夫婦世帯の前世紀からのお金の使い道の変化をたどる
食費で1/4、娯楽は大体1割
日々生活するのに必要なサービスや商品を手に入れるため、お金は毎日のように費やされる。いかなる物品などに用いられているのか、夫婦世帯(二人以上世帯)の動向に関して、前世紀からの移り変わりを、総務省統計局が2015年12月に最新版を発表した「全国消費実態調査」から確認していく。
今回計算するのは、二人以上世帯を対象に、一か月の消費支出(税金や社会保険料(=非消費支出)をのぞいた「世帯を維持していくために必要な支出」)が具体的にいかなる項目に割り振られているのかについて。現時点で取得可能値は1979年以降のものなので、それ以降のものをすべて用いて計算する。また個々の額が少数のため、「その他消費支出」独自の項目以外に「家具・家事用品」「光熱・水道」「保険医療」「教育」もまとめて「その他消費支出」に合算している。さらに「交通・通信」は最新の公開値上は「交通」「通信」「自動車等関係費」に細分化されているが、これも合算値として扱う。
各値を再計算した上でグラフ化したのが次の図。
現在に近づくにつれて「食料」が減り「住居」が増えていたが、2004年が底となり、それ以降は増加している。食の多様化や中食の多用化に伴う食費の純粋な増加に加え、元々エンゲル係数が高めな高齢層の、全体に占める構成比率の増加が、全体値を底上げしていることが、改めて確認できる。
「交通・通信」の増加は公共機関やガソリン代の値上げの他、今世紀に入ってからは携帯電話の使用料金によるところが少なくない。子供が居ればそれだけ携帯電話の負担も増えることになる。子供が小遣いから融通する(≒家計の上で消費支出には計上されない)ことはあまり無い。また子供の小遣いが低迷、漸減している主要因は、保護者が携帯電話料金を負担する分があるから(≒あらかじめ割り引かれた形になっている)に他ならない。
一方、「住居」の割合が漸増していたのも確認できる。一般に「家賃は収入の2割から3割がバランス的に優れている」とされている。今グラフの割合は「消費支出」であり、「収入」ではない(収入は今件消費支出以外に、税金などの非消費支出や貯蓄などにも割り振られる)ことを合わせて考えると、「住居」の負担は決して小さくない。ただし「二人以上で生活すれば家賃の負担は減らせる」と世間一般に知られている通り、一人暮らしの若年層と比べれば、家賃負担は随分と小さい実情も見て取れる。
若年層ではあるが、男性単身世帯の場合は実に1/4が居住費用に充てられている。無論これは賃貸住宅住まいのケースが多いのも一因だが、そろばん勘定の上で大きな負担であることに違いは無い。
電話通信料にスポットライト
良い機会でもあるので、昨今話題に登ることが多い電話料金を含む「交通・通信」の中身を見ていく。次に示すのは「交通・通信」を「交通」「自動車等関連費」「通信」に細分化した上で、世帯主の年齢階層別に仕切り分けした、消費支出に対する費用比率。収入や所得に対する比率では無いことに注意。とはいえ、各属性における負担の度合いは十分推し量れる。
自動車関連の負担は年齢階層でさほど変わらない。70歳以上でやや落ちているが、これは保有世帯そのものが少ないのが主要因。また、交通費も負担度合いに大きな変わりはない。
年齢階層別で違いが見えるのは「通信」。きれいな形で若年世帯ほど高い比率が計上されている。これは携帯電話(特にスマートフォン)の保有率が若年層ほど高いのに加え、若年層ほど収入、さらには消費支出が低いからに他ならない。定年退職後の世帯も消費支出は抑えられるが、携帯電話の保有率は低く、また料金負担の軽い従来型携帯電話を使っているケースが多いため、「通信」の比率が底上げされることは無い。世帯主が30歳未満の夫婦世帯においては、「通信」だけで1割近く、「交通・通信」では2割近くが占める計算になる。
全体像のグラフと差し合わせて見ると、「教養娯楽」が減り「交通・通信」が増えているのは、携帯電話の利用が多分に娯楽要素もあることから、実質的には娯楽としての支出が通信費に計上されている面もあると考えれば道理は通る。「食料」の増加への転換とあわせ、ライフスタイルの変化、多様化の様子が見て取れよう。
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