「大阪市における特別区の設置についての投票」に関するあれこれ
各区で賛否は僅差だった
先日大阪市で特別区を設置するか否かを判断する住民投票が実施された。その結果に関して「平成27年5月17日 執行 大阪市における特別区の設置についての投票の開票結果 確定」など、「公的データを元に」色々と推論をしていく。
まずは行政区(以下単に「区」)別の「投票中の賛成率」(高い順)と、「20歳以上人口」と「投票者数」から試算した「単純投票率」。
区別における最大の賛成率は59.0%、最小で44.0%。投票時における選択肢は賛否のいずれかしかないので、最大の反対率は56.0%、最小は41.0%となる。いずれも僅差であり、賛否の差は些細な範囲。区別で意見が片方に偏っていたと強弁できるレベルのものでは無い。
また両グラフの横軸の順序は同じにしてあるため、相対比較が可能。見た目には有意で投票率が高い所ほど賛成率が高いようには見えない。
続いて20歳以上人口(大阪市公式サイトの住民基本台帳の最新データ、2014年9月末時点から取得)から試算した、区別の賛成・反対票と棄権(投票をしなかった人)の比率。
投票率は高いとの報道がなされているが、それでも全区で、最低でも賛成・反対いずれかの選択肢を上回る棄権率が確認できる。つまり棄権した人の投票意思次第でいかようにでも状況は動いた可能性は否定できない。
次に、20歳以上人口における、60歳以上人口の比率を区別に算出し、単純な各区の投票率と併記する。前者を数字の高い順に並べることで、後者が同じような傾斜を見せれば、何らかの相関関係が推測できる(全体平均値となる大阪市全体の値はゆがみを生じさせるため除外する。以下同)。つまり高齢者ほど積極的に投票行動を行ったか否かが間接的に推測できる。
左に行くほど高齢層比率が多い区。近似曲線を引くと、高齢層が多い区の方が投票率が高めに出でいる。しかし近似曲線の傾斜は緩やかで相関関係は薄め。
同じように「20歳以上人口における、60歳以上人口の比率」を並べ、そこに投票数中反対率を併記し、近似曲線を引いてみる。
上記投票率と比べて、より強い相関関係が推測できる。大よそ2倍の傾斜が出来ている。
これらの「公的データのみの精査」から、年齢階層別投票率はほんのわずかではあるが高齢層の方が上である一方、年齢階層別の反対投票率は少なからぬ割合で高齢者の方が上であるとの推測ができる。ただしあくまでも相関関係のみから導いた推論であり、それ以上の、または因果関係を示すものでは無い(国政選挙では一定数の抽出による公的な年齢階層別投票率の調査が行われるが、今件投票で同じような調査が行われ、結果が発表されるか否かは不明)。
一方でこのような状況の結果として賛否票数の差異がわずかだった事実を思い返すに、若年層の投票率がさらに高いものとなれば、総数における賛成・反対の関係は逆転していたかもしれない。投票対象が賛成・反対のいずれかしかなく、高齢層の方が反対投票率が高いのならば、若年層は高齢層よりも賛成投票率が高いことになる。それらの人達の投票率が上ならば、投票総数における賛成投票率は上昇するからだ。
各区住民の収入や資産、就業状況、持家比率などを抽出できればまた別の、相関関係への推測ができるのだろうが、現状では取得が困難であることに加え、さほど意味を持たないため、今回は留保しておく。
南北対立や世代間対立は意味を成さない
もちろん今件は「若年層は全員賛成、高齢層は全員反対」などのような極論を意味するものでは無い。一部報道で出口調査として、投票者においては高齢層のみが反対多数の値が示され、実投票の結果として全体では反対多数となったこと、また区別では賛成多数の区と反対多数の区を賛否のみで仕切り分けすると、南北に分断されるように見えることから、色々な論説が噴出している。
これについては上記の通り、また「具体的に可視化した方もいる通り」、各区で賛否の投票率は僅差であり、南北の分断云々とする論説は無意味どころか不毛でしかない。今件投票はあくまでも全部の投票を元に賛否が確定される。アメリカの大統領選挙のように、各区で1票でも上の選択肢に対し、その区の投票数がすべて計上される仕組みでは無いのだから、そのような論説自身が意味を成さない。
今選挙の結果を受けて、大阪(市)に関するさまざまな思惑が露呈したとの意見がある。しかしその選挙結果そのものに対する論評を見るに、露呈したのは大阪(市)の実情では無く、むしろそれに便乗する周辺の「思惑」という皮肉な話なのかもしれない。
賛否を問う対象となる政策そのものへの個人的な感想やそこから類推される他方面への否定的見解と、選挙の結果自身やその結果から推測できる状況の分析は別物であり、かき混ぜてはいけない。
報道の「出口調査」を使わなかったワケ、そして…
今件記事では繰り返し表現している通り、インターネット界隈で出回っている、報道機関が実施した出口調査の結果は一切用いていない。この出口調査の結果を元に属性間の対立が煽られていたり、試算をしたら数が合わないなどの陰謀論が出回っている始末だが、この出口調査の値の確からしさには疑問を呈さざるを得ない。
出口調査の結果はあくまでも投票行動を起こした人の意見に過ぎないことに加え、その結果が正しい実投票内容を反映しているとは限らない。むしろ昨今では公的機関によるものならばともかく、報道機関が実施したものの場合、正しい回答がなされたか否かとの疑問がある。例えば今件投票ではA社の出口調査の場合、60か所で調査したとあるが、その60か所が具体的にどこなのか、各調査場所の取得数とその地域における投票率に関して、ウェイトバックはかけているのかなどは確認が出来ない。さらにいえば、複数の候補者から一人を選ぶ通常の選挙の場合には虚偽の申請は難しいが、二択の場合は容易になることを考えると、相応のぶれが生じていると見た方が良い。
まして上記の精査の通り、投票率の変動次第ではいかようにでも結果は変わり得る状況であることを考えると、例えば「高齢者の意見がすべてなのか」とする論説に対しては「そもそも論として投票率、特に若年層の値を押し上げることが先では」との話になる。
地域格差や世代間格差として、敵味方を分かりやすい形で仕切り分けし、煽った方が注目は集めやすく、語り手側にも得るものが多くなる。それはプロモーションの様式と何ら変わるところは無い。しかしそれが確かな裏付けによるもので無い限りは、読み手・聞き手がその話に乗るのは賢い選択ではない。
誰かが指摘しているが、まさに何度でもオレオレ詐欺に引っかかる人と変わりがない気がする。
※今件記事は「大阪の選挙、いわゆる「大阪市における特別区の設置についての投票」に関するあれこれ」と「大阪の「投票」記事の後日談、ちょいとまとめ書き的に」を再構築の上、加筆修正したものです。
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