漸減する実収入、その実態を見ると……
総務省が定点調査を行っている家計調査によれば、世帯単位の実収入は今世紀に入ってから漸減しているとの結果が出ている。その内情を、公開データから精査していく。
まず用語説明。今回精査を行う実収入などの金銭関連、そして世帯の概念は次の通り。
・(実)収入……世帯主の収入(月収+ボーナス臨時収入)+配偶者収入など
・支出……消費支出(世帯を維持していくために必要な支出)
+非消費支出(税金・社会保険料など)
+黒字分(投資や貯金など)
(※可処分所得=消費支出+黒字分)
勤労者世帯に限定しているのは、勤労者以外の世帯、あるいはそれを含めた全世帯では実収入の値が公開されていないからである(就業対価が無い人なども含まれるためだろう)。
総務省の公開データベースe-statから取得可能な2002年以降の、総世帯のうち勤労者世帯における、「実収入」「非消費支出」「可処分所得」、要は世帯単位での大まかなお財布事情は次の通り。
数字の上で減退傾向にあるのは間違いない。同時に世帯構成において年齢階層比率の変化に伴い、平均値の年齢階層別ウェイトが変化し、それが全体平均に影響を及ぼしている可能性も否定できない。実際、直近年の世帯主年齢階層別の値を確認すると次の通りとなるが、30歳未満が一番少なく、30代から50代にかけて上昇し、60代以降では急激に落ちる。年齢階層に関わらず均一な値では無い。
60代以降に急激に落ちるのは、家計調査では推し量ることが難しい、同じ就業でも現役世代とは違い、再就職による嘱託や顧問の立場としての就業や、非正規としての短時間労働の立ち位置としての就業が圧倒的に多いからに他ならない。
そして急速な高齢化に伴い、勤労者世帯に限定しても高齢化は進行している。再雇用のケースでも勤労者には変わりないからだ。
2002年から直近年の間に一番実収入が少ない29歳以下の世帯は3%ポイントほどの減少に留まっているが、30代は約6%ポイントほど減少。40代は3%ポイントほど増えているものの、一番の稼ぎ頭的存在となる50代もまた3%ポイントほどの減少。さらに急激に実収入が減る60代以降は6%ポイントも増加している。これだけ低実収入層の割合が増加すれば、全体平均における実収入を抑える圧力が強まっても当然といえる(直近年の2016年で全体値がやや大きめな下落を示したのは、29歳以下の急激な増加によるところも大きい)。
具体的に世帯主の年齢階層別に仕切り分けした上で、実収入などの動きを見たのが次以降のグラフ。縦軸はすべてそろえてあるので、他の年齢階層との比較もできる。
60代以降の勤労者世帯では実収入の動きはほぼ横ばい、あるいは緩やかな減退の動きを見せているが、年齢階層別で他と比べて実収入が大きく減少する60代以降は、一人暮らしあるいは夫婦のみの世帯である場合が多く、子供の負担も現役世帯と比べて無いに等しく、世帯単位で必要な支出は少ない。また年金などの社会保障給付(実収入に含まれる)では不足する(と本人が考えている)生活費の補助として就労している場合だけでなく、社会貢献をはじめとしたライフスタイルの一様式としての就労のケースも多々ある。さらに、実収入で不足する分は蓄財からの切り崩しの手立てもあるため(貯蓄切り崩しは実収入には含まれない)、金額の増減は現役世代と比べれば大きな問題とはなりにくい。
他方、現役世代の動向を見ると、30歳までの若年層はほぼ横ばい、30代は減少から増加へと転じている。40歳は起伏を見せながらも減少の動きにあるが、50代は大きな動きも無く横ばいのままで推移している。またどの年齢階層も2007年以降の金融危機、2008年のリーマンショック、2011年の震災、2012年以降の超絶円高不況において、実収入の面でも少なからぬ影響が生じたことがうかがえる。
現役世代のうち40代の値が減退傾向にあるのは気になるところだが、総世帯のうち勤労者世帯全体における実収入などの減少の実態は、すべての該当世帯が押しなべて落ち込んでいるのではなく、一部に限られ、逆に増加している年齢階層もあることに加え、環境上低実収入とならざるを得ない再雇用組のシニア層の構成比率の増加によるところが大きいと解釈して問題は無かろう。そしてこの構造は、社会構造全般の変化であり、他の家計調査の結果だけでなく、多くの統計結果を見る上でも注意すべき視点には違いない。
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