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完全失業者から外される「仕事はしたいが求職活動はしなかった」人の動向と「真の失業率」と呼ばれるものと

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ 失業中で仕事を望むが求職はしていない人は失業率には含まれない。では……

完全失業者ではない、けど就職を希望する人たち

失業の定義に関し「公的情報は偽り。真の失業者はこれだけいる。国際的な基準ではこの通り」との意見もある(ちなみに官公庁のデータは概してILOの国際基準に則った計測をしている)。今回はそれらの意見で良く取り上げられる「隠れた失業者」と呼ばれる人たち、つまり完全失業者には該当しない「仕事をする意思はあるが、求職活動をしなかった」を、総務省統計局が2017年2月に発表した、2016年分の労働力調査(詳細集計)の速報結果を基に確認する。

まず完全失業率、完全失業者なる言葉について。完全失業率は「完全失業者÷労働力人口×100(%)」で算出される値であり、完全失業者は「仕事についていない」「仕事があればすぐにつくことができる」「仕事を探す活動をしていた」の3条件すべてに当てはまる人を指す。いずれか一つでも該当しなければ完全失業者にはならない。

この条件に一つでも当てはまらない、そして現在雇用されていない人は「非労働力人口」に該当する。2016年の非労働力人口は4418万人で前年比49万人の減少。そのうち「就業希望者(就業を希望しているものの、求職活動をしていない人)」は380万人、前年比で32万人の減少となる。

↑ 非労働力人口のうち就職希望者合計の推移(万人)
↑ 非労働力人口のうち就職希望者合計の推移(万人)

「非労働人口のうち就職希望者」とまとめているが、その立場にいなければならない理由はさまざま。「この景気では就職活動をしても無駄ぼねになりそう。就職はしたいけれど、あきらめるか」と考えた人、「病気で身体を壊してしまい、静養をしなければいけない。就職したいが、無理はできない」人、「子供が生まれるので出産と育児で忙しいから就業は難しい」人、「働きたいが介護で手がいっぱいだから無理」な人などなど。

そこで、その内訳を示したのが次のグラフ。「非労働人口のうち就職希望者」で一番回答として選ばれそうな、「適当な仕事がありそうにない」人は2016年では106万人。「非労働人口のうち就職希望者」全体に占める割合は27.9%と3割近くを占めている。

↑ 非労働力人口のうち就業希望者の内訳(2013~2016年)
↑ 非労働力人口のうち就業希望者の内訳(2013~2016年)
↑ 非労働力人口のうち就業希望者の内訳(2013~2016年)(万人)
↑ 非労働力人口のうち就業希望者の内訳(2013~2016年)(万人)

「健康上の理由」は疫病などの状況変化が無い限り、数そのものには大きな変化がないため(実際、60万人台で横ばいのまま推移している)、この項目の比率が上がれば、間接的ながら労働市場が改善されていることが確認できる(他の項目の人数が減るため)。「適当な仕事がありそうにない」の減少同様、良い話ではある(健康を理由に就職活動ができないこと自体は、非常に残念な話だが)。

昨今の動向を見ていくと、昨今話題に登っている「育児休業」と密接な関係がある「出産・育児のため」の値が1/4近くを占めている。また今後さらに大きな社会問題化しそうな「介護・看護のため」の回答が5%前後いるのが確認できる。「適当な仕事がありそうにない」は引き続き減少しており喜ばしい状況だが(106万人、前年比マイナス15万人)、「出産・育児のため」「介護・看護のため」の2項目は今後特に注目していく必要がある。

「適当な仕事がありそうにない」の具体的な中身は

「適当な仕事がありそうにない」に関して、その内訳を細かく確認し、人数推移を示したのが次のグラフ。

↑ 非求職理由のうち「適当な仕事がありそうにない」の内訳別にみた、就業を希望するが就職活動はしていない「非労働人口」の推移
↑ 非求職理由のうち「適当な仕事がありそうにない」の内訳別にみた、就業を希望するが就職活動はしていない「非労働人口」の推移

2009年頃までは「今の景気や季節では仕事がありそうにない」以外は年々漸減傾向にあり、唯一「今の景気や季節では仕事がありそうにない」のみが景気動向に大きく反応して上下していた。しかし2010年以降は「勤務時間・賃金などが希望にあう仕事がありそうにない」「その他適当な仕事がありそうにない」が増加し、「今の景気や季節では~」は再び減少傾向を示していた。

このグラフ動向からは、「リーマンショック」の2009年以降、「非労働人口」においてもこれまでとは状況が異なる様相を見せているのが分かる。そして景気連動性の高い「今の景気や季節では仕事がありそうにない」の動きを見る限り、直近では2009年をピークとして、労働市場の最悪期は脱しつつあると考えることができる。

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直近年となる2016年においては「勤務時間・賃金などが希望にあう仕事がありそうにない」が9万人も減少し、その他の項目も大よそ減少の動きを示している。前年比変わらずは「今の景気や季節では仕事がありそうにない」のみだが、これはすでに底値にあるものと見ても良いだろう。地域による格差はありそうだが(「近くに仕事がありそうにない」がそれなりの値を示しているのが、その示唆となる)、全体的には労働希望者の選り好みによる就職活動の回避の動きが強まり、労働市場が改善しつつあることがあらためて認識できる。減った分はこれらの思惑を持つ不安要素が無くなったと判断し、就職活動を行うようになった、つまり就業者や完全失業者の立場にシフトしたのだろう。

なお完全失業率が話題に登ると、冒頭で触れたように「完全失業率には『景気が悪くて就職活動をあきらめた人』(2016年では5万人)は入っていない。だから本当はもっと失業率・失業者は上のはずで、公表値はまやかしだ」との話を耳にする。2016年の完全失業者数は208万人であり、それと比較すると、それなりに大きな値となる(2.4%分)。仮に概算すると、労働力人口が6639万人・完全失業者数は208万人、ここに5万人を追加して、(208+5)÷6639=3.21%となる。公式の完全失業率の3.13%とは0.08%ポイントの差となる。

やや余談ではあるが、「完全失業者」の定義に当てはまるための要件「仕事を探す活動をしていた」について。これを「ハローワークに登録していること”のみ”」と誤解している人が多い。しかし実際には「労働力調査に関するQ&A】」を読めば分かるように、

公共職業安定所(ハローワーク)に登録して仕事を探している人のほかに、求人広告・求人情報誌や学校・知人などへの紹介依頼による人、直接事務所の求人に応募など、その方法にかかわらず、仕事を探す活動をしていた人が広く含まれる

と定義されている。今記事命題の”完全失業者に含まれない「仕事はしたいが求職活動はしなかった」”人のイメージも、多少は変わってくるのではないだろうか。

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「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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