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夏の恋愛ドラマはベタなフォーマットがいい?

長谷川朋子テレビ業界ジャーナリスト
(ペイレスイメージズ/アフロ)

民放各局で夏の新作ドラマの放映が始まった。恋愛ものでは桐谷美玲主演『好きな人がいること』(フジテレビ)や、武井咲主演『せいせいするほど、愛している』(TBS)が話題を集めてスタートを切ったが、この2つのドラマに共通することは、王道路線の設定である。女子向けドラマにはベタすぎるほどのわかりやすさが求められているのか?

「イケメンと夏と海」「アメリカ帰りの副社長との恋」

今クールのフジテレビの月曜よる9時枠の『好きな人がいること』は、「イケメン」と「夏」と「海」が女優・桐谷美玲さん演じるパティシエのヒロインを取り巻いている。俳優・山崎賢人さん、三浦翔平さん、野村周平さんの3人がイケメンの3兄弟役に徹し、湘南を舞台に話が展開される。いわゆる月9のこれまで築いてきたイメージに忠実な夏のドラマといった印象だ。

ここのところ「月9よりも月9らしい」と言われ、恋愛ドラマ枠として定着するTBSの火曜よる10時台『せいせいするほど、愛している』は、市民権が得にくい「不倫」が前提となっているものの、ジュエリーブランド・ティファニーの広報部で働く武井咲さん演じるヒロインが、滝沢秀明さん演じるアメリカ帰りのイケメン副社長に恋に落ちていくというもの。華やかでわかりやすいストーリーだ。

初回視聴率は『好きな人がいること』が10.1%、『せいせいするほど、愛している』は9.3%という結果に。トレンドのお仕事ドラマの要素も抑え、今後の展開によって視聴率がどれだけ伸びるのかといったところも注目だが、双方ともに恋愛モード全開であることは期待できそうだ。

松田聖子コンサートは計算づくしのフォーマット

女子向け恋愛ドラマは、男性視聴者を潔く無視したぐらいの王道路線のフォーマットがやはり支持されるのだろうか。

『せいせいするほど、愛している』の主題歌『薔薇のように咲いて 桜のように散って』は、YOSHIKIさんが作詞・作曲し、歌手・松田聖子さんが歌っていることでも話題になっているが松田聖子さんが例年この時期に開催する夏のコンサートツアーに足を運んだ際にも提供された演出や構成に実は同じものを感じた。

アラフィフ女性を中心に埋め尽くした日本武道館の会場に、同年代の聖子ちゃんが20代の女子に負けず劣らずのパフスリーブ&ミニスカート姿で馬車やお城のバルコニーから登場するという演出は女子が一度は思い描くようなファンタジーの世界。

構成は心地よくリードしてもらえるデートのような展開。新曲から勢いよくスタートするが、中盤はしっかりと体力が温存できるアコースティックコーナーが作られ、後半は一気に80年代に連れ行くかのように、『夏の扉』など往年のヒット曲で盛り上げ、満足度をさらに高めてくれる。

つまり、ターゲットを40、50代の女性に絞った演出と構成のフォーマットが完成されている。「何が求められているのか」ということをしっかり心得たフォーマットをコンサートに反映しているのだ。36周年を迎えた今も支持されている理由のひとつとも言えそうだ。

韓国ドラマが英米ドラマと並んで世界のトレンドに

世界100カ国から、テレビ局や制作会社、動画配信事業者などが集まるカンヌの映像見本市MIPでは今年、韓国KBS制作のソン・ジュンギ演じるイケメン軍人とソン・ヘギョによる美人女医のヒューマン・ラブストーリー『太陽の末裔』が中国動画サイト大手「愛奇芸」で動画再生回数20億回の実績される世界トレンドナンバーワンのドラマであると説明された。

世界にネットワークを持つフランスの調査会社が王道の恋愛ドラマを多く揃える韓国ドラマを「世界のトレンド」として、イギリス公共放送局のBBCドラマやアメリカFXネットワークのドラマと並べて紹介した場面でもあった。

韓国ドラマが最も輸出されている日本市場にとっては新鮮味がないかもしれないが、カンヌではここのところ、キム・スヒョンとチョン・ジヒョンによる『星から来たあなた』チャン・グンソクの『ラブレイン』などの作品が中国で人気を集めていることが注目されていた。

中国やアジア地域はじめ、ラテン地域においてもVOD視聴で展開を広げ、トルコやフィリピン、ロシアなどではリメイク版が放送されている。「勢いのある中国市場をはじめ各国で韓国の恋愛ドラマがヒットしている」というイメージを世界のテレビ市場にじわじわと浸透させた結果だった。

国を越えても、王道路線のフォーマットは最も支持される恋愛ドラマの条件なのかもしれない。

しかし、女心は複雑なもので、ワンパターンでは飽きられる。ブレないなかでバリエーションも欲しい。気軽に見ることができる民放各局の夏の恋愛ドラマにも新しいエッセンスを期待したい。

テレビ業界ジャーナリスト

1975年生まれ。放送ジャーナル社取締役。国内外のドラマ、バラエティー、ドキュメンタリー番組制作事情をテーマに、テレビビジネスの仕組みについて独自の視点で解説した執筆記事多数。得意分野は番組コンテンツの海外流通ビジネス。仏カンヌの番組見本市MIP取材を約10年続け、日本人ジャーナリストとしてはこの分野におけるオーソリティとして活動。業界で権威あるATP賞テレビグランプリの総務大臣賞審査員や、業界セミナー講師、行政支援プロジェクトのファシリテーターも務める。著書に「Netflix戦略と流儀」(中公新書ラクレ)、「放送コンテンツの海外展開―デジタル変革期におけるパラダイム」(共著、中央経済社)。

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