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Appleはフォーカスを失ってiPhone miniを発売するか?

小川浩株式会社リボルバーCEO兼ファウンダー。
iPad miniは素晴らしいがパンドラの箱なのかもしれない。

2013年を迎えてすぐに、Appleが廉価版iPhone(iPhone mini)の開発を進めている、という噂が流れたことに不安を覚えたファンは多いだろう。冷静に考えればありえないと思えるのだが、iPhone5にしてもiPadにしてもメディアに漏れ出た情報のほとんどは正鵠を射ており、スティーブ・ジョブズ健在時の秘密主義はどこへやらで、今回の噂も火のないところに煙はないのでは? と考え込まざるを得ないところもある。

iPhone5は高級機だ。だから、インドや中国のような巨大市場において一般的な「安いスマートフォンがほしい」というニーズに応えることができない。結果としてiOSはAndroidの侵蝕を許し、シェアで逆転されてしまった。しかし、利益面でみればiOSは圧倒的に強い。それはiPhoneが高級機だからであり、高嶺の花であり続けることが利益率を守っている。

Appleの凄みは、自分たちが手を出すべき市場とそうでない市場の仕分けを徹底的に行うところだった。通常の企業であれば、なるべく事業を多角化したほうが安全であり、総合的であるほうが売上も大きくなると考えがちだが、Appleは(月並みな言葉であるが)選択と集中を徹底して行い、製品数をなるべく少なくして、広告費を効率的に投じていた。Appleほど製品数に対する企業価値や売上が大きな企業はなかなかない。全員に行き渡る商品ではなく、本当に価値を理解して買ってくれる顧客にのみリーチすればよい、という割り切りがAppleの企業価値を支えているのだが、その高級機であるiPhoneに廉価版を出せば、iPhoneのブランド力は地に落ちる。

ジョブズは10インチより小さな画面のタブレットは絶対につくらないと断言していた。10インチがジャストサイズであることをAppleは確信したからこそiPadは生まれたはずだった。しかし結局iPad miniは生まれた。

ジョブズ健在時は、他社が市場調査や競合企業の製品の動向を追うことをマーケティングと称して、外的な情報をもとに製品を生み出していたことに対して、Appleは自分たちで考えに考え抜いた正しいスペックを製品化し、消費者が気づいていないほんとうのニーズを具現化することにフォーカスしていた。しかし、ジョブズ亡き後のAppleは、次第に内なる声よりも市場や競合他社の動向への反応を重要視するふつうの企業になりつつあるようだ。その証拠にAppleは7インチタブレット市場を無視できず、iPad miniを投入してしまった。

Appleの不幸は、iPad miniがそれなりによい筐体であり、なまじ成功してしまっていることかもしれない。それがAppleをしてフォーカスを失わせ、ブランド拡張の罠にみずからを落とし込むことを僕は恐れている。短期的な成功が長期的な成功の可能性を蝕むのである。

もしiPhone miniなる製品が出たとして、そして短期的にAndroidから多少のシェア奪還につながったとしても、それは必ずAppleの増収減益を招き、やがてジョブズ復帰以前のAppleと同じカオスへと導くだろう。

MdN Interactive より転載。

株式会社リボルバーCEO兼ファウンダー。

複数のスタートアップを手がけてきた生粋のシリアルアントレプレナーが、徒然なるままに最新のテクノロジーやカッティングエッジなサービスなどについて語ります。

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