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大卒予定者の内定率は過去最高水準の85.0%に

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ 内定は誰にとってもうれしい話。その実情は改善中(写真:アフロ)

内定率は過去最高

厚生労働省が先日発表した2016年度における新卒者就職状況の報告書「大学等卒業者の就職状況調査」によれば、2016年12月1日時点の大学卒業者の就職内定率(就職希望者に対する就職内定者の割合)は85.0%となり、昨年同時期と比べ4.6%ポイントの増加(改善)が見られたことが明らかになった。これはデータが取得可能な1996年3月末卒業者における記録の中では、1998年3月末卒業者が1997年11月末時点で計上した84.8%を超え、もっとも高い値となる。

公表された調査結果によると、2016年12月1日時点で大学生等の新卒者による就職内定率は85.0%。前年同期の80.4%と比べて4.6%ポイントのプラスとなった。つまりそれだけ同じ時期における就職状況が改善したことになる。

↑ 中卒~大卒者の就職(内定)率(2016年11月末時点と2015年同時期)
↑ 中卒~大卒者の就職(内定)率(2016年11月末時点と2015年同時期)

昨年度における10月1日時点、12月1日時点の結果発表においては、一部属性で前年同期比にてマイナス値が出たり、プラス値を示した学校でもここ数年の伸び率と比べると明らかに低い上昇値が出ていた。その主要因として考えられていた解禁日(民間企業の大学・短期大学における学生の採用面接解禁時期)が2015年においてはこれまでの4月から8月へと大幅に後ろ倒しとなったことの影響は、今年度ではほとんど生じていない。むしろ反動すら生じている。これは2015年度における解禁日の変更で一時的な内定率の低迷が生じたことを受けて、経団連では選考開始のスケジュールについて、2016年からは6月に前倒しする旨の発表を行っており、これが一部反発を受けたものの、実行に移されたことの影響と考えられる。

今回発表された12月1日時点における内定率は、前年度の反動に加え、労働市場や景況感を反映する形で、前年よりも良い値が出る結果となっている。全体の85.0%は調査を始めた・公開値としてデータが取得可能な1996年3月末卒業者分以降、ITバブルが体現化し始めた1997年11月末時点で計上された84.8%を超え、過去もっとも高い値となる。

高等専門学校は専門技術に特化し、企業側もその技術を頼りに求人を行うため、内定を出しやすい、囲い込みやすいのが、高就職内定率の主要因。企業側の「即戦力優遇主義」が多分に反映され、早期から高い内定率が出る。今回もその実情が大いに反映される結果が出ている。

なお中学新卒者の選考・内定開始期日は、全国高等学校長協会、主要経済団体(一般社団法人日本経済団体連合会、日本商工会議所、全国中小企業団体中央会)、文部科学省及び厚生労働省において検討を行い、2017年1月1日(積雪指定地域では2016年12月1日以降)と申し合わせており、今件時点では中学新卒者の就職内定率は算出されていない。

国公立と私立大学、男女別で確認すると

今回発表された内定値のうち大学(国公立・私立の合計、個別)にスポットライトを当て、男女別にその動向を確認したのが次のグラフ。

↑ 国公立・私立大の男女別就職率(2016年11月末時点と2015年同時期)
↑ 国公立・私立大の男女別就職率(2016年11月末時点と2015年同時期)

今グラフで対象とした区分において、前年同期比で上昇を示したのは大学全体の男女、そして私立大男女、国公立大の男性。前回調査時点、2016年9月末時点で前年同期比にてマイナス値を示した国公立大女性(マイナス1.3%ポイント)が、今回もマイナス値を示しているのが気になるところ。現時点では前年より明らかに就職難の気配を覚える結果が出ている。就職活動期間はまだ継続中のため、今後どこまで値が改善されるか、注意深く見守りたい。

もっとも多少の変動があるとはいえ、国公立女子に限れば12月1日時点では70%台後半から80%台後半のボックス圏内を行き来しており、最高値は前年の2015年12月の87.8%。

↑ 就職(内定)率の推移(大学・女子・国公立)(各年12月1日現在)
↑ 就職(内定)率の推移(大学・女子・国公立)(各年12月1日現在)

天井付近での統計的なぶれも少なからずあるのだろう。

中期的な内定率推移から就職戦線の実情を確認

厚生労働省が定期的に発表している今件就職(内定率)において、過去のデータを逐次抽出し、(金融危機ぼっ発直前からの動向を推し量るため)過去12年間における動向をグラフ化したのが次の図。リーマンショック後下げ続け、2011年3月卒分を底とし、それ以降は少しずつ回復基調にある状況が容易に把握できる。それゆえに、2015年における解禁日の大幅後ろ倒しに伴い就活学生側に混乱が生じ、(その2年前と比べればまだ上だが、)内定率の改善状況が一時的に足踏み状態となってしまったのは残念でならない。

↑ 就職(内定)率の推移(大学・全体)(~2016年12月1日)
↑ 就職(内定)率の推移(大学・全体)(~2016年12月1日)

厚労省では4月1日時点における就職内定率は1996年3月卒業者の分から計上しているが、その領域内では今回の値は上記でも言及している通り、ITバブルが体現化し始めた1997年11月末時点で計上された84.8%を超え、過去一番の高値をつけている。

大学生などの就職(内定)率は、その時の経済状態や企業の景気判断、とりわけその時点の景況感では無く、今後の見通し的なものと深い関係にある。現在景気が良くても、今後の見通しに不安があれば、わざわざ人材を増やしてリスクを底上げする酔狂さを持つ企業はさほど多くない。逆に企業の先行きが明るければ、それを見越して事業拡大を図るため、人材の追加確保に勤しむことになる。

つまり学生諸子の就職率を底上げし、安定化させるには、(非常に大雑把な話ではあるが)景気回復こそが一番の対策となる。それと共に安易な、大人側の一方的な思惑で人生設計を揺るがすような変更をスナック感覚で行うことなく、十分な思慮の上での決定が求められよう。

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「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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