Yahoo!ニュース

2か月以上は1.7%…賃貸住宅の家賃滞納の実情

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ 今では大家に直接支払うケースも少なく、延滞の際の交渉もあまりないかも。

2か月以上の滞納は59世帯に1世帯

賃貸住宅では原則1か月に1度の割合で家賃を支払う事になる。しかし様々な理由で延滞が生じ得る。その実情を賃貸住宅の管理会社で構成される協会「日本賃貸住宅管理協会」が発表した賃貸住宅景況感調査日管協短観の最新版(2015年度下期(2015年10月から2016年3月))から確認していく。

賃貸住宅の家賃は事前に取り交わした契約に従い、自動的に金融機関の口座から引き落とされる場合が多い。もっとも個人経営の賃貸住宅では、今でも借主が家主に毎月手帳と共に家賃を手渡し、その手帳に支払い済みの判子を押してもらうスタイルを続けているところも見受けられる。住民の動向確認の意味合いもあるのだろう。

現在では家賃支払い方法の多分を占めることになる自動引き落としだが、銀行口座残高の調整ミスで残高不足から家賃の引き落としを行えず、気がつけば家賃を滞納してしまうトラブルもある。家賃引き落とし専用の口座を別途設けていても、その口座への入金をつい忘れてしまう事例も想定される。

そこで「(調整ミスの可能性がある)月初全体の滞納率」「(ミスの可能性が排除された)月末での1か月滞納率」「(状況が悪化した、連続した滞納状態の)月末での2か月以上滞納率」それぞれについて、直近値を元にグラフ化したのが次の図。

↑ 家賃滞納率(2015年10月~2016年3月)
↑ 家賃滞納率(2015年10月~2016年3月)

残高調整ミスは頻発する。今回計測期において、全体では7.3%も発生している。大体14世帯に1世帯の割合。一か月間丸々の滞納となると3.0%、2か月連続して「危険信号」レベルになると1.7%。

2か月以上の滞納率1.7%。これは「賃貸住宅の59軒に1軒は現在2か月以上家賃を滞納している」となるわけだが、切り口を変えて「通常支払い率98.3%」と表現すればそこそこ良い方に見える。ただしリスクは低いに越したことは無い。例えば5階建・12列(=60部屋)の大型団地なら、1個あたりほぼ1世帯は2か月以上の家賃滞納世帯が存在する計算になるからだ。そして2か月もの滞納状態ともなれば、状況がさらに悪化し、未回収(+管理会社の費用持ちでの原状復帰作業)となる可能性は高い。また、これには「空き室率」は勘案されていないため、賃貸住宅の採算率はそれより悪くなる(空き室率は1割から2割が一般的)。

関西圏が高めだが

首都圏・関西・その他地域で比較すると、概して関西圏が滞納率は高めの値を示す。この関西圏に限り、経年変化をグラフ化したのが次の図。

↑ 家賃滞納率推移(関西圏)(~2015年下半期)
↑ 家賃滞納率推移(関西圏)(~2015年下半期)

関西圏でも「2か月以上の滞納率」は前半年期と比べれば改善している。しかし他の仕切り分けの滞納率が上昇≒悪化していること、「月初全体の滞納率」が1割前後を維持しているのは由々しき事態ではある。

「月初全体の滞納率」が10%内外。これは10世帯に1世帯が滞納を経験していることになる。うっかりミスが多いのか、それとも銀行残高の調整が難しいほど家計のやりくりが厳しいのか。今件データだけではそれらを判断することは難しい。ただ、この動きがここ数年のものであり、イレギュラーな傾向では無いことは確かである。

また関西圏は他地域と比べて仕入(管理受託)が増える傾向が強い。その想定理由の一つに「賃借人の権利意識も高まっており、円滑な対応のために必要な実務知識の水準も上がっている」と報告書には説明があり、賃貸住宅を借り入れている人との間におけるトラブルが増加していることがうかがえる。そのトラブルの一つが賃料滞納そのもの、あるいはそれと連動する形の事案と見れば、辻褄は合う。

管理会社へ連絡をしないままの家賃滞納は、管理会社の立場からでは「ミスによる滞納」なのか、それとも家計の事態悪化が継続し「経済的事由による月末までの滞納」「2か月以上の滞納」につながるのか、判断はできない。手間はかかり、住民に対する不信感・不安感は募り、印象は悪くなる。

現在賃貸住宅市場は借り手が優位な市場状況だが、賃貸住宅利用者は「住まいを借りている立場」であることを忘れるべきではない。理由はともあれ、万一にでも家賃滞納を起こしてしまったら、すぐにでも家主、管理会社に一報を入れ、最善を尽くしてほしいものだ。

■関連記事:

既存物件大幅増加、特に関西が多し…賃貸住宅会社の物件の増減をグラフ化してみる(2016年6月発表分)(最新)

家賃の面から大学生の収入と生活の厳しさをグラフ化してみる

「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

不破雷蔵の最近の記事