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『エクストリームスポーツ』アクションスポーツカメラマンから見た東京五輪以降のポテンシャル。

後藤陽一株式会社Pioneerwork 代表取締役
フリースタイルモトクロス(FMX)

All Photos byJason Halayko

Jason Halayko

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カナダ出身のアクションスポーツフォトグラファー。1999年に来日以降、日本を拠点にアクションスポーツ・エクストリームスポーツのイベントやアスリートの写真を撮影。Red Bull、G-Shock、Puma、Sony、Reebokなど多数のブランドのプロジェクトを手掛ける。

写真の拡散力

後藤:Jasonさんの写真、どれもカッコいいですよね。カメラマンとして意識している事はあるんですか?

Jason:ライダー(選手)が一番カッコいいと思う写真を撮ることですね。撮ったらその場でライダーと確認して、一緒に選ぶんですが、僕が背景や光の加減を見て、別の写真の方が良いと思っても、ライダーが「絶対これ」って言ったら、それにします。

彼らは連写で撮ったものの中から1枚見せると、「それじゃなくて1秒前の方がいいよ」、とか教えてくれる。

BMXストリート
BMXストリート

後藤:ライダーが「これがカッコいい」と言って選ぶのは、アートの視点ですよね。一方、スポンサーの求めるKPI、つまり再生回数だったり、シェアの回数がビジネスの視点。そのバランスはどう考えて写真を選ぶんですか?

Jason:ライダーがカッコいいと思った写真はそういった数字も伸びます。彼らもYoutubeやInstagramで常に情報を仕入れているので、どうやったら多くの人に見てもらえるか、という視点も持っているライダーがたくさんいます。

たぶん、昔より今のライダーのほうがメディアをよく知っていて、写真を見るセンスも良いんじゃないですかね。スケートボードなら、板は回っている時のどこが一番いいのか、下が見えるか上が見えるか、この角度がいいか、とか。ブランドの中にも、そのセンスを信頼するのが一番だと分かってるところもあって、例えばRed Bullは、カメラマンに撮影に関して細かな指示をすることはあまり無いです。

水面に映ったFMXライダーのトリック
水面に映ったFMXライダーのトリック

ライダーが自分で撮影するケースも多いし、自分ですごく高いクオリティの写真を撮れるライダーもいます。エクストリームスポーツのアスリートはいつも「誰もやってないことをやってやる」って考えてるから、そもそもとてもクリエイティブな考え方とか視点を持ってる。なので、彼らが撮ると、見たこともないようなすごい写真とか映像になることもあります。そういうコンテンツは一気にSNSで拡散しますよね。

日本は世界的にはすごいライダーとかダンサーがたくさんいるのに、メディアが全く取り上げてくれないから、みんな自分たちでイベント開いて、発信して、盛り上げようとしてますよね。YoutubeとかInstagramとか、そういう事が出来る環境が整ってきて、追い風は吹いてると思います。

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後藤:エクストリームスポーツの写真とか映像には、SNSで拡散する破壊力というか、貫通力みたいなものがあると思うんですけども。

Jason:例えばサッカーとか野球、バレーボールとか格闘技だったら、写真が撮れる場所が決まってますよね。体育館、グラウンド。その中でもカメラマンの立ち位置が限定されていることも多い。だから撮れる画も決まってくるんですよね。カメラマンがそこに自分のスタイルを入れるのは難しいから、いつ、誰が撮ってもだいたい見たことがあるような画になってしまう気がします。

エアレースの飛行機と、プロブレイクダンサーBBOY TAISUKE
エアレースの飛行機と、プロブレイクダンサーBBOY TAISUKE

例えばスケボー。ストリートだと撮り方は無限にあります。誰も撮ったことないような場所でも撮れるから、それが写真の力になってくる。アクションスポーツなら、山奥でバイクで飛んだり。もちろん危険もあるんですけど、それが迫力になって写真から伝わると、「オー!!」ってなりますね。

だから普通のスポーツよりも、楽しくて、面白くて、カッコいい写真が多いんだと思います。

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コミュニティの持つ「Vibes」(=空気・鼓動)

後藤:スケボーが、2020東京五輪の種目になりました。他のオリンピック競技と、スケボーのようなストリートスポーツ、エクストリームスポーツと呼ばれるスポーツの違いは何だと思いますか?

Jason:一つは、プレーヤーがとにかく単純に「カッコいい」とか、好きっていう理由だけでやり続けてる人が多い事じゃないでしょうか。お金とか名誉が目的じゃなくて、ただ単に好きでやってる人が多い。

スノーボードは、1998年の長野五輪で五輪種目になってから、「オリンピックに出たい」っていう理由で始めた子供もいると思いますが、他のエクストリームスポーツはまだそういう「大舞台に出たいから」といって始める人は少ない。大会に出ない人も多いですからね。

X-Games金メダリスト 角野友基
X-Games金メダリスト 角野友基

あとは、プレーする「環境」含めてアスリートが自分で作り上げる必要があるところ。ストリートスポーツは基本的にコーチもいないし、チームも無いし、体育館とかテニスコートみたいに決まった練習場所があるわけでもない。スケートパークくらいです。

作られてる環境が無いから、ビルのガラスが反射してるなら、その前で踊ったり、僕が「こんなところで!?」って思うようなところでも、バンバン遊んでる。あるもので自分が考えてやる。それがカッコいい。

生活面での環境まで自分でイチから考えないといけないのは良くないところかもしれません。野球だったらプロ野球選手になるとか、職業に繋がる道がありますけど、ストリートスポーツにはまだまだ無いから。

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後藤:「他人と競う」っていうところに根本的なモチベーションが無いんですね。

Jason:そう。逆に、ストリートの人たちは、仲間を大事にする人が多いと思います。

よく覚えているのが、友達のFMX(※) ライダーの撮影でスペインに行った時。大会前にライダーが待機するパドックに行って、みんなピリピリしているかなって思ってたら、和気あいあいとしてて。練習の時に、ライダーがお互いを応援したりしてる。Red Bull X-Fightersという大きな大会で、選手は全員プロだし、勝ったら結構な額のお金が入ってくるし、有名になるんですけど、それ以前のところで、みんなファミリー、仲間なんですよね。試合中とか大会中でも、ここまで堂々とライバル同士が仲良くしていることは、他のスポーツではあまりないと思いますね。

こないだもスケボーの大会で、日本の10代の選手が大きな技を決めたときに、海外から来た有名なベテランライダーが自分のスケートボードを叩いて音を出して喝采を送ってました。僕はそういうのを見ると鳥肌が立つ。

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後藤:スポーツによっては、相手チームをぶん殴ってやりたいって思ってることもあるでしょうからね。(笑)目の前の相手がいなかったら自分が金メダルもらえるのに、って思うと、他人を蹴落としたいと思うのはある意味当然だと思います。

ストリートとかエクストリームスポーツの世界は、昔からカルチャーとしてコミュニティ内の交流が活発だったということですよね。

デジタルの時代に移って、さっきはメディアが変わった話をしましたが、人が繋がったりコミュニティを維持するのが容易になりました。スケボーと同じくオリンピック種目になるサーフィンやクライミングも含めて、「カッコいい」と思って新しくチャレンジする人が増えて、アクションスポーツのコミュニティが大きく広がると面白いですね。

Jason:新しくやり始める人ももちろんですが、「カッコいい」から応援したいと思う人も増えて欲しいですね。日本人はメディアで取り上げられると乗ってくれるので、2020年までは確実に盛り上がっていくと思いますよ。(笑)

アクションスポーツには、ルールとかよくわからなくても、一回見たら「スゲーっ!」って感じる魅力がありますから。

BMXフラットランド世界チャンピオン 内野洋平
BMXフラットランド世界チャンピオン 内野洋平

ただ、2020年以降、オリンピックが終わった後、このコミュニティの良い所や空気感、「Vibes」と言いますが、を、どうやって維持していくかがすごく重要になってくると思います。大きなお金が絡んでくるし、新しいスポンサーが出てきて、競うほうにスポーツの重心が移り過ぎる可能性がある。

今あるカルチャーの「Vibes」がなくならないで欲しいと思います。

※フリースタイルモトクロスの略。オートバイ競技の一つで、ジャンプでのトリック(アクション)の完成度を競う。

レッドブル・エアレース千葉
レッドブル・エアレース千葉

日本のメディアの理解

後藤:日本のエクストリームスポーツカルチャーは、海外と比べてどうですか?

Jason:だいぶ遅れていると思います。僕が中学生くらいの頃、アメリカではエクストリームスポーツのカルチャーが既に成熟していました。Tony Hawkっていうスケボーのレジェンドなんかは、ローリングストーンズと同じくらい有名だったと言っても過言ではないですよ。アメリカ、カナダ、ヨーロッパにはそのくらいビッグなライダーがたくさんいて、若い人たちがそれを見て、おれも頑張れば有名になれる、お金持ちになれる、って夢を持つようになれるんです。日本ではまだそれは難しいですよね。

カルチャーに対するメディアの理解も全く無いですね。昔、オリンピックでスノーボードの日本人選手が、ちょっと服がだらしなくて物凄いバッシングされましたよね。自分の味というか、スタイルを持つことがストリートのカルチャーなんですが。

この間友達と、オリンピックでスケートボードの選手がどんな服を着るのか、って話してたんです。全員が同じユニフォームだったらすっごく違和感がある。(笑)

後藤:確かに。どうするんでしょうね。(笑)

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Jason:スケートボードでは同じチームでも完全に服が統一されることは無いと信じたいですね。ダサい。すごいダサい。オリンピックで各国はどういうふうに対応するんでしょうか……。

万が一同じユニフォームにしちゃったら、パンツ切って勝手に半パンにする選手とか、袖をカットしてノースリーブにする選手とか、ロールアップするとか、シャツ着ないで上半身ハダカの選手とか出てくると思いますよ。サーフィンはみんな同じウエットスーツでも良いと思うけど、スケートボードは個人のスタイルがとても重要視されてるから……。どうなるか注目ですね。日本のメディアの対応も含めて。

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後藤:日本のスポーツニュースって、毎日野球とサッカーばっかりじゃないですか。

Jason:イチローのメジャーリーグ3000本安打は凄いですよね。(笑)もっと取り上げてもいいくらいですよね。でも確かに、日本人がアメリカのエクストリームスポーツの祭典「X-Games」で優勝したニュースは1分くらいで終わるでしょ。あまりにも短いと思いますね。

例えば、FMXの東野貴行選手は、X-Gamesで複数回金メダルを取ってる世界のトップスター。でも日本では全く知られていなくて、既に拠点もアメリカに移してしてしまいました。

BMX、ブレイクダンス、フリースタイルフットボール、スノーボード……。日本には、素晴らしい選手がいっぱいいますよ。もう少しメディアが取り上げてくれたらいいのにと思いますけどね。

フリースタイルフットボール
フリースタイルフットボール

東京五輪のあと

後藤:2020年以降もこのシーンが盛り上がって、本当の意味で日本にカルチャーが根付くために何が必要ですか?

Jason:僕が出来ることは、若い世代のアクションスポーツカメラマンを育てることですかね。

アスリートのほうは、昔は人にスケボーとかブレイクダンスを教える人はいなかったし、スクールを開く現役ライダー、ダンサーは昔は多くなかった。でも今は上の世代が若い世代を育てようとしています。

今はYoutubeで海外の一流選手の動きが見れる映像も簡単に手に入るし、日本のキッズはすごいスピードで成長してますよ。スケートボードとか、BMX、FMX、ダンスとか、全ての競技で。 10代前半で大人と対等に戦う選手も珍しくないです。

なので、そのエネルギーを写真にして伝えられる人ももっと必要です。若手の良いカメラマンも出てきているので、例えばスタジオを作ってアカデミーを開いたり、アスリートとのフォトセッションをコーディネートしたり。そういうことをやっていきたいですね。

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株式会社Pioneerwork 代表取締役

電通を経て、フリーライドスキー/スノーボードの国際競技連盟Freeride World Tour(FWT)日本支部マネージングディレクター、2019年11月に株式会社Pioneerwork創業。日本が誇るアウトドアスポーツカルチャーとそのフィールドの価値を爆上げすることをミッションにしています。ヤフーニュース個人では山岳スポーツ・アクションスポーツ・エクストリームスポーツをカバーします。

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