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月を愛でる  ー 中秋の名月 -

縣秀彦自然科学研究機構 国立天文台 准教授
クレジット:国立天文台

今年は何かと「月」に関しての話題に事欠かない年となりました。先月のスーパームーン、今月の中秋の名月、来月には皆既月食が。お天気が心配ですが、晴れた地域では、今晩、中秋の名月を楽しんでみてはいかがでしょう?

月は私たちにとって、昼間の太陽と並んで、もっとも身近な天体です。まぶしい太陽と比べると落ち着いた光を放つ月は、もっとも身軽に観察できる天体とも言えましょう。人類は数千年もの昔から月を観察し暦を作って生活に役立てたり、月にまつわる様々な神話や物語を想像したりしてきたのです。

人は古くから月の白く輝いている部分を「陸(または高地)」、黒い模様の部分を「海」と呼んできました。海の部分には水がある訳ではないのですが、平らなその地形がまるでうさぎが餅をついているかのように見えます。うさぎの模様の耳は大きいほうが豊の海、小さいほうが神酒の海(みきのうみ)、顔は静かの海、首が晴れの海、胴体が雨の海です。しかし、どんなに目のよい人でも月の白黒の模様は認識できても、その凸凹のようすやさらに詳しい地形は見分けることができません。

月の地形が詳しく分かるようになったのは、天体望遠鏡が発明された1609年以降のことです。この年の12月、イタリアの科学者ガリレオ・ガリレイは自作の望遠鏡を使って初めて月を眺めてみました。すると月の表面は、それまで言い伝えられてきたようにつるつるで完全な球体ではなく、凸凹していて地表のように山脈や谷があるほか、大小さまざまなクレーターに覆われているではありませんか。こうして、ガリレオ以降の天文学者たちはこぞって月に天体望遠鏡を向けて、クレーターにはティコやコペルニクスといった科学者の名前を、山や谷には地上の地名(例えば、アルプス谷やアペニン山脈など)を付けました。天体望遠鏡で見ると数えきれないほどたくさんあるクレーターのなかでも特に目立つのは、ティコとコペルニクスです。その姿は光条が伸びる満月のころもっともよく分かります。

月は毎日、その形を変えていきます。三日月、上弦の月、満月、下弦の月、そして新月と、そのサイクルは29.5日。この周期を一朔望月と呼びます。太陰暦や太陰太陽暦(旧暦)では、この月の満ち欠けを生活のサイクルとして人びとは利用しています。日本では、月齢ごとにその日の月の呼び名を変えています。満月は十五夜の月。その翌日から順に、十六夜月(月齢16)、立ち待ち月(月齢17)、居待ち月(月齢18)、寝待ち月(月齢19)と呼びます。これは月を愛でようという際に、東の空から月が昇ってくる時刻が次第に遅くなっていくことを示しています。なお、世界広しと言えども、1年間に2回もお月見をするのは日本だけの風習のようです。旧暦の中秋の名月の他、ほぼ一か月後の十三夜を「後の月」と呼んで、日本ではこの葡萄の房のような形の月も愛でてきました。ところが、今年は閏9月が入るため、後の月が2回あり、一年に3回もお月見するスペシャルな年でもあります。

ところで、今年(2014年)の10月8日(水)の夕方には、皆既月食を全国各地で見ることが出来ます。満月がたまたま地球の影のなかを通過すると、次第に月が欠けていき、すっぽりと影の中に入るとほのかに赤い月に代わります。これは地球の大気中で赤い光のみが屈折して折れ曲がり月の表面にまで達するからです。この状態を皆既食、月が部分的に欠けている状態を部分食と呼びます。この日の満月が欠け始めるのは18:15、皆既食は19:25~20:25までのほぼ1時間、21:35に満月に戻ります。月食は満月の時にしか起こりませんが、日食と違い、その時間、月が見えている場所からならどこからでも月食を見ることが出来るのです。月食が見られるのは平均で1年に1~2回程度です。

自然科学研究機構 国立天文台 准教授

1961年長野県大町市八坂生まれ(現在、信濃大町観光大使)。NHK高校講座、ラジオ深夜便にレギュラー出演中。宙ツーリズム推進協議会代表。国立天文台で国際天文学連合・国際普及室業務をを担当。専門は天文教育(教育学博士)。「科学を文化に」、「世界を元気に」を合言葉に世界中を飛び回っている。

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