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都議会「野次」と防衛副大臣「銃口」問題、それ自身は問題視すべきだが...

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ 都議会の野次問題はテレビでも報じられた(画像はFNNのニュース報道から)

野次を超えた暴言、東京都議会で

先日東京都議会で発生した、女性議員への、「お下劣」と評しても誰も文句を言わないであろう野次事件が問題視されている。これについて各方面から問題追及の声が上がっている(もっともこれに関して、対象議員を「おっさん」呼ばわりして罵倒する記事も大手ウェブ新聞で掲載されているのには閉口させられたが)。当方は議会を実際にその場で傍聴したわけではなく、議場の雰囲気や完全な前後関係を把握しているわけもはないが、各方面から伝えられる話、いわば被害者的な立場にある議員の説明などを総合する限りにおいて、問題追及をされても当然のレベルに達している内容ではある。少子化における多様な弊害が問題視される昨今、その問題に関する言及の際に向けられた野次となれば、なおさらの話。

ただし、今件に関して「議会中の野次だから」「内容が酷いから」問題追及をして何らかのペナルティを与えるべきとの方面で論議が進むと、別の問題が発生しうることを指摘しておく。確かに問題追求の意見は正論。議会は清々粛々となされるべきであり、野次の類は言語道断。野次の内容が酷いならばなおさら。野次の内容は議場であろうが無かろうが、問題視されるべきものだ。その主張は正しい。

ではどこまでが問題追及をすべきものなのか。追求する・しないの線引きは誰がどのようにして行うのか。その線引きが正しいもの、適切なものであるか否かの判断は誰がするのか。明確な答えが出せるだろうか。場合によっては当事者、第三者が指摘したものはもちろん、それ以外のものもすべて、過去の事例(今件の場合、都議会の過去の議事録やビデオ映像を可能な限り)を検証し、徹底的に精査し、同様に問題追及をしなければならない。そうでなければ、ダブルスタンダードだ、基準のあいまいさの悪用だ、という指摘もなされてしまう。無論これが「だから今件も不問にしろ」という主張では無いことを書き記しておく。

中には「都議会にせよ国会にせよ、公的議会における野次を一律禁止すべき」という意見も耳にする。もっともこれはこれで、別の問題が生じ得るので、難しいだろう。同じように「どこまでが野次で、どこまでが意見の主張か」という線引きは困難だ。良識と常識の範囲内で自主的に行われればそれが一番なのだが。

防衛副大臣の銃口の話

似たような「線引き」の話は、先日の防衛副大臣の国際展示会「ユーロサトリ」での行動に対する見解、報道にも当てはまる。同氏が行った訓練用ゴム銃の取り扱い方(引き金に指をかけたまま銃口を他人に向けてしまい、それを制するために払いのけられた)に対し、これはマズいという指摘が多方面からなされている。特に大本となったニュース映像では無く、その中で銃口を向けたシーンのみを編集し前後関係をばっさりと切った映像、さらには向けた瞬間の画像のみが先行して拡散されているフシがある。

(↑ 該当する元の報道映像。該当部分は2分50秒あたりから)

指摘されている通り、実物であろうと玩具であろうと模型であろうと、銃口を他人に向けるのは敵意・殺意の表れと受け止められても仕方が無く、ましてや本物との誤認可能性を考えれば、危険極まりない話に違いない。非難を受けても当然の話。

ただし今件も大きく拡散されている映像は、銃口を向けた直前から制止されて銃を置く直後の場面のみで、その前後関係が明らかにされておらず、行為のみが独り歩きしている。また元となったニュース映像でも、前後関係ははっきりとせず、向けられた相手は日本人関係者(秘書官か記者か現場のスタッフ?)で、笑顔で返しており、記者や企業スタッフも含めた周囲も皆笑っているのが気になるところ。

行為自身はともかく、前後の状況によってはもう少し判断を異にする結果が出てくる可能性はある(カメラマンが多数周囲に控えていたことから、訓練用ゴム銃の使用状況を模倣するためにポーズを求められ、それに応じた可能性すら考えられる)。

「おもちゃであろうと銃口を人に向けるのは、ましてや引き金に指をかけたまま行うのはいけないこと」。これは事実だが、これもまた、銃に関して一定以上の知識があれば、の話。指摘されれば「確かにその通り、間違いない」とうなづくばかりの話に違いないものの、すべての人が事前知識として常にその心得のもと、活動できるわけではない。「「自分が知ってるそのことを 相手が知っているとは限らない」...ネット上の「暗黙の了解」の明文化」にもある通り、自分の常識が他人の常識であるとは限らない。

「防衛副大臣ともなれば、銃に関する暗黙の了解など知ってて当然」という意見もある。それも一理ある。しかしそれをそのまま是とすると、農林水産大臣は農業・漁業・林業経験を有しそれらのノウハウに長けている必要があり、国土交通大臣はあらゆる自動車、鉄道の種類を把握し、運転できる必要が生じる。それこそネット上のジョークとして語られている、「ザ! 鉄腕DASH!!」でその万能ぶりを示すタレントグループのTOKIOこそが、大臣にふさわしいという話になってしまう(それはそれで一興だが)。

また大臣に限らずとも、有権者の代表たる議員は、例えば経済・金融を語る場合には財務会計に長けている必要があり、エネルギー関連を語る際には、エネルギーにおいて正しい知識を習得していなければならない。内部留保をすべて現金であると、「パイプラインで輸送されるガス」と「タンカーで運ばれるLNG」の買取価格が同額で無ければおかしいと、ドヤ顔で語る議員諸氏はすべて、その議員資格を疑問視され糾弾されねばならない。

2事例に共通すること

恐らくは今件2事例は偶然だろうが、「事案そのものは問題視されるべき」「前後関係が明確に精査されず、その場面のみがショッキングに伝えられ、問題が焚き付けられている」「過去の事例や類似同レベルの事案まで、同様に検証しなければダブルスタンダードとなる(見方を変えれば「今件『のみ』が突出した事案なのか」の検証が必要になる)」という点で共通している。

そして切り貼りのみで全体像がぼやけている感という点でも、似ている雰囲気はある。上記で触れた「該当議員をおっさん呼ばわりして罵倒する大手ウェブ新聞の記事」に代表されるように、今後、各種反応から、色々と新たな様相も見えてくるかもしれない。

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「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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