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スーパーライトユーザーを開拓したLINEゲーム

平林久和株式会社インターラクト代表取締役/ゲームアナリスト
LINEで遊ぶゲーム『LINE POP』が2000万ダウンロード突破

個々のコンテンツよりも伝播するしくみ

無料通話アプリLINE。全世界で1億ダウンロードの威力が「LINEゲーム」にもおよぶ。 NHN Japanは、パズルゲーム『LINE POP』が2000万ダウンロードを超えたことを2013年1月25日に発表した。「LINEゲーム」には現在、『LINE POP』を含む12タイトルがラインナップされている。これら累計では7000万件以上がダウンロードされた。

「LINEゲーム」の普及の速さは過去に例を見ない。原動力はコンテンツではなく、サービスの構造にある。コンテンツ、つまり個々のゲームのみを切り取ってみれば、目新しさはない。それでもなお、ダウンロード数が激増したのは、LINE特有のしくみによるところが大である。

「LINEゲーム」ではLINEでつながった友だちを招待すると有利にゲームが進む。たとえば『LINE POP』では1プレイでハートを1個費消するが、このハートは友だちがゲームに参加すると増やすことができる。このように、プレイヤーをねずみ算式に増やしていくしくみが、ダウンロード数を増加させた。SNSのつながりを用いた紹介システムは、他のソーシャルゲームにもあった。だが、LINEの場合は、電話帳に登録された実名情報であるために、伝播力はなおのこと強い。SNS上で知り合っただけのニックネーム、ymdhnkさんの勧誘ならば無視できる。ところが実生活で親しくしている山田花子さんの誘いであれば、「断れない」の心理が働くからだ。

「LINEゲーム」の爆発的なヒット。ここから何を学ぶことができるのか。ノンフィクションの魅力だ。コンテンツが素晴らしいフィクションを描かなくても、現実社会をスマートフォンに凝縮して映し出すようなノンフィクションが、プレイヤーの気持ちをくすぐる。「LINEゲーム」を遊びたくなる理由、画面の中では希薄である。しかし、画面の外側は濃密だ。私の紹介に誰が応じてくれたかがわかるドキュメンタリー、ゲームが苦手そうなあの人が高得点! のようなニュース。身の回りの人間たちが、事実という名のドラマをつくる。

このような構造とともにヒットした「LINEゲーム」で何よりも重要なのは、とっつきやすさだ。『LINE POP』『LINEバブル』『LINE ZOOKEEPER』など。「LINEゲーム」には古典的なゲームを焼き直したかのようなタイトルが並ぶ。ゲームを遊び尽くした人にとっては、どれも物足りなさを感じるだろう。そのせいかiTunes Store、Google Playのレビューで集める星の数は少ない。だが、レビューを書くことなどしない人たち。授業後の約束や、アルバイトの時間調整のコミュニケーションで忙しい合間に、数分間だけゲームをする人たちにとって、今のあっさり味がちょうどいい。

既存ソーシャルゲームと重複が少ない独自マーケット

データを付記する。以下は、ゲームエイジ総研が発行する「Monthlyゲーム・トレンド・レイティング」(2013年1月号)より抜粋した。10歳から59歳男女、22,325名を対象としたインターネット調査の結果である。

LINEゲームのユーザーの年齢、性別、ゲーム接触頻度を分析
LINEゲームのユーザーの年齢、性別、ゲーム接触頻度を分析

LINEゲームのユーザー属性は、他のソーシャルゲームとは異なる。

女性比率が55%。モバゲーの38%、グリーの36%よりも高い。

同レポートでは「エヴァンジェリスト」と呼ぶ日頃ゲームの接触頻度が少ない人の比率も高い。Mobageが23%、GREEが25%であるのに対して「LINEゲーム」の場合は全体の38%となる。

LINEゲーム、モバゲー、グリーの重複を示すベン図
LINEゲーム、モバゲー、グリーの重複を示すベン図
国内主要SNSゲームの重複率を示す表
国内主要SNSゲームの重複率を示す表
おもなソーシャルゲームのアクティブユーザー数推移
おもなソーシャルゲームのアクティブユーザー数推移

また、モバゲーとグリーのゲームをともに遊ぶ重複ユーザーが40%前後であるのに対して、「LINEゲーム」とモバゲー、「LINEゲーム」とグリーの重複ユーザーは15%程度である。

2012年12月に急激にユーザー数を拡大させた「LINEゲーム」。

既存のソーシャルゲームとも、スマートフォンアプリとも違う。もちろん家庭用ゲームとも違う。今までのユーザーとは異なる生活スタイル、価値観を持った「スーパーライトユーザー」を開拓した。

株式会社インターラクト代表取締役/ゲームアナリスト

1962年神奈川県出身。青山学院大学卒。ゲーム産業の黎明期に専門誌の創刊編集者として出版社(現・宝島社)に勤務。1991年にゲーム分野に特化したコンサルティング会社、株式会社インターラクトを設立。現在に至る。著書、『ゲームの大學(共著)』『ゲームの時事問題』など。2012年にゲーム的発想(Gamification)を企業に提供する合同会社ヘルプボタンを小霜和也、戸練直木両名と設立、同社代表を兼任。デジタルコンテンツ白書編集委員。日本ゲーム文化振興財団理事。俗論に流されず、本質を探り、未来を展望することをポリシーとしている。

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