問題がある。

↑ 2014年度夏期供給量想定(各電源別、2013年度夏期最大需要日の供給力実績比、万kW)
↑ 2014年度夏期供給量想定(各電源別、2013年度夏期最大需要日の供給力実績比、万kW)

需要の面では節電が逐次進んでいるが、震災以降の経済復興などに伴い、電力需要は増加している。新電力への移行もあるが、需要が大きく増加していることに変わりはない。

↑ 電力需要における夏期経済影響等(新電力への離脱影響含む、2010年度夏期比)(万kW)(9電力管轄)
↑ 電力需要における夏期経済影響等(新電力への離脱影響含む、2010年度夏期比)(万kW)(9電力管轄)

蓄積されるリスク、増加する費用

今回発表の限りでは、最後の切り札であるFC経由の融通電力まで最初から試算に用い、ようやく関西・九州両電力管轄において、最低限の予備率を確保できる結果が出ている。しかしこの状態ですら、特に火力発電所において、従来行われるはずのメンテナンスや機器の改編・更新を先延ばし、間引きなどを実施している(この状態を懸念し、6月末までに総点検することが今回の要請内容には含まれている)。さらに従来ならば解体待ちの老朽化した発電所まで再稼働させているところも少なくない。

そして稼働率そのものも通常想定以上に高めており、当然、リスクは平常時と比べれば高い状態にある。その上、震災により電力需給がひっ迫して以降、老朽火力発電所(稼働開始から40年以上が経過した発電所)の相次ぐ強引な稼働に伴い、それらが稼働中の火力発電所全体に占める割合は増加。「想定以上の稼動率」「老朽発電所の再稼働」という2つのリスク上昇要因により、計画外停止件数は増加の一途をたどっている。

↑ 各年度の計画外停止件数推移(夏季と冬季)
↑ 各年度の計画外停止件数推移(夏季と冬季)
↑ 火力発電における老朽火力発電所割合推移(設備容量ベース)
↑ 火力発電における老朽火力発電所割合推移(設備容量ベース)

火力発電所においては、その設備容量(最大発電可能容量)の2割までもが老朽化し、本来閉鎖・廃棄扱いされてもおかしくない発電所を、半ば強引に稼働させている状態である(コスト面などで問題の多い石油燃料の火力発電に限定すれば1/3を超えている)。

また、原発稼働停止に伴う火力発電の焚き増しによる燃料費の増加も顕著化。「原発の停止分の発電電力量を、火力発電の焚き増しにより代替していると仮定し、直近の燃料価格などを踏まえ」これまでの実績及び今後の試算を行うと、2011年度から2013年度の3年間で9.0兆円のロスが生じる計算となる(電力需給検証小委員会第6回会合「資料2 委員会におけるご指摘事項と回答」などから)。

↑ 原発稼働停止に伴う火力発電の焚き増しによる燃料費の増加(兆円/年)(2014年4月時点、2013年度は推計)
↑ 原発稼働停止に伴う火力発電の焚き増しによる燃料費の増加(兆円/年)(2014年4月時点、2013年度は推計)

当然、このコストは直接的に電力会社への負担となり、メンテナンスや機器改編・更新のさまたげとなる。そして電気料金の引き上げは家計や企業への重圧となり、経済行動の低迷を導き得る。家計に限っても、それだけ可処分所得が減り、生活への負荷につながることは、多くの人が体感しているに違いない。

続く綱渡りという異常事態

今件発表資料のベースとなる各種委員会の資料公開内では「融通電力を前提にしてでも予備力を、安定供給のために最低限必要となる3.0%以上に底上げ」するよう四苦八苦しており、経済に確実かつ大規模な打撃を与え得る、法的強制力のある電力使用制限令の発令を回避する労苦がうかがい知れた。実際今回発表の通り、ギリギリのラインで節電要請に留まったものの、電力需給が昨年夏以上に厳しい状態となることに違いは無い。

なお直近の気象庁の発表(「5月12日付 エルニーニョ監視速報No.260(2014年4月)」)によると、今夏は5年ぶりにエルニーニョ現象が発生する可能性が高いとしている。エルニーニョ現象が発生すると日本付近は夏季では、太平洋高気圧の張り出しが弱くなり、低温、多雨、寡照となる傾向がある。夏季電力需給の観点に限れば、ポジティブな状況といえる。

↑ エルニーニョ現象が日本の天候へ影響を及ぼすメカニズム(気象庁資料より抜粋)
↑ エルニーニョ現象が日本の天候へ影響を及ぼすメカニズム(気象庁資料より抜粋)

今後関西・九州電力管轄を中心に、さらに供給力の積み増しや需給の調整などが図られることになる。しかしすでに試算の時点で相当なやりくりをしており、そこからさらに関西・九州電力双方で24万kW相当の予備力増加を計上するのは、相当至難な話に違いない。さらにそれも含めた各種施策は多分に応急手段的なものでしかなく、中長期的に耐えられるものでは無い。短期的な措置だけでなく、中長期的な対策をも含め、電力事情の安定化を求め、今後に向けて最大限の状況改善のための施策を望みたいところだ。

※今件記事は先行掲載した「「昨年より大幅に厳しい」今夏電力需給状況」に、本日発表された「2014年度夏季の電力需給対策について」の内容を加味し修正したものです。

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「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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