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歳と共に変わりゆく「近くに無いと困る」店や施設

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ 個人商店もかつては必要不可欠ではあったが……

日常生活を平穏に営み続けるためには、多種多様なお店や公共施設が居住地域近辺にあることが望ましい。その需要は住民一人一人の年齢と共に大きく変化をしていく。内閣府が2015年10月に発表した国土形成計画の推進に関する世論調査「国土形成計画の推進に関する世論調査」の内容をもとに、その実情を確認していく。

日常生活を営む上で必要だと考えている施設について、「徒歩や自転車で到達できる」「それ以外で電車・自動車・バスで30分以内に到達できる距離にある」ことを望むもの、それぞれを確認。その両者の値を見極めることで「近場にあってほしい施設」「ちょっと徒労してもよいので存在してほしい施設」「日常生活の上では特に必要性を覚えない、もっと遠くにあっても良い施設」に仕切り分けができる。調査対象母集団全体(2015年8月実施、層化二段無作為抽出法、20歳以上対象、個別面接聴取式、有効回答数1758人)では次のような結果になった。

↑ 日常生活を営む上で必要な施設(複数回答、2015年8月)
↑ 日常生活を営む上で必要な施設(複数回答、2015年8月)

これを世代別に仕切り直して確認し、本来若年層が住民の中心として構成されていた生活圏における各施設の配置状況が、高齢者中心となった場合、どのような過不足感を生じさせるのか、眺め見ていく。

まずは高齢層に該当する60代、70歳以上について。次以降のグラフ内項目の並びは、60代における「近場にあってほしい施設」「ちょっと徒労してもよいので存在してほしい施設」の合算値の高い順にしてある。

↑ 日常生活を営む上で必要な施設(複数回答、2015年8月)(60代)
↑ 日常生活を営む上で必要な施設(複数回答、2015年8月)(60代)
↑ 日常生活を営む上で必要な施設(複数回答、2015年8月)(70歳以上)
↑ 日常生活を営む上で必要な施設(複数回答、2015年8月)(70歳以上)

60代でもっとも重要視される生活施設は日用品などを取り扱うスーパー。徒歩や自転車で行ける距離でおいてすら3/4に達している。この「徒歩や自転車」はあくまでも該当する世代基準、つまり全体と比べれば随分と狭い範囲であることに留意しなければならない。

次いで病院、銀行、郵便局と続き、コンビニや小規模小売店舗はその次となる。それ以降のガソリンスタンドや行政機関の窓口などは一段低い値を示し、まずは上位5種類の施設を求めていることが分かる。特にスーパーと病院は必要不可欠、徒歩や自転車で行ける距離に限れば、病院以上にコンビニの需要が大きい。

70歳以上でも上位5種類への需要の高さは変わらない。むしろそれより下の順位の施設との差が大きくなっている。ただし診療所や介護・福祉施設の値が60代よりも増加しており、実情に合わせた需要の変化が生じているのが分かる。またガソリンスタンドが大きく減少しているのは、自分で運転する・できる人が減っているからだろう。

高齢層では各種教育機関への需要が低いのも特徴的。自分自身が足を運ぶはずもなく、子供もすでに通う歳では無い、孫は年齢相応かもしれないが、同居・近居をしているわけでもないことを考えれば、必要性を覚えないのは当然の話。

これが20代になると大きな変化を見せる。前述の通り施設名項目の並びは、60代の需要順になっていることに注意。

↑ 日常生活を営む上で必要な施設(複数回答、2015年8月)(20代)
↑ 日常生活を営む上で必要な施設(複数回答、2015年8月)(20代)

スーパーの人気度に変わりはない。しかしコンビニの需要の高さ、ガソリンスタンドの必要性、小中学校や保育園などの子育て支援施設、各種娯楽施設の必要性など、最上級で必要ではないものの、次点レベルで求められている施設の需要に大きな違いが生じている。

例えばある地域における公共施設・サービス機関が若年層向けの配置だったなら、地域住民が高齢化するにつれ、不便さを覚える人が増え、不満の声が高まる。さらに今件はそれぞれの回答者における「徒歩や自転車」の距離であり、高齢化すればその距離は短くなるため、需要の条件はさらに厳しくなる。

一方で、それら高齢層の意見に従った状況改善が成されれば、今度は若年層にとって不便さを強く感じるようになり、「若者の該当地域離れ」が加速していく(共通の施設ならば話は別だが)。人口が減れば商用圏としての価値が減るため、私企業、そして公的機関も撤退を余儀なくされてしまう。高齢化に伴う過疎化の構図が透けて見えるようでもある。

今回比較対象として例示した20代・60代・70代に関して、「徒歩や自転車でいける距離に存在してほしい施設」に厳選した上で、その需要度をまとめたグラフは次の通りとなる。

↑ 日常生活を営む上で必要な施設(自宅から徒歩や自転車で行ける範囲、複数回答、2015年8月)
↑ 日常生活を営む上で必要な施設(自宅から徒歩や自転車で行ける範囲、複数回答、2015年8月)

上位5施設の需要の高さはどの年齢階層でも変わらないものの、若年層の郵便局への需要の低さや、スーパーよりもコンビニを好む傾向、教育機関が身近に存在してほしいか否かの格差が良くわかる形となっている。このキャップが地域問題における着火点となることが、今後は今まで以上に増加してくることは容易に想像できる。対人商売、行政機関にとって、頭の痛い問題に違いない。

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「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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