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豊熟したワインの趣。日本人メジャー最年長39歳での球宴初出場が有力視されるレッドソックス上原浩治。

一村順子フリーランス・スポーツライター
試合前のひととき。本拠地フェンウェイパークでリラックスした表情の上原浩治投手

いよいよ、球宴出場選手が発表される。

米大リーグはきょう6日(日本時間7日)第85回オールスターゲーム(15日・ミネソタ・ターゲットフィールド)の出場選手を発表する。日本人では、ダルビッシュ有投手(レンジャース)、田中将大投手(ヤンキース)、上原浩治投手(レッドソックス)の3投手が監督推薦でア・リーグの投手部門で選出されることは、ほぼ確実とも言われている。実現すれば、日本人3投手の選出は初の快挙となりそうだ。ア・リーグ代表の指揮を執るレ軍のファレル監督はここまで明言こそ避けているが、「成績をみれば、選考協議の中に彼の名前が入ることは当然だろう」と仄めかしている。実現すれば、上原は39歳と103日目。日本人としてはドジャーズ・斉藤隆の37歳を塗り替える最年長での出場。試合展開に依るが、01年マリナーズの佐々木主浩以来となる日本人セーブの記録も期待が掛かる。

過去の40歳以上の球宴初選出選手

1952年球宴。ディマジオ(中右)とペイジ(右)。mlb.comより添付
1952年球宴。ディマジオ(中右)とペイジ(右)。mlb.comより添付

上原の選出に因んでメジャーの球宴初出場の年齢を調べてみた。1位は伝説の右腕サチェル・ペイジ(ブラウンズ)によるダントツの46歳(誕生日が諸説あるが、通説の7月7日なら46歳と1日)。ニグロリーグ時代に2000勝を挙げたと言われる彼の場合は、42歳で史上最年少新人に。ジョー・ディマジオが「今までみた中で最高の投手だ」と絶賛した話は有名だ。 第2位は09年に42歳と346日で選出された通算200勝のレッドソックス・ウェークフィールド。「プロになって以来、球宴は憧れの舞台だった。2人の子供を連れていくのが楽しみだ」と感激した右腕がチームメイトに心から祝福されていたのが、印象的だった。第3位は、ジェイミー・モイヤー(マリナーズ)が03年に40歳と239日で選出されており、第4位は今年4月に102歳で生涯を閉じるまで生存する最年長元メジャーリーガーだったキューバのコニー・マレロ(セネターズ)が1951年に40歳と76日で初出場した。マレロも革命前のキューバ選手がメジャーに来ていた時代の1950年に38歳で大リーグ移籍。前述のペイジ同様、メジャーデビューは遅い。5位は主に救援左腕のアーサー・ローズ(レッズ)の40歳と262日。(記録はいずれもElias調べ)。上原が選ばれれば、その次にランクインするメジャー歴代6位となりそうだ。

息の長い一流投手の仲間入り

上位6人は全員投手。上位4人は先発でローズは中継ぎ。彼らは、いわゆる“遅咲き”の範疇には入らない。球宴選出こそ遅かったものの、それまでの成績も素晴らしい実績の持ち主で、息の長い現役生活を勤め上げた。ペイジ、マレロ、上原はメジャーに辿り着くまで、それ以外のリーグで一流のプロ経験を積んでいる。また、ウェークフィールドはナックルボール、モイヤーはチェンジアップ、マレロはカーブなど変化球を軸とする軟投派タイプ。豪腕投手に比べて年齢の衰えが響く投げ方ではないし、他人が真似できない勝負球を持っている。上原も、しかり。巨人時代も日本代表としても、メジャー移籍後も、健康体の上原はいつだって凄かった。故障者リストと縁を切って2年目。上原の直球の球速はスピードガンでは90マイル前後(約145キロ)だが、体感で上回るキレと制球力で勝負。精度の高いスプリットとのコンビネーションで組み立てる投球で昨年は日本人初のワールドシリーズ胴上げ投手に。今季は5日時点で4勝2敗18セーブ、防御率1・36と抜群の成績を残している。

「ロウソクの炎は燃え尽きる前に強くなる」

07年当時37歳で選出された斉藤が「ユニフォームを脱ぐ潔さも大事だけれど、着続ける勇気がこんな風になるんだ、と思った」と語り、世のアラフォーたちを勇気づけた。ワールドシリーズの胴上げ投手になった昨年、上原は冗談交じりに「ロウソクの炎は燃え尽きる前に強くなる」と語ったことがある。一方、今年の春キャンプ初日には「この年になったら正直、1年1年というより1試合1試合という気持ちでやっています。でも、出来る限り長くやりたいという欲も出てきますから」と“引退”の2文字を意識しながらも、飽くなき現役意欲を語った。選考発表前に「決まってから聞きに来て下さい。たら、れば、の話はしたくない」と語る上原の肉声は正式発表後に待つとして、「最低でも5年はやりたい」と目標を掲げて海を渡った右腕が選出されれば、その快挙は、さぞ感慨深いことだろう。巨人時代は球宴の常連だったが、渡米後は夏の球宴期間中2度、故障者リストに入っている。選考に名前が初めて挙がったのは去年。6月中旬から抑えに任命されると、完成度の高いパフォーマンスが注目を集めて両リーグ各34人目の枠をネット投票で決めるファイナリストに名前を連ねた。残念ながら投票の結果、選考に漏れたが、今年はその夢舞台を至近距離に捉えている。

39歳という年齢で自らのパフォーマンスを更なるレベルに昇華させている上原のマウンド捌きは、豊熟したワインの趣がある。年月をかけてじっくりと醸された味わいは芳醇で力強い。野球の神様はミネソタ行きの切符を用意してくれるだろうか。

続報=7月6日(日本時間7日)、ア・リーグのファレル監督は、上原は選出された投手が前半戦最終日に登板するなど、球宴当日に投げられない場合の補欠と発表した。

フリーランス・スポーツライター

89年産經新聞社入社。サンケイスポーツ運動部に所属。五輪種目、テニス、ラグビーなど一般スポーツを担当後、96年から大リーグ、プロ野球を担当する。日本人大リーガーや阪神、オリックスなどを取材。2001年から拠点を米国に移し、05年フリーランスに転向。ボストン近郊在住。メジャーリーグの現場から、徒然なるままにホットな話題をお届けします。

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